7 / 15
花瓶
しおりを挟む
「面倒見がよくてやさしくて、マコトくんが膝をすりむいたときは、小さなポーチに入っていたバンソウコウを貼ってくれましたね。アスカイくんも、半年前から病気で学校を休んでいたのは覚えているでしょう。つい二週間前、亡くなったと連絡がありました。マコトくんには知らせていませんでしたね」
キムラ先生の目が宙を泳いでいます。
「ちょうど同じ頃、キザワケイイチくんも亡くなっています。彼はマコトくんがこの学校に来る前から休んでいました。キリュウさんと同じ五年生でした」
マコトくんは、じっと椅子に座って先生の言葉を聞いています。
「ニキカイトくん。マコトくんとちょうど入れ違いで二年前に学校を去った生徒です。彼は病気ではなかったので、先生も詳しい事情はわかりませんでした」
先生が自分に向かって話しているのかどうかも、よくわからなくなりました。
「イイオカサダミチくん、コマエダマリナさん、シテンジユミカさん、ナツミヒデオくん、カガイテツロウくん、ノノイレナさん……」
先生は、廊下の方に目をやりました。
「不思議なものですね。皆があの扉から入る時の姿が、目に浮かびます。先生が受け持った生徒は、全部で十五人でした。それぞれの机の上に花瓶を飾っています」
そう言いながら、机ひとつひとつに目を移していきます。
それぞれ色も形も違う花瓶に一本ずつさしてあるマーガレットは、マコトくんも手伝って、一週間前に花壇からつんできたものです。
「マコトくん、いつも花をさすのを手伝ってくれてありがとう」
先生は、やっとマコトくんの方を見てくれました。よくわからないけれど、なんだか少しほっとしました。
「あれから、この学校の生徒はマコトくんひとりです」
たしかに、三学期の間は、ずっとキムラ先生とふたりきりの授業だったので、退屈な授業がさらにつまらなく感じるようになりました。
先生はにっこり笑い、言葉を続けました。
キムラ先生の目が宙を泳いでいます。
「ちょうど同じ頃、キザワケイイチくんも亡くなっています。彼はマコトくんがこの学校に来る前から休んでいました。キリュウさんと同じ五年生でした」
マコトくんは、じっと椅子に座って先生の言葉を聞いています。
「ニキカイトくん。マコトくんとちょうど入れ違いで二年前に学校を去った生徒です。彼は病気ではなかったので、先生も詳しい事情はわかりませんでした」
先生が自分に向かって話しているのかどうかも、よくわからなくなりました。
「イイオカサダミチくん、コマエダマリナさん、シテンジユミカさん、ナツミヒデオくん、カガイテツロウくん、ノノイレナさん……」
先生は、廊下の方に目をやりました。
「不思議なものですね。皆があの扉から入る時の姿が、目に浮かびます。先生が受け持った生徒は、全部で十五人でした。それぞれの机の上に花瓶を飾っています」
そう言いながら、机ひとつひとつに目を移していきます。
それぞれ色も形も違う花瓶に一本ずつさしてあるマーガレットは、マコトくんも手伝って、一週間前に花壇からつんできたものです。
「マコトくん、いつも花をさすのを手伝ってくれてありがとう」
先生は、やっとマコトくんの方を見てくれました。よくわからないけれど、なんだか少しほっとしました。
「あれから、この学校の生徒はマコトくんひとりです」
たしかに、三学期の間は、ずっとキムラ先生とふたりきりの授業だったので、退屈な授業がさらにつまらなく感じるようになりました。
先生はにっこり笑い、言葉を続けました。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
スグルとサエコと廃墟と宝物の夏
安岐ルオウ
SF
ほんの少し先の未来、ゆるやかに終る世界で、人はどんな風にひと夏の想い出を紡ぐのでしょう。
スグルは、入道雲の下で陽射しを浴びながら、今日も友だちのサエコと一緒に、ゆっくりと滅びていく街を探検する。廃屋に魅せられたスグルは、打ち捨てられた家に忍び込んでは、サエコが止めるのも聞かずに残されたものを拾い集め、そして……。
すべてが失われ衰えていく中にも、きっと日々の喜びや幸せは残っている。そんな想いを物語にしました。
サイバーパンクの日常
いのうえもろ
SF
サイバーパンクな世界の日常を書いています。
派手なアクションもどんでん返しもない、サイバーパンクな世界ならではの日常。
楽しめたところがあったら、感想お願いします。
銀河辺境オセロット王国
kashiwagura
SF
少年“ソウヤ”と“ジヨウ”、“クロー”、少女“レイファ”は銀河系辺縁の大シラン帝国の3等級臣民である。4人は、大シラン帝国本星の衛星軌道上の人工衛星“絶対守護”で暮らしていた。
4人は3等級臣民街の大型ゲームセンターに集合した。人型兵器を操縦するチーム対戦型ネットワークゲーム大会の決勝戦に臨むためだった
4人以下のチームで出場できる大会にソウヤとジヨウ、クローの男3人で出場し、初回大会から3回連続で決勝進出していたが、優勝できなかった。
今回は、ジヨウの妹“レイファ”を加えて、4人で出場し、見事に優勝を手にしたのだった。
しかし、優勝者に待っていたのは、帝国軍への徴兵だった。見えない艦隊“幻影艦隊”との戦争に疲弊していた帝国は即戦力を求めて、賞金を餌にして才能のある若者を探し出していたのだ。
幻影艦隊は電磁波、つまり光と反応しない物質ダークマターの暗黒種族が帝国に侵攻してきていた。
徴兵され、人型兵器のパイロットとして戦争に身を投じることになった4人だった。
しかし、それはある意味幸運であった。
以前からソウヤたち男3人は、隣国オセロット王国への亡命したいと考えていたのだ。そして軍隊に所属していれば、いずれチャンスが訪れるはずだからだ。
初陣はオセロット王国の軍事先端研究所の襲撃。そこで4人に、一生を左右する出会いが待っていた。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
15分で時間が解決してくれる桃源郷
世にも奇妙な世紀末暮らし
SF
住まいから15分で車を使わず徒歩と自転車または公共交通手段で生活、仕事、教育、医療、趣味(娯楽)、スポーツなどを日常における行動機能にアクセスできる都市生活モデル。そして堅実なセキュリティに広大なデジタルネットワーク。それを人々は「15分都市」と呼んだ。しかし、そんな理想的で楽園のように思われた裏側にはとんでもない恐ろしい内容が隠されていた。
宇宙を渡る声 大地に満ちる歌
広海智
SF
九年前にUPOと呼ばれる病原体が発生し、一年間封鎖されて多くの死者を出した惑星サン・マルティン。その地表を移動する基地に勤務する二十一歳の石一信(ソク・イルシン)は、親友で同じ部隊のヴァシリとともに、精神感応科兵が赴任してくることを噂で聞く。精神感応科兵を嫌うイルシンがぼやいているところへ現れた十五歳の葛木夕(カヅラキ・ユウ)は、その精神感応科兵で、しかもサン・マルティン封鎖を生き延びた過去を持っていた。ユウが赴任してきたのは、基地に出る「幽霊」対策であった。
日本国転生
北乃大空
SF
女神ガイアは神族と呼ばれる宇宙管理者であり、地球を含む太陽系を管理して人類の歴史を見守ってきた。
或る日、ガイアは地球上の人類未来についてのシミュレーションを実施し、その結果は22世紀まで確実に人類が滅亡するシナリオで、何度実施しても滅亡する確率は99.999%であった。
ガイアは人類滅亡シミュレーション結果を中央管理局に提出、事態を重くみた中央管理局はガイアに人類滅亡の回避指令を出した。
その指令内容は地球人類の歴史改変で、現代地球とは別のパラレルワールド上に存在するもう一つの地球に干渉して歴史改変するものであった。
ガイアが取った歴史改変方法は、国家丸ごと転移するもので転移する国家は何と現代日本であり、その転移先は太平洋戦争開戦1年前の日本で、そこに国土ごと上書きするというものであった。
その転移先で日本が世界各国と開戦し、そこで起こる様々な出来事を超人的な能力を持つ女神と天使達の手助けで日本が覇権国家になり、人類滅亡を回避させて行くのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる