上 下
39 / 86

豆狸 ④

しおりを挟む
 酒が進むと、切り株の上で順番に狸たちが芸を披露していく。
 狸たちは、月を背景に器用に踊る。
 3匹の狸がとっておきの芸を見せると言って、どこで手に入れたのか三味線と太鼓を持って登場すると、空に向かってキュゥーンと一鳴きした。
 白い煙に包まれ、芸子さんが3人現れた・・・違う化けた!
 長老と金長は、楽しそうに踊りを披露する芸子に合わせて踊りだす。
 夜更けに山の中でこんな宴会を狸達がしているとは、誰も想像できない。飲み慣れていない隼人は、飲むペースが早すぎたのか酔っぱらっていた。
 長老と金長が両方から彼の服を引っ張った。
「小僧、儂と金長にお主の芸を見せるのじゃ」
 長老の無茶ぶりが来たよ。
 酔いも回り気持ち良いし、どんな芸を見せてもみんな喜んでくれるかな。
 隼人は高校の文化祭で披露したブレイクダンスを踊りだした。最初、狸たちは初めて見る踊りに驚いていたが、隼人の見せる軽快な動きが気に入ったのか彼と一緒に踊りだした。
 隼人と狸たちが繰り広げるダンスをよほど気に入ったのか、長老と金長は地面に転がり大喜びしていた。
 
 夜が明ける前に話をまとめるかと、正人が立ち上がった。
「良い、話し合いの場となり感謝する。どうだろうか、近いうちにこの地には多くの人間がやって来る。その前に信楽か伊賀の山へ、住処を移動してもらえないだろうか」
「ここは、長年、俺達が住んできた土地だ。人間の勝手に屈したくない」
 豆狸の親方の好戦的な発言に狸達は、クゥーンと鳴くと姿を変える。
 大男、一つ目の化け物、作業服を着た男性、艶っぽい女子に・・・子供?
 姿を変えるのは良いが、それぞれが好き勝手に思い描いた姿に変化しているように、隼人の目には映る。変化しなかった狸は牙をむきだし、正人達を威嚇してきた。
「おい、おい、争いはお互いの為にはならんぞ」と、長老が猫又へと姿を変えた。
 豆狸の親方と襲い掛かろうとする狸達に、金長は説得を試みる。
「人間のする事に腹を立てるのは当然だが、無駄な殺し合いをしてはならない。正人たちの様に我々を理解する人間も居るのだ。我々の為を思って言ってくれていると、信じようじゃないか」
 話を聞いていた隼人は、狸の方が人間より平和的なのかも知れないと感じる。酔った勢いで、彼は話の中に入ってしまった。
「申し訳ない、僕たち人間は何の考えも無しに自然を壊し、あなた達の住処を奪う。本当に申し訳なく思っています」
 隼人が勢いよくお辞儀をして頭を下げると、しばし沈黙の後、豆狸の親方の甲高い笑い声と狸達の鳴き声が夜空に響いた。
「面白い、人間の若者だな。金長殿の面子もあるし、お前たちを信じることにしよう。信楽方面に住処を移すことにするよ」
 話がまとまると、再び狸達との宴が始まり、日が昇るまで続いた。

 山を下りると、流石に正人と隼人は車の中で酔いが覚めるまで動けなくなった。
 隼人が目を覚ますと、優に6時間は寝ていた。
 うう、気持ち悪い。これが、二日酔いなのか?
 口の中がカラカラで飲み物が欲しい。彼は外に出てプレハブ小屋の横にあった自販機で水を買うと、一気に飲み干した。
「今回の話し合いは、隼人のおかげで上手く行ったよ」
 隼人は昨晩の事を思い出そうとしたが、ブレイクダンスをする所までしか覚えていなかった。
 まあ、良いか。話し合いが上手く行ったのなら。
 宮田君の件もなんか吹っ切れたような気持になったし。
 深く考えても、今は何も出来ないから仕方が無い。
 地元に戻る前、金長は茜から最高品種の日本酒をお土産にもらった。上機嫌で風呂敷に入れた日本酒を抱えると、隼人にアドバイスをする。
「隼人殿、そなたの力は強い。正しい使い方をするためにも正人殿を良く見て学ぶのだぞ」
「金長さん、有り難うございました」と、全員が声を揃えた。
「また、そなたらとの宴会を楽しみにしている」、事務所のドアを通り過ぎると消えるように金長は、阿波の国へと帰って行った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

処理中です...