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始まりの村 エンス 2
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そうだ、これは孫娘のリリカを独り立ちするまで育てようと、決意した日の出来事だ。こんな夢を見てしまうとは、もう残された時間は少ないのだろう。
「ミリア、ミリア、・・・」と、遠くから聞きなれた声が聞こえる。
「起こしてごめんなさい。久しぶりね、身体は大丈夫なの?」
目を覚ましたミリアはベッドの横に立つトミを見つけ、救われるような気持になった。
悪夢を見ていた彼女は、トミの呼びかけで現実の世界に戻ることが出来たのだ。それにしても近頃の彼女は、良く昔の出来事を夢で見るようになっていた。
「ふぅ、呼び出してしまった見たいね。あなたの顔を見ると、元気になるわ」
ミリアは、病ですっかりやせ細った身体を起こし、古い友人を安心させるために笑顔を作って見せた。
「無理しないで。いつ来られるかわからなかったから、肌身離さず持っていたのよ。私の世界の薬だけど、ミリアの病気に効くかも知れないと思って」
そう話すトミも、ミリアと同じく年を取った。
綺麗に整ったショートカットの真っ白な髪と手のしわが、二人で過ごした時間の経過を物語っていた。
しかし、瞳の輝きは若かった頃と同じ。彼女の首元に巻かれた萌黄色の綺麗なストールは、落ち着いた年齢の女性を美しく引き立てていた。
トミは、肩から下げていた茶色い革製のポシェットから薬を取り出した。
「ありがとう」、ミリアは手渡された薬を受け取ると、ベッドの横の台に置いた。
夢の中の悪夢が影響して、無意識にトミを呼び出してしまったのだろう。
そんな胸中のミリアは、「日に日にあなたと一緒に旅をした時の事を思い出すの、楽しかった事や辛かった事をね」
「ふふっ、楽しかった事の方が多いんじゃないの」と、トミはベッドの横にある椅子を自分の方に引き寄せ座り話を続ける。
「無鉄砲で怖いもの知らずのあなたとの旅だったもの。いつもハラハラさせられていたわよね」
「あら、男勝りだったあなたに言われたくないわ。向かってくる男達を槍でバタバタなぎ倒していたのは、どこの誰かしら?」と、ミリアは口元を少し上げた。
楽しかった思い出を頭の中に閉じ込めようと、トミは目をつぶった。
「でも、リリカを育てるようになってからは、穏やかな日々だったわよね」
「そうね、あなたの協力があったから元気で良い子に育ったわ」
会話が止まり、リリカを育てるきっかけとなった辛い記憶が二人に蘇る。
決して忘れられない記憶に、今も苦しめられている。しかし、ミリアの孫娘を一緒に育て、成長する姿を見守れた日々に二人とも幸せを感じていた。
自分の人生には満足していたが、床に伏してから3カ月が過ぎ自分の命もあとわずかだと考えると、これから残される孫娘リリカの事が気がかりだ。
せめてもう少し時間があれば・・・。
そう考えても、もう大人になるリリカを見る事は出来ないのに。
親友同士が思い出話で盛り上がる頃、お店の切り盛りや祖母の看病で疲れていたリリカは、自分の部屋で帳簿を書く途中で眠ってしまっていた。
暖かく気持ちの良い空間は、彼女に眠りを誘ったのだ。
夢うつつで聞き覚えのある声が、リリカの耳に入って来る。
机の上に突っ伏した重たい上半身を起こし、眠たい目を擦った。ぼんやりする頭で、声の主は誰なのか考えていた。
「あれ、トミさんが来ている。おばあちゃんの不思議な友達。いつも、突然やってきて、気が付いたら居ない」
幼い頃から祖父と一緒に自分を育ててくれた人が来ている。
笑顔が素敵で、よく二人の冒険話をしてくれた人。今、隣で祖母と話をしている。トミの事を考えると、顔が見たい会いたいと言う思いに駆られ、リリカは重たい足を動かした。
部屋を出たリリカは、祖母の部屋のドアを軽くノックする。
「おばあちゃん、入っても良い?」
部屋に入ってきたリリカは、成長したと言っても150センチを超えた少し小柄な少女だった。大きなグリーンの目は、寝起きで潤っている。そして肩まである天然パーマの赤い髪には、寝ぐせが付いていた。
黒色の襟付きのシャツと短パン姿で、部屋の前に立つリリカを見たトミは、ハグをするために両手を大きく広げ彼女を抱きしめようとする。
「大きくなったね。リリカ。もう15歳よね、時が経つのは早いわ」
「はい、お久しぶりです。トミさん」と、リリカの元気な声が部屋に響いた。
「おばあちゃんとトミさんが、話している声が聞こえたから。お邪魔でしたか?」、二人の邪魔にならないか、心配そうな顔を覗かせた。
「リリカ。丁度良いわ、ここにおいで」、ミリアは手招きし彼女をベッドの方へ導くと、自分の横に引き寄せベッドの上に座らせた。
少し俯いた彼女は、「二人に話しておきたい事があるの」
「大事な話かい」と、トミは何かを悟ったような表情になった。
「そう、トミとリリカに大事な話。私に残された時間は、後わずかだと思うからこそ話しておきたいの。私の身体と力は日に日に衰えているから、トミを呼べるのもこれが最後かもしれないし」と、目を伏せ暗い表情になった。
黙ってミリアを見るトミとリリカは、彼女が話すのを待つ。
ニコッと、笑顔を見せたミリアは、ゆっくりとした口調で言葉を絞り出した。
「あと数日で私は、この世界から居なくなる」
トミとリリカは、彼女の死を示唆する言葉に何て声を掛けたら良いのか分からなかった。何も良い言葉が、二人には思い浮かばなかったのだ。
悲しそうに困惑する表情の二人にミリアは、優しい笑顔で答える。
「リリカ、もっとたくさんの事を教えてあげたかったけど、私には時間が無いのよ。一人前の魔法士になるために、西方の国アバルディーンに行きなさい。そこに行けば、魔法に必要な沢山の知識を教わることが出来るから」
15歳の少女には、死を受け入れ家族を失う準備は、まだ出来ていなかった。
悲しみや死に対する恐怖で、リリカの体は小さく震えていた。
「どうして? おばあちゃんが、私を一人前の魔法士にしてよ」
ミリアはそっとリリカの頭をなでた、「ごめんね。もう教えてあげられない」、そして自分のネックレスを取り外し、彼女の手のひらに置く。
「このペンダントが、これからあなたを助けてくれるから大切にしてね」
「ネックレス? それが、私を助けてくれるの?」
手のひらに乗るネックレスから、ミリアの温もりが伝わってくる。祖母から受け取ると、ペンダントトップにはめ込まれた赤色の石が、ずっと輝いていた。
ミリアがトミの方を見ると、彼女は、軽く頷きネックレスの説明を始めた。
「このネックレスと私の付けているブレスレットは、私たちをつないでいるの」
「どういう事?」、リリカは、初めて聞くネックレスとブレスレットの話に声が大きくなる。
「私は、違う世界の人間なの。このネックレスが、ブレスレットを持つ私をこの世界に導く」
「違う世界から来ているの?」
「そうよ。私は、ミリアを助けるパートナーとして違う世界から呼ばれて来たの」
「パートナー?」
今度は、トミからバトンを渡されたミリアが説明を続ける。
「私が、まだ半人前の魔法士だった頃から、トミは私のパートナーとして助けに来てくれた。出会ってからずっと、一緒に旅をしたの。今度はリリカが、自分のパートナーと一緒に旅をする番ね。トミも分かってくれるかしら」
トミは、自分のブレスレットが二人に見えるように右腕を上げた。
「良いのよ。私も孫にこのブレスレットを託すつもりだったから。もう年だしね。いつかこんな日が来ると、心の中では準備していたのよ。孫には、幼いころからしっかり武術と剣術を習わせていたから、きっとリリカを助ける良いパートナーになると思うわ」
思いにふけるトミは、右腕のブレスレットを暫く触っていた。触るのを止めると、ミリアの手の甲にそっと自分の手を置いた。
「ねえ、ミリア。あなたと私の旅は、終わりなのね」
「そうね、私たちの孫が新しい冒険を始めるのなら、良いわよね」
これを最後に二人とも、もう二度と一緒に過ごせなくなる。
正直、会えなくなるのは寂しいが、何も言わずに別れたく無かった。そんな思いを残して幕引きをしたくは無かったのだ。偶発的に呼び出してしまったが、このタイミングでトミに会うことが出来たのは幸運だった。
これからは、新しい冒険をする孫たちが、彼女たちの冒険の続きを引き継いでくれるのだから。ミリアとトミの冒険は、ここで終わり。
長居すると、辛くなる。そう思ったトミは、ハンカチで涙を拭き気持ちを整理し落ち着かせた。
「そろそろ戻ろうかね。ミリア、本当に今日までありがとう」
ミリアの傍を離れたトミは、リリカの方へ歩み寄り彼女を抱きしめた。もうリリカにも会えなくなると考えると、寂しくてしょうがない。
「リリカ、あなたの新しいパートナーは私の孫よ。名前は春馬、一条春馬だからね。お互いに助け合って、楽しい旅をするのよ」、リリカから離れたトミは、光に包まれ姿を消した。
「ミリア、ミリア、・・・」と、遠くから聞きなれた声が聞こえる。
「起こしてごめんなさい。久しぶりね、身体は大丈夫なの?」
目を覚ましたミリアはベッドの横に立つトミを見つけ、救われるような気持になった。
悪夢を見ていた彼女は、トミの呼びかけで現実の世界に戻ることが出来たのだ。それにしても近頃の彼女は、良く昔の出来事を夢で見るようになっていた。
「ふぅ、呼び出してしまった見たいね。あなたの顔を見ると、元気になるわ」
ミリアは、病ですっかりやせ細った身体を起こし、古い友人を安心させるために笑顔を作って見せた。
「無理しないで。いつ来られるかわからなかったから、肌身離さず持っていたのよ。私の世界の薬だけど、ミリアの病気に効くかも知れないと思って」
そう話すトミも、ミリアと同じく年を取った。
綺麗に整ったショートカットの真っ白な髪と手のしわが、二人で過ごした時間の経過を物語っていた。
しかし、瞳の輝きは若かった頃と同じ。彼女の首元に巻かれた萌黄色の綺麗なストールは、落ち着いた年齢の女性を美しく引き立てていた。
トミは、肩から下げていた茶色い革製のポシェットから薬を取り出した。
「ありがとう」、ミリアは手渡された薬を受け取ると、ベッドの横の台に置いた。
夢の中の悪夢が影響して、無意識にトミを呼び出してしまったのだろう。
そんな胸中のミリアは、「日に日にあなたと一緒に旅をした時の事を思い出すの、楽しかった事や辛かった事をね」
「ふふっ、楽しかった事の方が多いんじゃないの」と、トミはベッドの横にある椅子を自分の方に引き寄せ座り話を続ける。
「無鉄砲で怖いもの知らずのあなたとの旅だったもの。いつもハラハラさせられていたわよね」
「あら、男勝りだったあなたに言われたくないわ。向かってくる男達を槍でバタバタなぎ倒していたのは、どこの誰かしら?」と、ミリアは口元を少し上げた。
楽しかった思い出を頭の中に閉じ込めようと、トミは目をつぶった。
「でも、リリカを育てるようになってからは、穏やかな日々だったわよね」
「そうね、あなたの協力があったから元気で良い子に育ったわ」
会話が止まり、リリカを育てるきっかけとなった辛い記憶が二人に蘇る。
決して忘れられない記憶に、今も苦しめられている。しかし、ミリアの孫娘を一緒に育て、成長する姿を見守れた日々に二人とも幸せを感じていた。
自分の人生には満足していたが、床に伏してから3カ月が過ぎ自分の命もあとわずかだと考えると、これから残される孫娘リリカの事が気がかりだ。
せめてもう少し時間があれば・・・。
そう考えても、もう大人になるリリカを見る事は出来ないのに。
親友同士が思い出話で盛り上がる頃、お店の切り盛りや祖母の看病で疲れていたリリカは、自分の部屋で帳簿を書く途中で眠ってしまっていた。
暖かく気持ちの良い空間は、彼女に眠りを誘ったのだ。
夢うつつで聞き覚えのある声が、リリカの耳に入って来る。
机の上に突っ伏した重たい上半身を起こし、眠たい目を擦った。ぼんやりする頭で、声の主は誰なのか考えていた。
「あれ、トミさんが来ている。おばあちゃんの不思議な友達。いつも、突然やってきて、気が付いたら居ない」
幼い頃から祖父と一緒に自分を育ててくれた人が来ている。
笑顔が素敵で、よく二人の冒険話をしてくれた人。今、隣で祖母と話をしている。トミの事を考えると、顔が見たい会いたいと言う思いに駆られ、リリカは重たい足を動かした。
部屋を出たリリカは、祖母の部屋のドアを軽くノックする。
「おばあちゃん、入っても良い?」
部屋に入ってきたリリカは、成長したと言っても150センチを超えた少し小柄な少女だった。大きなグリーンの目は、寝起きで潤っている。そして肩まである天然パーマの赤い髪には、寝ぐせが付いていた。
黒色の襟付きのシャツと短パン姿で、部屋の前に立つリリカを見たトミは、ハグをするために両手を大きく広げ彼女を抱きしめようとする。
「大きくなったね。リリカ。もう15歳よね、時が経つのは早いわ」
「はい、お久しぶりです。トミさん」と、リリカの元気な声が部屋に響いた。
「おばあちゃんとトミさんが、話している声が聞こえたから。お邪魔でしたか?」、二人の邪魔にならないか、心配そうな顔を覗かせた。
「リリカ。丁度良いわ、ここにおいで」、ミリアは手招きし彼女をベッドの方へ導くと、自分の横に引き寄せベッドの上に座らせた。
少し俯いた彼女は、「二人に話しておきたい事があるの」
「大事な話かい」と、トミは何かを悟ったような表情になった。
「そう、トミとリリカに大事な話。私に残された時間は、後わずかだと思うからこそ話しておきたいの。私の身体と力は日に日に衰えているから、トミを呼べるのもこれが最後かもしれないし」と、目を伏せ暗い表情になった。
黙ってミリアを見るトミとリリカは、彼女が話すのを待つ。
ニコッと、笑顔を見せたミリアは、ゆっくりとした口調で言葉を絞り出した。
「あと数日で私は、この世界から居なくなる」
トミとリリカは、彼女の死を示唆する言葉に何て声を掛けたら良いのか分からなかった。何も良い言葉が、二人には思い浮かばなかったのだ。
悲しそうに困惑する表情の二人にミリアは、優しい笑顔で答える。
「リリカ、もっとたくさんの事を教えてあげたかったけど、私には時間が無いのよ。一人前の魔法士になるために、西方の国アバルディーンに行きなさい。そこに行けば、魔法に必要な沢山の知識を教わることが出来るから」
15歳の少女には、死を受け入れ家族を失う準備は、まだ出来ていなかった。
悲しみや死に対する恐怖で、リリカの体は小さく震えていた。
「どうして? おばあちゃんが、私を一人前の魔法士にしてよ」
ミリアはそっとリリカの頭をなでた、「ごめんね。もう教えてあげられない」、そして自分のネックレスを取り外し、彼女の手のひらに置く。
「このペンダントが、これからあなたを助けてくれるから大切にしてね」
「ネックレス? それが、私を助けてくれるの?」
手のひらに乗るネックレスから、ミリアの温もりが伝わってくる。祖母から受け取ると、ペンダントトップにはめ込まれた赤色の石が、ずっと輝いていた。
ミリアがトミの方を見ると、彼女は、軽く頷きネックレスの説明を始めた。
「このネックレスと私の付けているブレスレットは、私たちをつないでいるの」
「どういう事?」、リリカは、初めて聞くネックレスとブレスレットの話に声が大きくなる。
「私は、違う世界の人間なの。このネックレスが、ブレスレットを持つ私をこの世界に導く」
「違う世界から来ているの?」
「そうよ。私は、ミリアを助けるパートナーとして違う世界から呼ばれて来たの」
「パートナー?」
今度は、トミからバトンを渡されたミリアが説明を続ける。
「私が、まだ半人前の魔法士だった頃から、トミは私のパートナーとして助けに来てくれた。出会ってからずっと、一緒に旅をしたの。今度はリリカが、自分のパートナーと一緒に旅をする番ね。トミも分かってくれるかしら」
トミは、自分のブレスレットが二人に見えるように右腕を上げた。
「良いのよ。私も孫にこのブレスレットを託すつもりだったから。もう年だしね。いつかこんな日が来ると、心の中では準備していたのよ。孫には、幼いころからしっかり武術と剣術を習わせていたから、きっとリリカを助ける良いパートナーになると思うわ」
思いにふけるトミは、右腕のブレスレットを暫く触っていた。触るのを止めると、ミリアの手の甲にそっと自分の手を置いた。
「ねえ、ミリア。あなたと私の旅は、終わりなのね」
「そうね、私たちの孫が新しい冒険を始めるのなら、良いわよね」
これを最後に二人とも、もう二度と一緒に過ごせなくなる。
正直、会えなくなるのは寂しいが、何も言わずに別れたく無かった。そんな思いを残して幕引きをしたくは無かったのだ。偶発的に呼び出してしまったが、このタイミングでトミに会うことが出来たのは幸運だった。
これからは、新しい冒険をする孫たちが、彼女たちの冒険の続きを引き継いでくれるのだから。ミリアとトミの冒険は、ここで終わり。
長居すると、辛くなる。そう思ったトミは、ハンカチで涙を拭き気持ちを整理し落ち着かせた。
「そろそろ戻ろうかね。ミリア、本当に今日までありがとう」
ミリアの傍を離れたトミは、リリカの方へ歩み寄り彼女を抱きしめた。もうリリカにも会えなくなると考えると、寂しくてしょうがない。
「リリカ、あなたの新しいパートナーは私の孫よ。名前は春馬、一条春馬だからね。お互いに助け合って、楽しい旅をするのよ」、リリカから離れたトミは、光に包まれ姿を消した。
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