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北の遺跡 9

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「じゃあ、お手合わせお願いします」、カレンは仕合前の礼をした。

「手加減しないから、覚悟しろよ、カレン」と、素手のクリスが向かって来る。

 両手を上にかざした彼は、神剣を出しそのままカレンの頭上で振り下ろした。

 聖剣でクリスの神剣を受けたカレンは、押しつぶされそうになる衝撃に足を踏ん張り耐える。

「ふ、ふんぐぅ、もう、馬鹿力なんだから!」

 鍔迫り合いをしながら、両者は睨み合った。

「力で踏ん張るだけじゃあ、ダメだぞ」と、力を抜いたクリスはカレンの力を受け流す。

 神剣の刃の上をバチバチ火花を散らし聖剣がすべり落ちる。

 聖剣の向きを変えようと、カレンは腕に力を入れたが、そのまま床に滑り落ちてしまった。反撃しようと振り向いたカレンに、クリスは肩を前にしてタックルした。

「アガッ・・・、ふざけないで!」、吹っ飛ばされたカレンは聖剣を杖にして立ち上がった。

 余裕を見せるクリスに彼女が切りかかると、案の状、横に避ける素振りを見せたので、すかさず彼女は膝蹴りをクリスの疎かになった腹に入れた。

「チッ、やるじゃないか、もっと本気見せろよ」

 クリスの挑発に関係無く、単純にこのまま戦っても勝てないと見たカレンは、真っ赤な炎に身を包み、聖剣の力、剣技を出す。

「後悔しても知らないから、剣技! 迦楼羅乱舞【改】」

 腕を前に伸ばし聖剣を縦にしたカレンは、横に分裂して三人になった。

「なんだ、それ。カレンが三人! そんなの反則じゃないか」

 分身したカレンは、三方からクリスに飛び掛かった。

 左から切りかかって来たカレンを神剣で切ると消え、振り向きざまに右から来たカレンも切ったら消えた。

「甘いな、それなら真正面のお前が本物だ!」と、クリスは自信たっぷりに神剣を振り下ろした。

「ふっ、クリス、隙あり!」

 正面に居たはずのカレンが消え、クリスの後ろから彼女の声が聞こえた。慌てて振り向く彼は、手加減を忘れ神剣を横に振り抜いた。

「くっ、まだまだなのかな」と、神剣に切られたカレンの右腕から血が流れた。

 いつものクリスなら、少し間合いを取るはずだと思っていたのに。何かが変だ、目の前の彼は、いつもと違う攻撃をして来る。

「躊躇したら命とりだよ! どうするんだい、カレン」、マテーナが声を掛けた。

「なんなのよ、もう。どうなっても知らないから」

 クリスの攻撃を必死に紙一重で避けるが、神剣の切っ先がカレンの皮膚をかすめていく。防具の無い腕や太ももを狙っているのか、切り傷が増えて行く。

「いい加減、降参しろ、カレン」

 顔面を狙ってクリスは、神剣を突いて来た。狂気じみた表情、いつもと違う殺気だった瞳、彼はクリスじゃない。

 カレンがそう感じた瞬間、クリスの動きがスローになった。彼の動きが鈍くなったのではない、相手の正体を見抜いたカレンに、何かが覚醒したのだ。

「私の旦那様は、お前みたいな狂人じゃないのよ!」

 真剣がカレンの頬をかすめツウ―と、彼女の頬から血が流れた。
 神剣を床に落としたクリスは、胸を貫く聖剣の刃を握った。

「俺は、本物だ! 分からないのか」

 この期に及んでまだ偽るのかと、呆れたカレンはクリスに顔を近づけ耳元で囁いた。

「失せるのよ、偽物!」、クリスだったはずの男は、チリとなって床に積もった。

「お見事よ! カレン、精神面の試験は合格ね。でも、良く正体を見破ったわね」

「当たり前です! 私の知るクリスは、あんな間抜けな事はしません」

「間抜けな事? なんか変なところあったかしら」

「ふっ、最後に見せた表情です。彼は、どんな敵を前にしても絶対にあんな表情はしません。いくら強くても、彼は狂っている訳じゃないんですよ、女神様」

「まあ、良いけど。これ以上聞いたら、のろけ話をしそうだしね。じゃあ、最後は私がお相手するわね」、そう話すマテーナは、床に付き刺していた剣を引き抜いた。

「えっ、終わりじゃないの? しかも女神様が相手なの」

「そうよ、私が直接剣を交えてあなたの実力を見るの。この方が分かりやすいでしょ」

 女神マテーナは片手で剣を持ち上げると肩で担ぎ、小さな体をジグザグに動きながらスピードを上げて近づいて来た。

 目前に迫りくるマテーナを向かい討とうと、カレンは聖剣を突きだした。

 聖剣が届く前にマテーナの姿は消え、頭上に殺気を感じたカレンが見上げると、ニヤリとしたマテーナが剣を振り下ろしてきた。

床を転がりマテーナの攻撃をカレンは避けた。すかさず、カレンは跪いた状態で聖剣を横に振り炎の刃を放った。

「おーっと、足を狙って来るとは上等ね」、ぴょんと飛び上がり炎を避けた。

 立ち上がったカレンに反撃する機会を与えまいと、マテーナは瞬間移動しカレンの目の前に現れる。瞬間的に移動してきた女神の攻撃をカレンは、防ぐだけで精一杯だった。

 連続して繰り出される斬撃は、早くて重い。まるでハンマーで打ちつけられる様な攻撃を何とか聖剣でさばくが、手の痺れで握力が低下しさばききれなくなった。

二人の間で、ガッギ、・・・キィーンと、何かを破壊する音と剣が重なり合う音が鳴り響いた。

 後ろに退き足を止めたマテーナは、嬉しそうにカレンを眺めながらカウントダウンを口ずさみ、何かを待っていた。

「・・・3、2、1、0」

意味の分からない行動を取る女神に、カレンは聖剣を下段に構えて反撃に出ようとした時、胸当てがストンと床に落ちた。

「えっ、どうして、胸当てが壊れた?」

「サービスターイム! さあ、さあ、私を楽しませて頂戴」

 ドーンと、ロケットダッシュでスタートを決めたマテーナは、今度は上半身を執拗に突きで攻めて来た。全ての突きを防げなかったカレンは、女神から距離を取るために、あえて攻撃する相手の懐に飛び込んで行った。

 キャハハハハと高笑いしたマテーナの声がすれ違いざまに聞こえ、上手くすり抜けられたとカレンは思ったが、何故か素肌に風がスース―と直接当たる感じがする。

「あらー、綺麗なおっぱいね。若いから張りもあって、羨ましいわ」

 上半身を集中的に攻撃したのは、カレンの服を切り裂くためだった。彼女を辱めるのが、女神の目的だったのだ。

 カレンは自分の胸が晒されているのに気が付き、顔を赤らめ片腕で露わになった胸を隠した。

「ちょ、ちょっと。何てことするのよ」

「恥ずかしいの? 片手で胸を隠してたら、攻撃できないわよ」

「もう、ふざけないでよ!」

「ふざけちゃいないさ、生娘じゃないんだから、そんなんじゃあ命を落とすよ」

 確かにマテーナの言う通り、片手ではまともに女神の攻撃を防げない。しかも、このままでは、反撃すら出来ない。恥ずかしがっていたら、本当に命を落としてしまうかも知れないとカレンは思った。
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