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番外編
番外編 女狐フランの妖艶なあざとさ ④ サモン視点
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──あの性悪クソ狐、最後にとんでもない置き土産を置いていきやがった……。
ギリッと唇を噛むと、彼がビクリと震える。
「悪い──……いや、そうではなくて、フラン、俺を見てくれ」
目を閉じたまま開かないフランに、どうしていいのか焦りながら、立ち上がって恐るおそる彼を抱きしめた。
今度は拒否されなかった。
かける言葉が見つからないが、震える彼の背中を何度も撫でる。
細い身体は熱くて発情している。彼もこのまま立っているのは辛いだろう。
自分の上着を敷物にして地面に座った自分の上に座らせた。
身体を強張らせている彼に事情を話すと伝えると、彼は聞きたくないと首を小さく振る。
「それではいつまでも誤解したままだ。ちゃんと説明させて欲しいんだ。あの時、フランは霊に取り付かれていたんだ」
「……」
「俺が言ったのは、フランじゃない霊だ」
頑なに瞼を閉じていたフランだが、“霊”の言葉に目を開け、聞き返してくる。
「……れ、い?」
「そうだ。霊はフランの発情した身体にくっついていた。それを追い払うために精を発散させる方法が最良だと思ったんだ。冷たい態度を取ったのは、それがフランではなかったからだ」
彼をこれ以上傷つけたくなくて、少しでも柔らかく聞こえるように言葉を選びながら事情を話す。その分、説明がたどたどしくなる。
「……でも、僕は」
「身体はフランだったが、中身は別ものだったんだ。今ある記憶は霊と繋がっていた副反応だと思う」
「……」
ようやく彼が俺を見た。涙ぐんで瞳が揺れている。
だが、本来とても素直な彼のこと、疑心暗鬼になりながらも頷いた。
「そ、なんだ……、僕は君に拒絶されたと思って、とても悲しかったよ」
そう言って、彼もここに来た経緯を話し始めた。
魔術準備室で俺が待っていると聞いたフランは、室内に入るや男に術をかけられたのだそう。
それから身体が興奮してきて、催淫効果だと思っている内に俺がやってきた。
フランの記憶では、俺に身体の興奮を治めて欲しくて求めたが、強く拒否をされた、と──……。
霊の『この身体が反応するのは、君だからだよ。君を見てキスしたら、こうなったの』と言う言葉をもっとちゃんと考えるべきだった。
「ごめん」
「だから、君のせいじゃないでしょう。……もう、大丈夫だから」
「それでも俺が、助けるのが遅くなったから起きたことだ。謝るのは当然だ」
俺がいつまでも謝罪ばかりしているせいか、彼は苦笑いした。
いつもの元気な表情じゃないのに、「もう身体も落ち着いて来たから」と言って彼は俺の膝上から立ち上がろうとする。
そんな彼の腰を掴んで、膝の上に引き戻した。
フランは驚いていたが、また視線が下がる。
「フラン……」
深く傷つけてしまった。
その詫びをどうしてもしたい──。
「絶対フランにあんな態度は取らない。誓って約束する」
艶やかな髪の毛に触れ、一筋梳くって唇を落とす。
すると、彼は小さく頷く。
「うん、君の態度とか言われてみれば違うね……、次第におかしな点に気づき始めたよ」
「悪か──……」
また謝りそうになる口を彼の手が塞いだ。
責めればいいのに。普段あれほどよく喋る彼なのに、責める言葉を持っていない。その事に胸を締め付けられながら、彼の手を掴んで手のひらと甲に口づける。
ピクンと身体が揺れ、彼を見つめると、「ぁ……」と瞳を揺らす。
彼の方に顔を寄せると、身体を小さくしてぎゅっと瞼を強く閉じた。
「……」
背中を柔らかく撫でる。
それから、ゆっくり緊張を解すようにその顔中に口づけた。
まだ湿っている長いまつ毛、下がりっぱなしの眉、紅潮した頬、それから力を入れて閉ざられた唇にも唇を落とす。
「……ん……っ」
合わせるだけのキス。粘膜には触れない、表面の乾いた部分だけに触れる軽いキスだ。それを何度も交わす。
柔らかい感触、吐息……。腕の中で小さく揺れる身体。
彼を癒すための触れ合いだというのに、目的が徐々にズレていく。
彼の甘い唇から離れられない。
大好きなフランに触れているとなると、呆れる程興奮する。軽いだけのキスでは嫌になってくるのだ。
脳みそと身体の欲望は直結している。
口づけを深め、粘膜同士触れ合い唾液を絡ませたい。
──それどころか、彼の身体にもっと触りたくなる。
ギリッと唇を噛むと、彼がビクリと震える。
「悪い──……いや、そうではなくて、フラン、俺を見てくれ」
目を閉じたまま開かないフランに、どうしていいのか焦りながら、立ち上がって恐るおそる彼を抱きしめた。
今度は拒否されなかった。
かける言葉が見つからないが、震える彼の背中を何度も撫でる。
細い身体は熱くて発情している。彼もこのまま立っているのは辛いだろう。
自分の上着を敷物にして地面に座った自分の上に座らせた。
身体を強張らせている彼に事情を話すと伝えると、彼は聞きたくないと首を小さく振る。
「それではいつまでも誤解したままだ。ちゃんと説明させて欲しいんだ。あの時、フランは霊に取り付かれていたんだ」
「……」
「俺が言ったのは、フランじゃない霊だ」
頑なに瞼を閉じていたフランだが、“霊”の言葉に目を開け、聞き返してくる。
「……れ、い?」
「そうだ。霊はフランの発情した身体にくっついていた。それを追い払うために精を発散させる方法が最良だと思ったんだ。冷たい態度を取ったのは、それがフランではなかったからだ」
彼をこれ以上傷つけたくなくて、少しでも柔らかく聞こえるように言葉を選びながら事情を話す。その分、説明がたどたどしくなる。
「……でも、僕は」
「身体はフランだったが、中身は別ものだったんだ。今ある記憶は霊と繋がっていた副反応だと思う」
「……」
ようやく彼が俺を見た。涙ぐんで瞳が揺れている。
だが、本来とても素直な彼のこと、疑心暗鬼になりながらも頷いた。
「そ、なんだ……、僕は君に拒絶されたと思って、とても悲しかったよ」
そう言って、彼もここに来た経緯を話し始めた。
魔術準備室で俺が待っていると聞いたフランは、室内に入るや男に術をかけられたのだそう。
それから身体が興奮してきて、催淫効果だと思っている内に俺がやってきた。
フランの記憶では、俺に身体の興奮を治めて欲しくて求めたが、強く拒否をされた、と──……。
霊の『この身体が反応するのは、君だからだよ。君を見てキスしたら、こうなったの』と言う言葉をもっとちゃんと考えるべきだった。
「ごめん」
「だから、君のせいじゃないでしょう。……もう、大丈夫だから」
「それでも俺が、助けるのが遅くなったから起きたことだ。謝るのは当然だ」
俺がいつまでも謝罪ばかりしているせいか、彼は苦笑いした。
いつもの元気な表情じゃないのに、「もう身体も落ち着いて来たから」と言って彼は俺の膝上から立ち上がろうとする。
そんな彼の腰を掴んで、膝の上に引き戻した。
フランは驚いていたが、また視線が下がる。
「フラン……」
深く傷つけてしまった。
その詫びをどうしてもしたい──。
「絶対フランにあんな態度は取らない。誓って約束する」
艶やかな髪の毛に触れ、一筋梳くって唇を落とす。
すると、彼は小さく頷く。
「うん、君の態度とか言われてみれば違うね……、次第におかしな点に気づき始めたよ」
「悪か──……」
また謝りそうになる口を彼の手が塞いだ。
責めればいいのに。普段あれほどよく喋る彼なのに、責める言葉を持っていない。その事に胸を締め付けられながら、彼の手を掴んで手のひらと甲に口づける。
ピクンと身体が揺れ、彼を見つめると、「ぁ……」と瞳を揺らす。
彼の方に顔を寄せると、身体を小さくしてぎゅっと瞼を強く閉じた。
「……」
背中を柔らかく撫でる。
それから、ゆっくり緊張を解すようにその顔中に口づけた。
まだ湿っている長いまつ毛、下がりっぱなしの眉、紅潮した頬、それから力を入れて閉ざられた唇にも唇を落とす。
「……ん……っ」
合わせるだけのキス。粘膜には触れない、表面の乾いた部分だけに触れる軽いキスだ。それを何度も交わす。
柔らかい感触、吐息……。腕の中で小さく揺れる身体。
彼を癒すための触れ合いだというのに、目的が徐々にズレていく。
彼の甘い唇から離れられない。
大好きなフランに触れているとなると、呆れる程興奮する。軽いだけのキスでは嫌になってくるのだ。
脳みそと身体の欲望は直結している。
口づけを深め、粘膜同士触れ合い唾液を絡ませたい。
──それどころか、彼の身体にもっと触りたくなる。
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