白狼は森で恋を知る【完全版】

番外編・後日談

贈り物には気を付けて2*

「じゃあ、これってえっちな贈り物ってこと？」
「そういうことになるな」
　ミアは自分の寝間着の端を手で摘みながら、それに気付かなかったことを恥ずかしく思った。
　シーバ国の服は生地の薄いものが多く、寝る時となれば誰とも会わないので透けているデザインも多い。さすがにこれは薄すぎるとは思ったが、珍しい寝間着くらいに思っていたのだ。
「それを見た時は送り主に腹が立ったが、ミアが着ている姿を見て、興奮してしまった」
「そ、そうなの？」
　ガイアスの直接的な表現に、ミアは頬がカァアアと熱くなる。冷ますように手で風を顔に送りながらガイアスを見上げた。
「人間にとって、この服は良くないの？」
「俺の前だけならいい」
　ミアはガイアスの腕に頭をコテンとくっつける。
（じゃあ、あの変な形の道具もガイアスが買ったわけじゃないんだ……）
　同じ箱に入っていた棒状の道具の使い方について考えを巡らせていると、ガイアスが上ずった声で話し掛けてきた。
「続きを、してもいいか？」
「続き……あ、うん！」
　ミアは、さっきまでガイアスとそういう行為をしようとしていたのだと思い出し、慌てて返事をした。
　実はそのことをすっかり忘れ、何ならこのまま「解決したし、もう寝よっか！」と言ってしまいそうだった。
（俺って本当に子供だ……）
　ミアが若干落ち込んでいると、ガイアスが横から指でミアの顎を掬うように上を向かせる。
「いつものミアも良いが、この服もいやらしくて好きだ」
　ガイアスの言葉に、ミアはまた顔が熱くなった。
　そのまま質量のある舌が口内に差し込まれ、優しく舌を撫でていく。
「んっ……ふぁ、」
「脱がすぞ」
　ガイアスは、肩に掛かっていただけのガウンをスルッと落とすと、小さい身体をベッドに横たわらせる。
「ミアのこういう姿に興奮するなんて、やはり俺は変態かもしれない」
　眉を寄せて、頬を少し蒸気させてミアの身体を見ているガイアス。その表情に、ミアもドキドキとしてきた。

「や、んッ！」
　ずっと服の上から身体を触られているミアは、胸の先端を摘ままれて高い声を出した。
「服を着てるのに、全部見えてる」
「やぁ、もう脱がせてッ」
「駄目だ」
　すべすべした布が擦れて、いつもと違う感覚がする。これはこれで気持ちが良いのだが、舐められるのも、優しくスリスリと擦られるのも、ガイアスに直接触れられた方が何十倍も気持ちが良い。
　そして、手の甲で掠めるように自身の兆しを触られると、直接的な刺激を求めて腰が浮いた。
「脱がして、触ってぇ……」
「それは後でな。もう少し見ていたい」
　いつもミアの要望にはすぐに応えてくれるガイアス。
　しかし、今夜はいじわるなようで、さっきからミアのソコが反応しているのに気付いていながら、服の上から撫でるのみだ。
「勃ってるな」
「ぅッ……はぁ、もぉ出したい……ッ、」
　潤んだ瞳で見つめると、ガイアスは寝間着の中に手を入れ、下着の紐を解いた。
「下着も普段と違うな」
「だって、久しぶりだから……」
　結婚式の後、一応初夜となる二人の寝室には、いつものカジュアルな服ではなく、そういった行為に向いたデザインのものが置かれていた。寝巻も下着もすぐに脱げるように紐が付いており、それを引けばすぐに裸になる。
　それを見た時は二人で顔を見合わせたが、それ以来ミアの部屋にはそういった形状の下着が仲間入りした。
（新婚用ってことだろうけど……）
　今日もお泊りということで、張り切ってそれを着てきたのだが……そういうことをしたいというのが見え見えだと気付き、ミアはまた恥ずかしくなって顔を手で隠した。
　ミアが悶絶している間に、ガイアスはミアの下着を抜き取り、満足そうにその身体を見る。
「脱がしたから、触るぞ」
「あ、違……っ、」
（寝巻きも全部脱がせてって意味だったのに！）
　ミアは言葉足らずだったと思い、訂正しようと慌てて声を出す。
「全部ッ、」
「ああ、全部触るからな」
　そう言って目を細めたガイアスは、ミアの胸の先端を両手でギュッと摘まんだ。
「やぁぁ、やめッ……」
「こっちが良かったか？」
　ガイアスが手を下へ持っていく。ミアの昂ぶりを手の平で包むと、ソレをお腹の方へくっつくようにして下から擦り上げた。
「はぁ、あッ、んんっ……！」
「ここが好きだろう」
　ガイアスは裏筋に指を添えてこすこすと動かし、同時に先端にも指を添える。
「あ、あ、駄目……も、脱がして、」
「もう少ししたらな」
「違……ッ、でちゃうから、でるぅ……ッ」
「出していいぞ」
　ミアは身体をビクビクとさせながら限界だと訴えるが、ガイアスはそのまま小さな竿を擦り続ける。
　あ、あ、と矯正を漏らしながら、ミアが「やだぁッ」と泣き声を出してすぐ……
「あぁぁ……ッ！」
　ビュクッと先端から白いモノを出し、ミアが果てた。ガイアスはその様子を上から見下ろす。
　汗で身体に張り付いた服から覗く胸の飾りは赤くなっている。下半身にはミアの白濁が広がり、彼の残滓がどう飛び散ったのか一目で分かった。
　ガイアスがその痴態を見てゆっくり胸を上下させていると、ミアが顔を両手で隠した。
「うう、……ッう、」
「ミア、どうした？」
　ミアが泣いているのだと分かり、ガイアスはその顔を覗き込む。
「やだぁ……」
　顔を覆っている腕を優しく掴んで退けると、ミアが目を瞑った。目からは大粒の涙が落ちていき、ガイアスは焦ってその目元にキスを落とす。
「嫌だったか？」
「服の中で……出しちゃった。これプレゼントなのにぃ」
「いや、俺がそうさせたんだ。泣かなくていい」
「汚してごめん、うぅ……ッ、」
「これはそういうことに使うものだから、汚れても気にしなくていい」
「……そうなの？」
「ああ」
　ミアは贈り物を汚してしまったことと、服の中で果てた罪悪感で泣いてしまった。ガイアスは自分の欲のままに行動したことに反省し涙を指で拭う。
「止められなくて、すまない」
「俺……ガイアスに直接触って欲しかった」
「ミア」
　泣いてしまった理由はもう一つあった。
「俺、ガイアスの手が好きだから、直接触ってもらって、イきたかった」
「そうだったのか」
　ミアが照れ臭くなりながらそう言うと、ガイアスが眉を下げて微笑んだ。
「次は、ちゃんと触って」
「もちろんだ」
　ガイアスはミアの薄い寝間着を脱がせる。
「たくさんミアを触らせてくれ」
　目尻に溜まった涙をちゅっと吸い、露わになった身体に手を伸ばした。

「これ、洗濯に出すの？」
「いや、これを洗わせるのは気が引けるな」
　朝日が差し込むベッドの中、ミアとガイアスは昨日の汚れた寝間着をどうするか話し合っていた。
「俺が洗おう」
「や、やだ！　俺のが付いてるから自分で洗う！」
　ミアは、自分の残滓が付いた寝間着をガイアスに洗われたくない一心で必死に抵抗した。結局、ミアが持ち帰って洗うということになり、それは一旦袋の中に詰められた。
「あ、そうだ！　これも返しとかないと」
　ミアは隠していた謎の道具の存在を思い出し、ベッドサイドの棚を開ける。ガイアスは何のことか分からず、黙ってミアの様子を見ていた。
「これ」
「ミア、それは、」
　ガイアスが慌ててミアの両手から卑猥な形をしている玩具を取り上げる。
「これって何に使うの？　寝間着と関係ある？」
「これを使う日は来ない。知らなくていい」
「……ふーん」
　ミアはガイアスの返答に納得していなかったが、素直に分かったと言って頷いた。ガイアスはホッとした表情で、この道具に関しては忘れるよう言った。
「今日はどうする？」
「森で昼食を食べないか？　その後は剣を振ってもいいし、そのまま休んでもいい」
「いいね！　バンチョスさんにお弁当頼まないと！」
　ミアは久々に料理長の弁当が食べれるとあってワクワクしており、今からでも調理場に行きそうな勢いだ。
　ガイアスはそんなミアを愛おしく思いながら、その身体に腕を回す。
「まだ昼まで時間がある。もう少しこうしていたい」
　ガイアスがミアを布団ごと抱きしめる。
「お、俺も」
　ミアはガイアスの甘えた様子にドキドキしながらも、愛しい男の体温を感じながら、フフッと笑った。


「ミア様、少しお話があるのですが」
「ん？　何？」
　イリヤとの約束通り、ガイアスの屋敷で夕食を取った後、すぐにシーバ国の宮殿に戻っていたミア。剣を磨きながら低い声で話しかけてきたイリヤに返事をする。
「これの説明をお願いします」
「これ？」
　ミアが振り向いて『これ』とは何かを確認すると、イリヤはガイアスの部屋から持ち帰った袋を持っていた。中には、自分の出したモノで汚れた寝間着と、得体の知れない道具が入っている。
　実は、ガイアスに見せた二つの道具は没収されたものの、もう一つ隠しておいた分が棚の中に残っており、こっそり持ち帰ったのだ。
「わッ、イリヤ！　中見たの⁈」
「見たから聞いているんでしょう」
　ミアの部屋で愛し合った後のベッドの片付けはイリヤがしているが、汚した寝間着を見られるのは、かなり恥ずかしい。
「あの、それは俺が洗うから置いといて」
「寝間着はどうでもいいんです。私が言っているのは、これですよ」
　手に持っているのは、変に曲がった棒のような道具だ。
「ああ、ちょうどイリヤに聞こうと思ってたんだ。これ、どうやって使うの？」
「え……使っていないんですか？」
「使い方が分からないから、持って帰ったんだ。イリヤは知ってる？」
「ガイアス様にはお尋ねになりましたか？」
「聞いたけど、知らなくていいって言われて……誰かがガイアスにプレゼントしたみたいなんだ」
　ミアが期待の籠もった目でイリヤを見る。イリヤは溜息をつくと、これがどう使うものであるか事細かに説明した。

「……という風に使用します」
「な、なるほど」
　まさかこの太い棒は入れるためにあるのだとは知らず、驚くミア。
「なんでこんな物が存在するの？　だってその、ガイアスがいれば……必要なくない？」
「そういった嗜好の方もいらっしゃいます。そうでなくてもいろんな事情で必要な方から需要がありますので」
　ミアは太く大きな棒を見て不思議な気持ちになる。
「ガイアスは、これを使う日は来ないって言ってたよ」
「でしたら良かったです」
「使ったって言ったら、どうするつもりだったの？」
「陛下とカルバン殿下に報告し、ガイアス様はこの国の法により罰せられます」
「え……？」
　目を丸くするミアに構わず、イリヤはなぜ罰を与えられるのか説明を始めた。
　狼は生涯番を大事にするのが普通で、愛し合う行為である性交の場合には、決められたルールがいくつかある。
　そのうち、道具を使っての行為は、繋がって愛し合うという定義から外れる為、この国ではそれ自体の製造が禁止されているという。
　勃起不全等の理由がある場合は良しとされているが、滅多に流通しない。そして、もし王族であるミアにガイアスが禁止されている道具を使ったとなれば……
「誓って使ってないよ！」
「安心しました。では、こちらで処分します」
　イリヤは大人の玩具を石の力でパッと消した。
「前に本を渡したでしょう。あれにもしっかりと書いてありましたよ」
「え、そうなの？」
　イリヤが以前用意した性交の方法に関する本。ミアは、とりあえずガイアスとそういう行為をしたい気持ちだけが先走り、その中の注意事項を飛ばして読んでいた。
（ガイアスの為にも、勉強し直そう）
　今後、このようなことで自分達が別れることになっては笑えない。
　ミアはあの本をもう一度熟読しようと心に決めた。