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ベル 中 【ベル視点】

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僕は、変わりたいと思った。

弱い奴じゃヤスさんに認めてもらえない。
強くなって格好よくなったらヤスさんに少しは認めてもらえる気がした。

ずっと、習っていた剣技にも別人のように力を入れた。

きっと僕が努力すればこの想いを分かってくれるのではないだろうか。僕は傲慢にもそういう風に思っていた。



僕が中学生、ヤスさんは高校生。年の距離が縮まる事がないのと同じで、どんなにヤスさんに駆けて行ってもヤスさんとの距離が近づく事はなかった。

最近は会うと目を反らされる。会話も少なく、あー。とかうん。とかただ頷かれるだけ。


小学校の頃、一度短パンを履いたヤスさんの足をなぞったことがあった。

あの時、ヤスさんはハッとした。

僕がヤスさんに向けた視線は欲情だったから。

ヤスさんは気付かないふりをした。僕がヤスさんをそういう意味で好きだって気が付いたハズ。

ただ、あの時からヤスさんの態度が硬化した。

どうしていいのか分からず、ヤスさんが距離をとるままに僕も距離を置いた。


距離を置いている間にヤスさんと女が歩いている姿を何度か見かけた。


ヤスさんは、どうも頭の悪い女が好きなようだ。

「ヤスってばさー、何でも言うこときくじゃん。貢がせてポイしようと思うのよ。」

皆、頭のおかしい女ばかりだ。

あの優しいヤスさんを見て、そういう風に思える事がおかしい。
そういう女は皆、ヤスさんから離れるように仕向けた。どいつもヤスさんを金づるとしか思っていなくて簡単だった。


ヤスさんの趣味は本当に分からない。なんだか、心配になってしまう。


第一、あんな華奢な細い腰で女を抱けるのか。

それより愛撫されて乱れる姿の方がいいのに。

毎日夜になればヤスさんを思い浮かべる。服に隠れた肌はどんな風なのか。触ったらどんな顔をするのか。・・・あの細い腰がくねる姿を見てみたい。





雨の日、久しぶりにヤスさんが肩に触れる程近くにいた。

突然の大雨に嬉しくなった。こんなに近くに寄らせてもらえたのはいつぶりだろう。

相変わらず、髪の毛がひょこんと跳ねている。可愛い。


胸がぎゅうっと苦しくなる。

視線が絡むと、ヤスさんは眉間をシワを寄せて嫌そうな顔をした。


僕の想いが迷惑だという顔だった。僕は気持ち悪いですか?

その状況を打破したいと思った。


「好きです。」

告白していた。溢れすぎて口からポロリと出た。

「気のせいだ。」

気のせいで、こんなにずっと好きでいれるわけがない。

もう、ずっと好きなのに。

そうじゃないと言うと、なら二人で会わないと言われた。

そんな・・・。

「僕っ!好かれる努力をします!」

気が付いたら、ヤスさんの身体を抱きしめていた。思った以上に華奢な身体に驚いた。

胸が苦しくて、一瞬で何も考えられなくなった。

すぐに身体を離して謝ったのに、見た事ないヤスさんの冷めた表情。

去っていく時は僕の事を見向きもしなかった。



僕は、勘違いしていた。心のどこかで仕方ないなと笑ってくれるヤスさんを想像していた。

現実は、そんなに甘くなかった。僕は勝手な理想ばかり押し付けてしまっていることにも気が付いた。


視線に入れなかったらこの想いは忘れるのだろうか。



田舎の小さい街。

離れていてもどこかでヤスさんを見かけられる田舎は、都合がよかった。


「ベル。」

気が付けば、ヤスさんの傍まで歩いてきていた。僕は重症だ。禁断症状で近づきすぎた。

「・・・会わないって言っただろう。」

僕が真っすぐヤスさんを見ているのに、ヤスさんは僕だと分かった瞬間、別の方を向いた。

「田舎だから会ってしまいますよ。」

「・・・なら、話しかけんな。」

ヤスさんの態度も言葉も棘のように突き刺さる。

「もう困らせないので、そんな離れて行かないでください。」

女が好きなヤスさんが僕の事を気持ち悪がるのは分かる。もう言わない。好きだという気持ちもずっと秘めておくから。だから、傍にいさせて欲しい。


「無理。」

ヤスさんは、そう言って僕を見ずに早歩きで歩き出した。


僕は立ちすくんだ。・・・立ちすくんで、ぎゅっと震えた手を握って、ヤスさんを追いかけた。


「ヤスさんっ!嫌だっ!!」

ヤスさんの腕を掴むと、何するんだっとヤスさんが暴れた。掴んだ腕は細かった。

「嫌だっ!遠ざけないでっ!!」

「無理だってっ!」

もみ合っていると、ぐらりとヤスさんの身体が揺れた。

あ。下は土手だ。

グラつくヤスさんの身体ごと抱きしめて傾斜のある土手にずざざーっと転げ落ちた。


はぁはぁ。

「ヤスさん、無事っ!?」

転げ落ちた場所が、丁度芝生があってよかった。

腕の中にいるヤスさんの無事を確認するため、顔を覗き込んだ。


「・・・。」

その腕の中にいた、ヤスさんは見た事ない表情をしていた。

「っ見んな。」

ヤスさんが腕で顔を覆った。

真っ赤な顔。

どうして?もしかして、僕を意識したの?その顔は嫌悪じゃない。

僕は、ヤスさんの腕をどかした。ヤスさんはギッと僕を睨めつけた。

ヤスさんは僕の事をよく分かっている。秘めておくなんて無理だ。秘めてもどこかで溢れてしまう。

いい匂いがする。僕はヤスさんの方へ顔を近づけた。

ヤスさんは僕がしようとすることに気が付いて抵抗した。でも、腕で押さえた。

それから、初めてその唇に触れて唇を合わせた。

柔らかい。

ヤスさんとキスしているという事実に頭がくらくらした。





それから、ヤスさんは僕を徹底的に避けるようになった。

マークに頼んで、家に寄らせてもらった。とにかくヤスさんに会いたかった。

部屋から出てきたのはヤスさんではなくて、頭の悪そうな女だった。

僕を見ると「え?だれぇ?」と近づいてきた。

「ヤスさんは?」

「アイツならタバコ買いに言ってくれてるよぉ。すぐ戻ってくるんじゃない?それより、お姉さんと遊ぼうよ。」

ヤニ臭い身体がヤスさんに近づいていると思うと気分が悪い。そのデカいだけの胸を腕に押し付けられて吐き気がする。

パッと腕を女から引き離した。

「ヤスさんの彼女でしょう?」

「違うって。ただのパシリ。アイツ、なんでも聞いてくれるんだよね。しかもヤラせてあげようかって言ったら、一生大事にするから!って必死になんの。バッカじゃん。」


ヤスさんの必死になって言う姿を想像してしまった。

多分、もの凄い可愛い顔をしていただろう。一生って言うならきっと一生大事にしてくれるはずなのに。


僕なら、絶対に笑ったりしないのに。



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