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 こちらに背を向けたままで、勇者はぼそりとつぶやいた。
「それで、名前は?」
 急にたずねてきた。
 名前?
 名前って何だ?
 そうだ、自分のことを呼ぶ言葉だ。
 わからない。覚えていない。
 自分のことを、誰が、なんて呼んでいたか、それも思い出せない。
「俺はユウジン。あんたの名前を教えろ」

 自分は、この広場に群がり集まるその他大勢の一人だ。
 勇者のように、名前を持って、役割を持って、互いに呼び合って、力を合わせたり、世界に働きかけたりするものではない。
「なんとでも……」
 自分はどんな表情をしていたんだろう。
「なんとでも呼んでくれ」
 考えていることとは無関係に、ほとんど自動的に口が動いた。
「名もない村人のひとりだ」
 
(一旦終わり)
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