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番外編・後日談

贈り物には気を付けて1

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 シーバ国で行われたミアとガイアスの結婚お披露目式から三日が経った。
『王族の狼が人間の男と結婚』
 そのニュースは瞬く間に広がり、ミアは各地から送られてくるお祝いの品や手紙の処理に追われていた。
「おかげで、全然ガイアスと会えてない」
 ミアが贈り物で溢れかえった部屋の真ん中で呟くと、従者であるイリヤが呆れた声を出した。
「あと数日頑張ったら、いくらでも会って良いと言ってるでしょうが」
「俺達新婚なんだよ? 少しも離れていたくないの分かるでしょ?」
 新婚であるミア達が甘い蜜月を過ごしていると思っているのか、贈り物は新婚生活に必要な家具や雑貨。
 お揃いの寝巻や香など、寝室で使うような物まである。
「一緒に使いたくても使えないんだから……」
 ミアは開けた箱に入っていた揃いの枕を見て、送り主の名前を帳簿に記入する。
「あのさ、これって俺がしなくてもいいんじゃないの?」
「駄目ですよ。ここにある物はラタタ家に関係のある方の物ばかり。今後のパーティーでお会いした時には礼をしなくてはなりません。きちんと把握して下さい」
「……はぁい」
 ミアは溜息交じりに返事をした。
(ガイアスも今頃忙しいのかな)
「も~、ガイアスに会いたいよ~……」
 結婚したばかりの愛しい夫の顔を思い浮かべながら、ミアはポツリと呟いた。

 ◇◇◇

「ガイアス様。仕分けは全て終わっておりますので、あとは中身のご確認だけお願いします」
「分かった」
 ガイアスは、使用人達が分けた贈り物の中身を黙々と確認する。
 自分達にとっては、『愛する者と結婚しただけ』という認識だが、王族であるミアと人間であるガイアスが結婚するということは、世間にとっては大ニュースだ。
 サバル国のジハード王による計らいで、ガイアスとミアの結婚は、サバル国の自衛隊内のみでしか公表されなかった。しかし逆に言えば、自衛隊に所属する全員がミアとの関係を知っているということになる。
(ミアは自衛隊の訓練所にまた来たがっていたし、混乱を避ける為にはしかたないが……)
 また、サバル国でのミアのお披露目式で、多くのサバル国民はミアの顔を知った。
 ジハード王によって、ミア達の存在に気付いても取り立てて騒ぐことのないようにとお達しがあったが、それでもガイアスに連絡をしてくる者が今後現れるだろう。
 これからそういった者達への対応で忙しくなることを考えると、今はミアとゆっくり過ごしたいという気持ちが大きくなる。
(式以来、ミアに会えていないな……)
 早くあの白い耳や尻尾に癒されたいと思いつつ、ガイアスは無造作に手に取った箱の一つを開ける。
 その中身を見て、こめかみをピクッと動かした。
「なんだこれは」
 自分でも驚く程の低い声が出る。箱の中には、明らかにミアのサイズで作られた透けた寝間着が入っていた。
「きゃあッ!」
「どうした」
 ロナウドと一緒にプレゼントを仕分けていたカミラが短い悲鳴を上げた。近寄ると、床にはグロテスクな形の大人の玩具。メイドは顔を赤らめながらそれを拾うと、『卑猥ボックス』へ入れた。
(この箱は……)
 名前からして不愉快だが、その箱には既に何個かの贈り物が入っている。
 下世話な自衛隊員達は冗談のつもりでこれらを贈ったのだろうが、ガイアスは自分のミアが汚されたような気分になった。
 それら全ての差出人の名前を確認するとメモに記帳する。
 今後ミアに失礼なことをしないよう、きちんと釘を刺しておくことにした。

 ◇◇◇

「本当にサバルに行ってもいいの?」
 仕分け作業を始めて二日が経ち、シーバ国の王宮では、ミアがイリヤに何度も確認をしていた。
 全ての贈り物と手紙を確認したミアは、イリヤと約束した日より少し早く外出の許可を貰ったのだ。
「はい。何なら泊まってきても良いですよ」
「イリヤ、ありがとう!」
 ミアが涙目でイリヤに感謝を伝える。
「……素直で気持ちが悪いですね」
「疲れて頭がおかしくなってるのかも」
「早くサバルに行かれた方が良いんじゃないですか? 先程カルバン様にミア様の贈り物の仕分けが終了したことをお伝えしたので、部屋に来られるかもしれませんよ」
「げっ、行ってきます! 明日帰ってくるね!」
 ミアは慌てて自分の腕輪を掴む。
「何時になるか、きちんと連絡して下さいね!」
 イリヤの声を無視し、ミアはワクワクしながら転移した。

「あれ? いないのかな」
 ミアは伴侶に早く会いたいと思い、ガイアスの部屋へ直接転移した。
 しかし、中はシンとしており、誰もいる気配が無い。
 仕事だろうか……と部屋をうろうろしていると、寝室に開いたままの大きな箱があることに気付いた。
 ミアはそれを覗いてみる。中には大小様々な棒状の物、そして大きいパールが連なった物が何個かあった。
「これ、何に使うんだろ。あ、こっちは服かな?」
 大きさは自分にピッタリだが、いつもミアが着ているものより薄く、光にかざすと透けて向こうが見える。
(ガイアスが買ったのかな?)
 ガイアスは、ミアの服装に関して何かを意見したことはない。しかし、わざわざ用意していることから、この服を着て欲しいのだと分かった。
(今夜はこれを着てガイアスと寝よう)
 ミアはその寝間着と、何個か使い道の分からない道具を手に取ると、お風呂上りに身に着けるためにそれらを脱衣所に隠した。
 箱はそのままに、ミアは部屋を出て階段を降りていく。
「ミア様、お帰りなさいませ」
 足音に気付いたロナウドが、ミアに挨拶をした。
「ロナウドさん、ただいま!」
(『お帰りなさい』って……なんか嬉しいな)
 執事の言葉に、自分がこの家の一員になったのだと改めて実感し、ミアは頬が緩んだ。
「ガイアスは出掛けてるの?」
「ガイアス様は今、自衛隊の本部で御礼回りをしておられます。夕方戻ると伺っておりますが」
「じゃあ、調理場使っていい? 新しい料理覚えたんだ」
「それはガイアス様もお喜びになるでしょう。今夜はこちらでお休みになられますか?」
「うん! 明日の夜までいるよ」
「かしこまりました」
 ロナウドはミアを調理場まで案内した。

 ロナウドの言っていた通り、夕方になるとガイアスが屋敷に帰ってきた。
 ガイアスはミアの存在に気付いていない。
「ガイアス!」
 驚かせるため、手荷物を執事に渡しているガイアスに向かって大きな声を出した。
「ミア?」
 玄関近くの応接室に隠れていたミアは、扉から顔だけを覗かせて笑う。
「びっくりした?」
「ああ。ミア、おいで」
 ガイアスは微笑み、ミアはタターッと走ってその大きな胸に飛び込んだ。
「まだ会えないと思っていたから、本当に驚いた」
「へへ、早く会いたくて頑張ったんだ」
「ありがとう」
 ガイアスはそう言って、ちゅ、ちゅ、と両頬にキスを落とす。後ろではメイドの二人が「素敵です」と呟き手を取り合っていた。
「ご飯食べる? もう準備できてるよ」
「着替えてくるから、先に食堂にいてくれ」
「はーい」
 ミアが手を挙げて答えると、ガイアスはよしよしと頭を撫でて、階段を上がっていった。

 食堂でガイアスを待っていると、少し焦った顔をしたガイアスがミアの隣に座った。そして、他の者に聞こえないようにコソッと耳打ちしてくる。
「ミア、今日二階へ上がったか?」
(二階? 転移した時にいただけで、それからは上がってないけど……)
「ううん、ずっと一階にいたよ」
「そうか」
 何を焦っているのか分からずミアがキョトンとしていると、ガイアスはホッとしたように頭を撫でた。

「こちらはミア様がお作りになられました」
 レジーナが料理を二人の真ん中に運ぶ。
「ミアが作ったのか?」
「うん。簡単なやつだけど」
「美味しそうだ。これを一番に食べたい」
 ガイアスは、ミアの作ったチキンのグリルを見て驚いていた。以前、外食の時に好きだと言っていたチーズソースも完璧に再現されている。
 ガイアスは早速それを取り分けると口に運んだ。
「凄く美味しい。全部食べていいか?」
「うん、食べて食べて!」
 ガイアスに褒められ、ミアは得意顔でフフッと笑った。

(うーん、やっぱり下着が丸見えだよね……)
 今、ミアは脱衣所の鏡の前で、透けた寝間着を着た自分を見ていた。それは袖を通すとさらに透けて見え、着ている意味があるのか分からなくなる。
(まあ、これでガイアスが喜ぶなら)
 ミアは長袖の上着に異様に短いズボンという恰好を不思議に思いながら、サプライズの為にその上からガウンを羽織ってしっかりと前を留めた。そして内側のポケットに謎の道具を入れて部屋へと戻った。
「ガイアス、お待たせ」
「俺もすぐ入る。ミア、寝ずに待っていてくれ」
 ミアの湿った髪を優しく撫でると、ガイアスは脱衣所へ向かった。
(ふぅ~……バレてないみたい)
 今日、いつも通り一緒に風呂に行こうとしたガイアスに、別々に入ろうと提案したミア。
 二人で風呂に入るのが好きなミアがそのような事を言うなんて……と、ガイアスは理由を尋ねた。
 言い訳を用意していなかったミアだったが、今日はシャワーだけにして早くガイアスとベッドに行きたいと咄嗟に口にした。
 言った後で頬が熱くなったミアに、ガイアスは目を細めて嬉しそうに頷いた。
『寝ずに待っていてくれ』
 今言われたばかりのガイアスの言葉は、ベッドで行為をするという宣言に聞こえ、ミアの頭は沸騰しそうだった。お披露目式以来の触れ合いに、ミアも期待しながら寝室へ向かった。


「ミア、寝たのか?」
 まどろみの中で聞こえてくる声にミアが目を開けると、ガイアスがベッドの端に腰掛けて見下ろしていた。
「ね、寝てない。ちょっとうとうとしてただけ」
「はは、忙しかったから疲れが出たんだろう。このまま寝てもいいぞ」
「えっ、駄目!」
 ガイアスは気遣いの気持ちを込めてそう言うが、ミアはその言葉にガバッと起き上がった。
(えっと、あれからベッド行って、棚に棒みたいなのを隠して……寝巻は? ……良かった。はだけてない)
 ミアは自分の胸元の合わせがきっちりと首元で留められているのを確認し、ホッと息をついた。
「ミア、いいのか?」
「うん」
 ガイアスが熱を含んだ瞳で見つめる。ミアは布団から出て座っているガイアスの足に跨った。
 ちゅ……見上げてその顎にキスをする。
「ガイアス、もうちょっと下向いて」
「こうか?」
「そのままでいてね」
 ミアはガイアスの頬に手を添えると、下から見上げるようにガイアスに口付けた。

「んぅ、ふっ……、」
「ミア、」
「あ……っ」
 夢中で下からキスをしていたが、ガイアスがミアを抱えてベッドに寝かせた。そして上から覆いかぶさると、さっきまでは届かなかった奥まで舌を差し込む。
「んんッ、…ん、はぁ……」
「可愛い、ミア、」
 ガイアスはミアの首元をスッと手で撫でると、ガウンの前の合わせに手を入れた。
「……ミア?」
 深いキスに集中していたミアは、低い声に目を開ける。ガイアスはいつの間にかガウンの腰ひもを抜き取っていた。はだけて出てきた寝間着を見て、固まっている。
(びっくりしたかな?)
 ミアはいたずらが成功した気分で、フフッと笑う。
「これ、用意してたでしょ?着てみたんだけど、」
「……」
 ガイアスは何も言わない。部屋はシンとした空気に包まれた。
(あれ?……喜んでない)
 ミアは予想とは違った反応に、どうするべきか分からずもじもじとした。
「あの、嬉しくない?」
「いや……これをどこで?」
 ガイアスはミアの胸元を凝視しながら驚いている。
 ミアはその言葉と様子から、これはガイアスが準備したものではないと気が付いた。慌ててガウンの前を合わせると、そそくさと身体の下から抜け出す。
(もしかしたら、シュラウドさんか誰かが冗談で送ってきたのかも!)
「俺、勘違いしたみたい! 脱いでくるから待ってて!」
「ま、待ってくれ!」
 ミアがベッドから降りようとすると、その手を後ろから掴まれた。
「脱がないでくれ」
「そのままでいい。ただ、自分が情けなくなっただけだ」
 ミアは言葉の意味が分からない。
 ガイアスは咳払いをするとミアの隣に座り、この寝間着を部屋に置いていた経緯を教えた。
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