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ぎくり

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「ベル様、今まで大変なご無礼を申し訳ございませんでした!!」

ベルが馬車に降りたタイミングで腰までガバーっと頭を下げた。

「・・・帰ってくるなりなんですか?」

流石のベルも驚いている。

頭を上げてください。とベルに言われたが、頭を上げられない。
とりあえず、頭を下げたまま謝ろう。
「5000万の借金の事聞きました。俺にはすぐに返せる見込みはないから助かりました。知らずに暴言吐いてごめんなさい。」

「あぁ、それですか。」

いいですよ。と軽い返事が聞こえる。

「・・・。」

軽いがそれでいいわけがない。5000万も知らずに肩代わりさせていたなんて。しかも、俺と女の子の事でベルには無関係の事なのに。
母ちゃんが帰った後、執事さんに事実を問うた。
執事さんは、極秘の金利関係の書類を見せてくれた。確かにベルが俺の借金を肩代わりしてくれていた。

「俺、少しずつになりますが、ちゃんと借金返済します。」

「ヤスさんの敬語、可愛いですね。」

「そ、そこかよっ!」

頭を伏せていたのに思わずツッコみいれちゃう!!
目が合うと、相変わらずなベルのニッコリ顔。

「ただいま。」

「・・・おかえりなさい。」

執事さんから、屋敷の中へどうぞと声をかけられる。ここ玄関前だ。
ベルは俺の腰に手を当て、今日はどうしていましたか?といつも通りの会話が始まった。
母ちゃんが来たことを報告すると、「次の休み、一緒に行きましょうか。」と声をかけられた。

ベルは夕ご飯後は、必ず書斎に夜遅くまで仕事で籠るから、色々聞くなら夕ご飯時だ。

「さっきの借金の事なんだけど。」

「もう、ヤスさんに借金はありませんよ。それだけです。さ、ご飯食べましょう。」

ベルがモグモグと上品に食べだして、俺に食べるように促す。
食べないと腰が細くなるとかまた言うし。

しかし、どうしよう。
どう切り出せばいいんだ。すぐに返せないのに大口叩けないし、かと言ってこのままベルの“いいですよ。”に乗るわけにはいかない。
悶々と考えていると、ベルが食事を終えた。
あ・・・行ってしまった。

仕方ない。今日はベルとの寝室で待つか。
アイツは、すぐに厭らしい事に持っていきたがるからな。ちゃんと話をしよう。
そうだ。アイツの訳の分からないままに流されていないで、どういう風に金を返せばいいのかベルに相談しよう。
そう思って待っているのに、ベルめ。仕事が好きな奴だぜ。
遅い。眠い。ウトウトと少し眠っているとベルが横で布団に入ってくるのが分かった。
軽く薄目を開けると、ベルが俺の額にチュッとした。

「おやすみなさい。」

「へぁ?」

寝ぼけた顔でベルを見ると、可愛いなぁと言うので目が覚めた。
可愛くないっての。
上体を起こしてベルを見た。

「借金の事なんだけど、本当にちゃんと返したいと思っているんだ。じゃないとっ」

「いいんですよ。プレゼントと同じです。言ってもヤスさんが喜ばなければ言う必要なんてないと判断しただけ。」

「でも、そういう訳にはいかない金額だよ。」

ベルが困った顔をする。
え?そこ困られても困る。なんだ?その反応。・・・やめろよ。


「僕が一番言われたくない事、当てられますか?きっとこのまま会話が続けばヤスさんの口から出るでしょうね。もしかしたら、それを言われたくないから黙っていたのかもしれません。」

「・・・。」

嫌い?嫌いは昨日言った。このまま会話が続けば・・・。

「っふぐ。」

言おうと思ったら、ベルの手が口を覆った。

「いいです。やっぱり当てないで。本当にいいんです。」

ベルが不安げな顔をした。

・・・・何年振りだ?この顔。昔はよくこの表情をしていた。

ここ6日間で見たベルは自信満々でニコニコと不気味な笑顔をする奴だった。


ぎくりとした。
からかったり脅したりしてくれた方がいい。

「もう寝ましょう。寝ないと、今すぐ犯しますよ。」

ベルが俺の服のボタンを外しかけた。

「あっ!!もうっ!もう寝まーすっ!」

がばりと布団に入った。


布団に入っても、興奮したとかアレコレ言って俺を襲ってくるに違いない。ここ6日間ずっとそうだったもんな。騙されないぞっ!
そう思って、包まった布団をぎゅうっと持った。
「・・・・。」

隣でベルが横になってスプリングが沈んだ。
しばらくして、本当にベルの寝息が聞こえ始めたので、俺は上体を起こして隣を見た。

寝てる。

「・・・なんで?」

いつもなら押し倒してくるのに。お尻の拡張云々とか言って襲ってくるじゃん。
益々、訳がわからん。
一晩中、悶々と悩んでしまった。


朝起きると身体がだるくてぼーっとする。
あ、これは知恵熱だ。

「今日は寝てください。熱がありますよ。」

起きたベルは、俺の異変にすぐに気が付いて、おでこに手をあてた。

「だ、だいじょうぶぅう。」

起きようとした俺の身体をグイっと布団に戻した。

「ダメです。そんなウルウルした目でうろつかないで。微かに頬がピンクとか色っぽすぎますよ。」

30歳近い男に、ウルウル?色っぽいだぁ?
一度、本当に眼科へ受診しろ。

「・・・分かった。今日は寝るから。」

まだ、何か言いたそうなので、布団にもぐった。

「僕は仕事ですが、早めに帰ってきます。」

「はよーいけー・・・。」

布団にもぐったまま言った。
ベルは布団にもぐったままの俺を軽くぎゅっと抱きしめた。軽く抱きしめられているだけなのに、とても苦しかった。布団にもぐっているせい?それとも微熱があるせいだろうか。



「本当にいいんです。ヤスさんがいれば。」




ぎくりとした。

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