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番外編 中 ヤス視点

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今日は、元職場の居酒屋の店長達が近所に新規店をオープンした。

ランチタイムの営業もあるけれど、まだ人手が足りないと言うので、俺もヘルプに入った。


「いらっしゃいませー・・・」


ドアが開いたので、客だと思って声をかけようとしたら、前の居酒屋で俺にセクハラ三昧してきた奴だった。

げ・・・。

そいつは、俺を見て勝手に大喜びした。


“君だけが僕の話を聞いてくれる”“僕の理解者”とかよくいう客だった。

常連客の一人で、接客ついで話を聞いていたのだが、どんどん雲行きが怪しいしセクハラ三昧だし気持ち悪かった。元カノのマコチンに店に来てもらったり(勿論俺のおごり)ノンケアピールをしていたのに。

俺ってなんでこんなに変なのに執着されるんだろう。執着されるならおっぱい大きい可愛い女の子がいい。


「君、指輪してるの?なんで?まさか・・・結婚したの?」

そいつは俺の指にハマっている指輪を見て、わなわなと震え顔を青ざめだ。

すると、奥で店長が気を利かせてくれ、「ヤスさん、こっちにお願いします!」と声かけてくれた。

「はーい。行きます。」

そう言って、奥に入ろうとした瞬間、俺の腕をぐっと両手で握られた。

「え!?お客さん、やめてください!」

「僕は君じゃないと駄目なのに、君は僕じゃない人のモノなんて許せない。君は僕と一緒にいるべきなんだよ。僕の理解者は君だけなんだ。君の事を愛しているんだっ!!」


コイツ・・・、気持ち悪いっ!!

「やめてくださいっ!」

オープン日から客と揉めあいがあった店なんてまずい。

このまま穏便にいきたいのに、力強い。

「君は僕と一緒なら幸せになれるはずだよ。」

そう言って、俺の手をスリスリと頬擦りした。

全身悪寒がする。

「申し訳ございません。お客様の気持ちに応えられません。」

嫌な気分が顔に出そうなのを堪えてしっかり断った。緩んだ手の隙に奥のキッチンに引っ込んだ。


「店長、俺しばらくキッチン担当するわ。すまん。」

キッチン用のエプロンを着て、店長に謝ると、店長は首を振った。

「ヤスさんが悪いわけじゃないっすよ。アイツ、前の客っすね。まだヤスさんに執着していたなんて。」

「いや、あれは俺にというより誰でもいい感じだろう。ただ、話聞いたのが俺なだけ。」

そういう客は割といる。
接客と好意をごちゃまぜにされては困る。


忙しい時間を過ぎた頃、キッチンから出ると裏口からベルが入ってきた。騎士服を着たままだった。
どうやら、店長がベルを呼んだようだ。

・・・ホッ。

「大丈夫ですか?」

ベルが俺の様子を心配そうにみる。
あ・・・なんか、ホッとする。なんでだろう。

「ヤスさんに迫ってきた男はまだいますか?」

「あぁ、あそこに座っている奴・・・。あ、でも騒ぎにはっ!!」

「分かっていますよ。ヤスさんはそのまま休憩室で待っていてください。一緒に帰りましょう。」

そう言うと、ベルはあの客が店から出たのと同時に、外へ向かった。

しばらくすると「解決しましたので。」と裏口から再びベルが入ってきた。
解決ってどんな脅しを・・・。深く聞かないおこう。ただ、俺や店長が言ってどうこう出来るタイプの人間ではなかったので助かった。

「ごめんな。大した事ないのに。」

「ごめん。はやめてください。色んな事我慢するのはよくないですよ。」

苦笑いした俺にベルの真剣な顔が向けられた。
コイツ、こんな顔するんだな。


ベルもさっきの客のような所がある。

だけど、ベルの方が計画的だからタチが悪い。強引のようでいて、俺の反応をしっかりと見極めている。
恐怖や本当の意味で嫌だと言えば、絶対にそれ以上はしない。そういうずる賢さがあるんだ。その上手いバランスの囲いにしっかりと捕獲されてしまったのを感じる。


そっとベルの馬に乗せられ、後ろにベルの温もりを背中越しに感じる。

そして、昔から俺に聞きすぎない。そういう所が居心地いいんだって。
あの可愛かったベルならいざ知らず、この強引で身勝手な大人ベルにもそういう風に感じる。
結局、ベルは根本的な所は変わらないのだと気づかされる。

馬の歩く振動に誤魔化してベルの身体に少し引っ付いた。




夜、久しぶりの店の手伝いで疲れて随分早寝してしまった。
夢うつつでベルが俺に触れるのを感じた。いつもの事だ。
ベルが、何か言っている。


「僕のことは・・・?」

「・・・。」
僕のことは?何だろうか。

そういえば、俺はベルに好きだと言った事はなかった。また好きと言えと求められたことはない。ベル自身は嫌になるほど好き好きだと言いまくるけど。

もしかしたら、ベルはずっとそういう葛藤と戦っているのかもしれない。


「好き。」

薄目を開けてベルに伝える。セックスも何度もしているのに。今更か。

やっぱり眠いので寝るように伝えた。

ベルの反応が何もなかったので、あぁ、やっぱり知っているよなと思った。

なんだかベルが勃起しているけれど、いつもの事なので放置した。

それから、ベルの身体はやっぱり大きくてスッポリ包まれるのはとても好ましく感じる。

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