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生霊 ④
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走り出した隼人は、桜と正人の元へ通りを全速力で駆けて行く。逃がすまいと女の幽霊は、宙に浮き滑る様に彼の後を追いかけて来た。
隼人が仲間の元にたどり着くと、彼らをかばうように長老が女の幽霊の前に立ちはだかった。
「不味そうだが、喰ってやろうか?」
「くっ・・・妖か」と、女の幽霊は宙に浮きながら隼人を追いかけるのを止めた。
「どのような理由があって、彼をさらったんだ?」
正人の問いに女の幽霊が答える、「愛しているの、彼は私を見捨てたりしないはず、もう二度と離さない」
「残念だが、隼人は君が探して居る彼とは違う」
「いいえ・・・、本当は分かっている・・・誰かにすがりたくて・・・助けて」
女の幽霊は、両手で顔を覆い隠し泣いているように見えた。
哀れに思った桜は、「何があったの? ここまで来たのだから教えて」
「三条大橋で偶然、彼が違う女と一緒の時に会ったの。声を掛けたら、私の事を知らない女だと言って、笑いながら歩いて行ったの」
女の幽霊の悲し気な表情が、鬼の形相に変化した。
「悔しくて、彼を追いかけて行ったら・・・車・・・、思い出せない」
「お前、もしかして生霊か?」と、正人は呟いた。
そうです。彼女はまだ死んでいませんと、天女の様な姿の女性は、地面に落ちていた鈴の付いたカンザシを拾い上げた。
女の幽霊の後ろに立つ怪しげな天女は神々しい光を纏っていた。
「私は、菊理媛。死んでいない者が、何故ここに居る? 此処で騒ぎを起こしてはなりません」
「菊理媛命・・・申し訳ございません、ここに迷い込んだ仲間を連れ戻しに来ていました」と、正人が答えていると菊理媛命に驚いた長老は、たちまち猫の姿に戻り、イカ耳、耳が横にピント張った状態、になり正人の後ろに隠れた。
正人の横で話を聞いていた隼人から言葉が漏れる、「彼女も死んでいないなら、どうやれば元の体に戻せる?」
「思い出させるのです。彼女が生にしがみつくように」
「思い出させる・・・、あんた、まだ生きているんだよ。悪い男の事は忘れて、新しく人生をやり直せよ」と、女の幽霊に向かって隼人が言葉を投げかけた。
「私、まだ、生きている?」
「そうだよ、思い出せ、男を追いかけてから、どうなったのか」
「思い出す・・・頭が痛い、車・・・車が目の前に・・・」
「頑張って、悪い思いを断ち切って。もっと良い人に巡り合えるから!」
桜が声を掛けた時、女の幽霊は全てを思い出した。彼女は男を追いかけ交差点に飛び出し、交通事故に遭っていた。病院に搬送され命を取り留めたものの生霊となって彷徨ったために未だ意識は回復せず、集中治療室に入っていた。
「私、まだ、生きているんだ。そうよ、あいつの事を忘れて、もっといい男を見つけて幸せになってやる!」
菊理媛命の手にあったカンザシがピシと音を上げると粉々になった。
それと同時に女の幽霊はガッツポーズを取る。
その姿に隼人は、女は怖いと感じた。
凄いな、男への未練が無くなるとそう言う発想になるのか?
生霊になっていた割に、切り替わりが早いぞ。
はあ、ため息交じりで菊理媛命は、「鬼神の子よ、随分前にもこちらへ来ていたが、一緒に居た少女は元気か?」と、正人に問いかけた。
「元気です、あの時は迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」
正人と菊理媛命の会話を聞き、桜と隼人は同じことを考えていた。
正人さんは、ここに来たことがある?
一緒に居た少女とは、茜さんなの?
「ふ、ふ、ふ・・・まあ、良い。過ぎたことだし」と、菊理媛命は思い出し笑いをした。
では、あなた達は現世に帰りなさいと、菊理媛命が手を払うと、全員風に包まれて半ば強引に黄泉から追い出された。
時を同じくして集中治療室で寝ていた女の目が開いた。
涙がこぼれるが、どうしてだか分からなかった。彼女にとって生霊の経験は、夢の中の出来事となり、ほとんど覚えていなかったからだった。
隼人が仲間の元にたどり着くと、彼らをかばうように長老が女の幽霊の前に立ちはだかった。
「不味そうだが、喰ってやろうか?」
「くっ・・・妖か」と、女の幽霊は宙に浮きながら隼人を追いかけるのを止めた。
「どのような理由があって、彼をさらったんだ?」
正人の問いに女の幽霊が答える、「愛しているの、彼は私を見捨てたりしないはず、もう二度と離さない」
「残念だが、隼人は君が探して居る彼とは違う」
「いいえ・・・、本当は分かっている・・・誰かにすがりたくて・・・助けて」
女の幽霊は、両手で顔を覆い隠し泣いているように見えた。
哀れに思った桜は、「何があったの? ここまで来たのだから教えて」
「三条大橋で偶然、彼が違う女と一緒の時に会ったの。声を掛けたら、私の事を知らない女だと言って、笑いながら歩いて行ったの」
女の幽霊の悲し気な表情が、鬼の形相に変化した。
「悔しくて、彼を追いかけて行ったら・・・車・・・、思い出せない」
「お前、もしかして生霊か?」と、正人は呟いた。
そうです。彼女はまだ死んでいませんと、天女の様な姿の女性は、地面に落ちていた鈴の付いたカンザシを拾い上げた。
女の幽霊の後ろに立つ怪しげな天女は神々しい光を纏っていた。
「私は、菊理媛。死んでいない者が、何故ここに居る? 此処で騒ぎを起こしてはなりません」
「菊理媛命・・・申し訳ございません、ここに迷い込んだ仲間を連れ戻しに来ていました」と、正人が答えていると菊理媛命に驚いた長老は、たちまち猫の姿に戻り、イカ耳、耳が横にピント張った状態、になり正人の後ろに隠れた。
正人の横で話を聞いていた隼人から言葉が漏れる、「彼女も死んでいないなら、どうやれば元の体に戻せる?」
「思い出させるのです。彼女が生にしがみつくように」
「思い出させる・・・、あんた、まだ生きているんだよ。悪い男の事は忘れて、新しく人生をやり直せよ」と、女の幽霊に向かって隼人が言葉を投げかけた。
「私、まだ、生きている?」
「そうだよ、思い出せ、男を追いかけてから、どうなったのか」
「思い出す・・・頭が痛い、車・・・車が目の前に・・・」
「頑張って、悪い思いを断ち切って。もっと良い人に巡り合えるから!」
桜が声を掛けた時、女の幽霊は全てを思い出した。彼女は男を追いかけ交差点に飛び出し、交通事故に遭っていた。病院に搬送され命を取り留めたものの生霊となって彷徨ったために未だ意識は回復せず、集中治療室に入っていた。
「私、まだ、生きているんだ。そうよ、あいつの事を忘れて、もっといい男を見つけて幸せになってやる!」
菊理媛命の手にあったカンザシがピシと音を上げると粉々になった。
それと同時に女の幽霊はガッツポーズを取る。
その姿に隼人は、女は怖いと感じた。
凄いな、男への未練が無くなるとそう言う発想になるのか?
生霊になっていた割に、切り替わりが早いぞ。
はあ、ため息交じりで菊理媛命は、「鬼神の子よ、随分前にもこちらへ来ていたが、一緒に居た少女は元気か?」と、正人に問いかけた。
「元気です、あの時は迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」
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「ふ、ふ、ふ・・・まあ、良い。過ぎたことだし」と、菊理媛命は思い出し笑いをした。
では、あなた達は現世に帰りなさいと、菊理媛命が手を払うと、全員風に包まれて半ば強引に黄泉から追い出された。
時を同じくして集中治療室で寝ていた女の目が開いた。
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