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狐憑き ①

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 隼人は、林に呼ばれ、京都市北山通にある彼が働くフレンチレストランに来ていた。そこは、京都府立植物園から近く、桜の通う大学の近くでもある。最寄り駅の京都市営地下鉄今出川駅から3駅先で電車に乗れば、5分で着く場所だ。北山はおしゃれな料理店が多く、人気のスポットになっている場所でもある。
「隼人、急に呼び出して悪かったな」、ギャルソンエプロン姿の林が店のドアを開けた。
 林の隣に居たのは、彼と一緒に働く桜の友人の雨宮朱鷺だった。
「ごめんなさい。桜が、小坂君のサポートが絶対必要だと言うから」
「いや、良いんだけど。桜も来ているの?」
 店の奥のテーブル席には、普段通り赤い服を着た桜が座っている。
なぜ桜が隼人を呼んだのか彼には察しがつかなかったので、取り敢えず話だけは聞こうと思い、桜の座る奥のテーブルへ林達と一緒に移動した。
「やあ、桜、仕事以外で俺を呼び出すなんて珍しいな。嫌われていると思っていたから」
 桜は、隼人の方を一瞥いちべつすると下を向いた。
「私の勘違いだったの、隼人の事は嫌っていないわよ」
「勘違い? 何の事だよ」、桜の横で立ったまま隼人は話し続ける。
「この間の、歩美の件よ!」
「ああ、食事会の後のビンタの件か」
 隼人は彼女に意地悪をするつもりは無かったが、ビンタと言う言葉に桜は反応し、責められる覚悟でじっと彼を見つめてきた。
「ごめんなさい」、桜はか細い声を出した。
「えっ、ああ、良いんだよ。俺は別に気にしてないから」、思いもよらない桜の謝罪の言葉に隼人は、一瞬自分の耳を疑った。
 彼女は、そんな事を気にしていたのか。素直になれない彼女が見せる一面から、隼人を嫌っていなかった事が分かった。
 
 林と雨宮は、隼人と桜の会話を聞いて勘違いをしたのか、あらぬ事を聞いて来た。
「桜、小坂君とあの後も会っているの? お互い名前で呼び合っているし、何か怪しいな」と、雨宮は、にやけながら桜を問い詰めようとした。
 便乗するように林は、「隼人、桜さんと付き合っているのか?」
 弁解するつもりは無かったが、二人から誤解を招くと桜に迷惑が掛かると思い、隼人は彼らの問いを否定した。
「俺と桜は、付き合っていないよ。今、桜も俺も同じアルバイト先で働いているだけだよ」
「ふーん、そうなんだ。桜」、雨宮は腑に落ちない顔をした。
 桜は立ち上がり、「朱鷺、恋愛の詮索はもう良いから、さっき私に話したことを隼人にも話して!」

 林と雨宮の二人は、お互いの顔を見合わせてから本題に入る。
「実は、お店のオーナーシェフの様子が先週から変で。昨日からは、料理を全く作れ無くなったの・・・」と、雨宮は言いづらそうな感じだ。
「具体的には?」
「オーナーの奥さんの話では、部屋にこもってブツブツと独り言を話しているらしく、呼びかけても反応しないらしい。まるで何かに憑りつかれた見たいらしい」と、林は心配そうにする雨宮の手を握った。
「それで、もしかしたら悪霊とか悪魔の類かも知れないと、桜にお祓いをお願いしたの」と、さらっと雨宮は桜に頼ったと言う。
「さ、さ、桜の事を知っているのか? 桜は、友人に自分の素性を明かしているのか?」
「そうよ、別に隠す必要ないじゃない。親しい友人には、私はエクソシストの仕事をしていると、話しているわよ」
「はぁ、普通、話さないだろう・・・。まあ、良いか、桜らしいな」
 隼人は、バカが付くほど、正直な彼女を責めたくなかった。
 内心、彼も友人に仕事の話が出来れば、楽になるのにと彼女が羨ましかったから。
 もし、隼人が全て話してしまえば、彼自身この世から消されてしまう。
「状況は理解したけど、オーナーシェフは何処に居るの?」
「このビルの3階と4階がオーナー夫妻の住居になっているから、案内するよ」
 林に連れられて住居スペースに入ると、オーナーシェフの奥さんが挨拶をする。
「初めまして、山崎と申します。変なお願いをしてしまい、ごめんなさいね」と、申し訳なさそうに話し終わると、オーナーの奥さんは目を下に向けた。
 彼女の行動から隼人と桜は、悪霊や悪魔憑は病院に行っても精神異常と診断されるだけだし、奥さんは誰にも相談出来ず困っていたのだと理解する。
 桜は隼人の前に立つと、話の主導権を握った。
「私達で解決できますから、ご安心ください。旦那さんは、直ぐに良くなりますよ」
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