白狼は森で恋を知る

かてきん

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第3章 白狼と最愛の人

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「明日の場所だ。お前の家の近くにしといたぞ。」

昨日の昼休み。
仕事の件と、祝賀会と称した飲み会の場所をガイアスに伝えに来た第4隊隊長。伝えられた場所はガイアスの屋敷から歩いて10分程度の場所にある高級感のある店だ。

「俺らで貸し切りにしといたからな。」
「ありがとうございます。」

いつもとは趣向の違う店に驚くが、第4隊隊長が言うには「王族のミア様を安い飲み屋なんかに連れていけるか!」ということらしい。

「個室だからな。店の人に遠慮せず安心していちゃついていいぞ。」
「いや、隊長達の前でもしませんよ。」

冷たく返すガイアスに「つまらん奴だな~!」と文句を垂れると、早々に部屋を出ていく。忙しいというのは本当らしく、明日来るようにしっかりと念を押すと、早足で自分の棟へと戻って行った。



「ガイアスおかえり~!」
「ミア、来てたのか。」

飲み会当日、ガイアスが屋敷に戻るとミアは既に来ており、他のメイド達と共にガイアスを玄関で出迎えた。両手を広げるミアにハグをすると、「ただいま」と言って荷物を置きに部屋へと上がる。



「ミア様、ガイアス様嬉しそうでしたね。」
「え、そう?」

メイドの1人が話しかけてくる。ミアにはいつもと同じように見えたが、周りから見ると違うようだ。

「ミア様にお出迎えされた時のガイアス様は、本当に幸せそうな顔をしていらっしゃいますわ。」
「そう見える?」

自分では分からないが、ガイアスが嬉しいと思ってくれているのかとミアは頬が緩んだ。
それからメイドの2人に明日の朝食の希望を聞かれ答えていたミアは、ガイアスに声を掛けられ後ろを振り向いた。出かける為に耳と尻尾を石の能力で隠し、準備ができたことを目で伝える。

「待たせたな、行こうか。」
「うん!」

「「いってらっしゃいませ。」」

メイドの2人に見送られ、ミアとガイアスは店のある場所へ歩いて向かった。





「ガイアス隊長~!」
「お疲れ様です!」

2人の元気な声がする。
道の向こうから手を振っているマックスと、隣でお辞儀をしているケニーは、途中の道まで迎えに来ていたようだ。ガイアスの姿を見つけると、2人の元へ走ってきた。

「ミア様、お久しぶりです。」
「ガイアス隊長の部下のケニーと申します。お会いできて光栄です。」

人好きのする笑顔でミアに頭を下げるケニーに、ミアは好印象を持った。店へと続く道中、ケニーがミアに「マックスがご迷惑を掛けてすみませんでした。」と、申し訳なさそうに言った。するとマックスが「その件は掘りかすんじゃねぇ!」と怒鳴る。
2人の兄弟のようなやりとりを、ミアはほのぼのとした気持ちで見ていた。



店に入ると奥の部屋へと案内される。ミアのことを考え個室にしてくれた配慮も有り難く、ガイアスは第4隊隊長に感心していたところだが、扉を開けて固まる。
全員揃って座っている隊員達はいつもの騒がしい雰囲気ではない。皆まるで葬式のようにシーンとしており、いつもの様子を知っているガイアスは不気味に思った。

「お疲れ様でーっス!ガイアス隊長とミア様お連れしたっスよ~!」

ミア達が店に入ったことに気づくと、全員もれなくバッと扉の方を見た。そしてお決まりの光景であるミアに見惚れる時間が始まった。慣れているガイアスは、静かに皆が正気に戻るのを待っている。

ぽーっとミアを見る隊員達に、「はいはい!挨拶くらいしましょうよー!」と手を叩きながら歯に着せぬ物言いをしたマックスは、ミア達に席を案内した。そしてマックスのその言葉に、全員ハッとしたように「ミア様お飲み物は…」「狭くはないですか?少し詰めましょう。」など、気を利かせて声を掛ける。その言葉は紳士的で、普段の彼らとはずいぶん違っている。

「さあさあガイアス隊長!挨拶お願いしまっス。」

ガイアスはマックスに促されるままに立ち上がる。

「本日は皆さんお忙しい中お集まりいただきありがとうございます。婚約の段階でこのような会を開いていただき恐縮です。ミア共々、今後ともよろしくお願いします。」

そう言って軽く頭を下げるガイアスに、他の自衛隊はパチパチと拍手を送っている。普段であれば「短いぞ~!」などの野次を飛ばして笑ってくる隊員達が静かに拍手をする姿は何とも言えず気味が悪い。

そしてグラスに注がれた飲み物が揃い、第4隊隊長が「乾杯」と声を出す。その声に皆もグラスを上げ、祝賀会が始まった。



「ミア、強い酒は飲むなよ。」
「どれならいい?」

飲み会が始まってすぐ、乾杯の際のシャンパンは大丈夫であると分かっているガイアスは、他に害のなさそうなものをいくつか教える。

「ん、じゃあ頼む時はガイアスに言うね。」

その様子を見ていたマックスが「あ、亭主関白だ~!」とガイアスを指さした。既に1杯目で気持ちよくなっているのか、普段以上にフランクな様子だ。
マックスはミアの飲む物にいちいち制限を設けるガイアスが厳しい夫に見えたようだ。

「ミアには身体に合わない酒がある。」
「そんなこと言って、酔ったミア様を見せたくないんっスね~!」

図星であり反論できずにいると、「可哀想なミア様…」と憐れむ顔をわざと見せ、ミアがそれに笑っている。

わいわいと楽しそうにミアと話すマックスを見ていた他の隊員達は、静かに紳士に徹しているのが馬鹿馬鹿しくなり、「やめだ」と言って、マックス達の輪に加わった。

「おい!ガイアス、ミア様の自由を奪ってるらしいな!」
「ミア様、こんな男で良いんですか?」

隊長達を筆頭に、他のメンバーもやいやいとガイアスに文句を言って笑っている。その様子に最初は驚いたミアだったが、すぐに笑顔を見せた。


それからは、皆が普段のガイアスの様子を大げさに伝えたりと楽しい会話が続いた。
皆の話を聞きながら、美味しい料理と酒を堪能していたミアがガイアスに耳打ちする。

「ガイアス愛されてるな!」
「そう見えるか?」

ガイアスは困ったような顔で返事をするが、ミアは「うん!」と嬉しそうに笑った。
今回、よく言えば明るく、悪く言えば大雑把な自衛隊の面々との飲み会に参加させるべきか少し悩んだが、連れてきて良かったと思う。ミアは今、隊長達から剣についての話を真剣に聞いており、気になる部分を質問している。




(やはり、連れて来るべきじゃなかったか…。)

ガイアスは少し後悔していた。
ミアには弱めの酒を注文していたが、気づかぬうちに気を利かせた第4隊隊長がミアの酒を勝手に注文していた。できるだけミアから目を離さないように気を付けていたガイアスだが、他の隊長達に声を掛けられれば無視はできない。そのまま仕事の話もされてしまい、つい真剣に答えてしまっていた。

やっとガイアスが周りを気にかけれるようになった頃、隣では「わ~!」と野太い声が上がりかなり盛り上がっていた。

「告白は俺からしたんだ!!」

ドヤ顔で言うミアに皆が「ミア様かっこいい~!」と拍手を送っている。
「例の公開キスもミア様からしてましたもんね~!」と冷やかした隊員にボンッと顔を赤くしてしなしなと小さくなるミア。皆がそれを見て笑っている。

「おい、飲みすぎだ。」
「あ…ガイアス。」

隣から腕を掴まれたミアは真っ赤な顔のまま振り返る。
ガイアスは水を手渡し、飲むよう促す。「分かった」と素直に飲むミアに、さっきまで囲んで楽しんでいた隊員達がぶーぶーと文句を言う。

「おい、いいだろ~!お前はいつもミア様と過ごせるんだから。」
「俺達はめったに会えないんだからな!」

煩い酔っ払いを無視し、ガイアスはコップを置いたミアの頬を撫でる。

「少し熱いな。大丈夫か?」
「う…うん、ちょっと騒いだからかな。」

掛けてある時計に目を向ける。時間は既に始まって3時間は経っており、ガイアスがそろそろ席を外そうかと考えていると、ミアが目を瞑って手に頬を摺り寄せてきた。

「ミア、どうした?」
「なんか…ガイアスが触ったから、」

それだけ言うと、少し熱を持った目でガイアスを見上げるミア。それは2人きりで「そういうこと」を始める前のような表情で、ガイアスは隠すようにフードを被せる。

「わっ、」
「ミア…酔っているだろう。」

ムッとした声で言うガイアスに、「ん、そうかも」と小さい声で伝えたミア。フードから覗く唇から発する声は少し艶っぽく、ガイアスは帰ろうかと提案する。コクッと頷いたミアに、ガイアスはミアに上着を着せ帰り支度をする。

「なんか、見ちゃいけないもん見てる気分っス。」
「本当だな。」

マックスと第4隊隊長がぼそっと感想を言い合う。さっきまでやいやい騒いでいたミアを囲む隊員達も、2人のやりとりに静かに顔を赤くしていた。


「では、すみませんが俺達はこれで。」
「ありがとうございました。」

ガイアスが帰る旨を伝え、ミアも今日の礼を言う。酔っ払い達が「また来てください」と声を掛け、ミアは嬉しそうに頷いていた。



2人が個室から出て店から出ていく音がすると、隊員達が騒ぎ出した。

「ガイアスの奴……すっげぇ羨ましいな!」
「なんであんなムッツリが良いんだ。」
「あ~ミア様、最高に可愛かった!」

皆思い思いに感想を述べている。そして、1人の隊員がボソッと言う。

「俺も恋人欲しいなぁ…」

その言葉に、独身の若い者達は皆こぞって首を縦に振る。
祝賀会であったはずの席は、そこから酔っ払い達による慰め合いの会へと変わった。理想のタイプの話から始まり、既に結婚しているメンバーによる経験談が語られたりと、その会は深夜遅くまで続いた。





「ミア、薦められるままに飲むな。」
「う~、ごめん。」

怒っているわけではないと頭を撫でると、その手を気持ち良さそうに受け入れている。
ミアの足取りはしっかりしていて、ただ顔が熱くなる程度酔っているようだ。少し外気で酔いを醒ました方が良いかと、ガイアスは歩いて家へと帰ろうとしたが、急に浮遊感を感じ目を閉じた。


目を開けると屋敷の玄関におり、音がしたことで出てきた執事に「おかえりなさいませ」と声を掛けられた。

「部屋へ戻られますか?」
「ああ、風呂を用意してくれないか?」

「かしこまりました」と言ってすぐに準備に向かう執事の後ろから、ミアを子どものように前に抱えて階段を上がっていく。

「ミア、具合でも悪くなったか?」
「…早く帰りたくて。」

疲れたのかと心配したガイアスだったが、予想外の返事が返ってきた。

「ガイアスが触ったから、俺も触りたくなった。」

そう言ってぎゅっと自分にくっついてくる小さな狼に、ガイアスは自分に余裕がなくなるのを感じる。
ミアを抱いて部屋へ入ると奥の寝室へと進み、その身体をベッドの上へ降ろす。そして膝をミアの足の間に差し込み見下ろした。

「風呂は後でいいか?」

ミアが火照った顔で頷いたのを確認すると、ガイアスは身体を屈めて赤い唇にキスをした。
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