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魔法学園では基礎科目以外の授業は選択性である。個々の特徴や才能を生かすために何を学ぶかを自分で決める。
魔法は「火・風・水・土・光・闇」の六つのエレメントが含まれている。かつては個々の属性によりクラス分けをしていた。
しかし近年は属性別ではなく自主性を重んじ選択制である。属性を強化することは強さに繋がる近道だが、必ずしも自身の属性がやりたいことと繋がっているわけではないからだ。
ちなみに非魔法使いは、どの授業でも受講可能である。
普段、俺はセスと授業が被らないように避けている。
だが今日、俺は彼と同じ授業を選択していた。
皆の手本となるように教師に指示されたセスは壇上に立ち、水を雪に変える魔法を披露している。白い雪の結晶が出来上がる様子はとても美しく、皆が見惚れていた。
こんなに美しいものを創り出しているのにも関わらず、セスの表情は不機嫌そのもの。怒っているようにも見える。
だからか、凄い魔法を目のあたりにしているというのに、静かなものだ。そして、授業が終わっても彼は誰かと談笑することなくひとりでいる。
俺は待っていましたとばかりに席から立ち上がり、セスに近づいた。
「やぁ、ゴリ……いや、セス。相変わらず綺麗な魔法を使うね。感心したよ」
俺が声をかけると、セスは目を見開く。
「なんだい、昨日の態度とは違うって言いたいのかな? 俺にも色々君に言いたいことがあってさ」
「言いたいこと?」
「そうだ。君は嫌かもしれないけれど、どうか今から一緒に来て欲しい」
セスは無表情のまま、頷きもしない。
だが、俺が「お願いだよ」ともう一度頼むと、彼は「分かった」と首を縦に頷き立ち上がる。そんなセスに内心ほっとして、俺は彼と共に教室を出た。
案内した場所は、先ほどとは別の校舎で誰も使っていない物置と化した空き教室だ。
誰もいないと確認してから入り、セスに椅子を勧める。
「まあ、座りなよ」
「……」
セスは少しの沈黙ののち、素直に椅子に座った。立っている俺の方が彼より視線が高くなる。
「……昨日、怒らせたから話しかけてくるとは思わなかった」
「おや、撤回してくれるのかい?」
セスは小さく「無理だ」と呟く。苦虫を嚙み潰したような表情をするため、仕方ないと用意してたものを彼の目の前にぶら下げる。
「穴の開いたコインに紐? なんだこれは?」
魔法使いであるセスは、催眠術のやり方など知りもしないだろう。
「ねえ、セス」
俺は彼を見つめた。こんな風に至近距離で彼と視線が合うなんて久しぶりだ。驚かせたのか、その大きな身体がぎくりと強張る。
「何も考えず、今はただ俺の声を聞いて欲しいんだ」
「……」
「頼むよ。一生で一度のお願いだから」
静かな場所で集中して自分の声を聞いてもらうことが、術の成功率を高める。
セスが拒否をするようならば、脅すことも考えていたが、彼は静かに頷く。
俺はほっと胸をなでおろし、彼の目の前でコインを左右にぶら~、ぶら~と揺らしはじめた。
怪訝そうな表情をした彼が自分を睨むが、コインを見るように促す。
「いいかい、今からセスは俺の声だけ聞くのだ」
「……」
「君は俺の話がぁ、とてもとてつもなく聞きたくな~る」
ぶら~、ぶら~。
「君の瞼はだんだん、だんだ~ん、重くなる~」
彼は元々表情が乏しい。かかっているのかいないのか反応が分かり辛い。が、繰り返しコインを揺さぶる。
続けていくうちに彼の瞼が重そうになっていく。半目となりついには瞼を閉じた。
顔が落ちるのを慌てて支える。
「わっ」
俺はセスの表情を覗き込んだ。瞼を閉じたままだ。
──え、本当に催眠術にかかった?
術の成功に驚きながら、早速指示を出す。
「ゴホン。セス~セス~、君は今、俺の言葉に返事をしたくて堪らない。返事をしろ」
「はい」
よし。と内心ガッツポーズをしながら本題に進む。まずは、嫌われている現状をどうにかしたい。
「君はだんだん俺が好きにな~る。俺のことを傷つけようとは思わなくな~る」
セスが小声で「何故」と言う。
ン?
「……俺がお前を好きになって欲しいのはなぜだ? リュリュが俺を好きだからか?」
「は? ——いや、質問は許可しない。はいと答えろ」
「はい」
質問されたから催眠が解けたのかと思ったけれど、セスの瞼は深く閉じられ催眠はまだ解けていないようだ。
「いいから。セスは何も考えずに俺のことを好きになれ」
「はい」
素直な返事に安堵し、指示を続ける。
「俺の事を嵌めようとする企みを忘れたまえ~」
「……」
返事がない。
「ごほん、俺はセスの味方~。俺のことを傷つけようとは思わなくな~る」
「はい」
「ならば、俺のことを嵌めようとする企みを忘れたまえ~」
「……」
──おいっ、なんでだよ! はいって言えよ! このゴリラ!
こうしている間にゴリラの眉間にシワが。
いけない。そろそろ本当に催眠術が解けかかっているのかもしれない。
俺は術が解けてしまう前に最後の指示を出した。
「とにかく、悩むな! 俺のことを嵌めようと企んでいる時間をごっそり忘れるのだ!」
俺は彼の返事を聞く前にパンッと両手を叩いた。
魔法は「火・風・水・土・光・闇」の六つのエレメントが含まれている。かつては個々の属性によりクラス分けをしていた。
しかし近年は属性別ではなく自主性を重んじ選択制である。属性を強化することは強さに繋がる近道だが、必ずしも自身の属性がやりたいことと繋がっているわけではないからだ。
ちなみに非魔法使いは、どの授業でも受講可能である。
普段、俺はセスと授業が被らないように避けている。
だが今日、俺は彼と同じ授業を選択していた。
皆の手本となるように教師に指示されたセスは壇上に立ち、水を雪に変える魔法を披露している。白い雪の結晶が出来上がる様子はとても美しく、皆が見惚れていた。
こんなに美しいものを創り出しているのにも関わらず、セスの表情は不機嫌そのもの。怒っているようにも見える。
だからか、凄い魔法を目のあたりにしているというのに、静かなものだ。そして、授業が終わっても彼は誰かと談笑することなくひとりでいる。
俺は待っていましたとばかりに席から立ち上がり、セスに近づいた。
「やぁ、ゴリ……いや、セス。相変わらず綺麗な魔法を使うね。感心したよ」
俺が声をかけると、セスは目を見開く。
「なんだい、昨日の態度とは違うって言いたいのかな? 俺にも色々君に言いたいことがあってさ」
「言いたいこと?」
「そうだ。君は嫌かもしれないけれど、どうか今から一緒に来て欲しい」
セスは無表情のまま、頷きもしない。
だが、俺が「お願いだよ」ともう一度頼むと、彼は「分かった」と首を縦に頷き立ち上がる。そんなセスに内心ほっとして、俺は彼と共に教室を出た。
案内した場所は、先ほどとは別の校舎で誰も使っていない物置と化した空き教室だ。
誰もいないと確認してから入り、セスに椅子を勧める。
「まあ、座りなよ」
「……」
セスは少しの沈黙ののち、素直に椅子に座った。立っている俺の方が彼より視線が高くなる。
「……昨日、怒らせたから話しかけてくるとは思わなかった」
「おや、撤回してくれるのかい?」
セスは小さく「無理だ」と呟く。苦虫を嚙み潰したような表情をするため、仕方ないと用意してたものを彼の目の前にぶら下げる。
「穴の開いたコインに紐? なんだこれは?」
魔法使いであるセスは、催眠術のやり方など知りもしないだろう。
「ねえ、セス」
俺は彼を見つめた。こんな風に至近距離で彼と視線が合うなんて久しぶりだ。驚かせたのか、その大きな身体がぎくりと強張る。
「何も考えず、今はただ俺の声を聞いて欲しいんだ」
「……」
「頼むよ。一生で一度のお願いだから」
静かな場所で集中して自分の声を聞いてもらうことが、術の成功率を高める。
セスが拒否をするようならば、脅すことも考えていたが、彼は静かに頷く。
俺はほっと胸をなでおろし、彼の目の前でコインを左右にぶら~、ぶら~と揺らしはじめた。
怪訝そうな表情をした彼が自分を睨むが、コインを見るように促す。
「いいかい、今からセスは俺の声だけ聞くのだ」
「……」
「君は俺の話がぁ、とてもとてつもなく聞きたくな~る」
ぶら~、ぶら~。
「君の瞼はだんだん、だんだ~ん、重くなる~」
彼は元々表情が乏しい。かかっているのかいないのか反応が分かり辛い。が、繰り返しコインを揺さぶる。
続けていくうちに彼の瞼が重そうになっていく。半目となりついには瞼を閉じた。
顔が落ちるのを慌てて支える。
「わっ」
俺はセスの表情を覗き込んだ。瞼を閉じたままだ。
──え、本当に催眠術にかかった?
術の成功に驚きながら、早速指示を出す。
「ゴホン。セス~セス~、君は今、俺の言葉に返事をしたくて堪らない。返事をしろ」
「はい」
よし。と内心ガッツポーズをしながら本題に進む。まずは、嫌われている現状をどうにかしたい。
「君はだんだん俺が好きにな~る。俺のことを傷つけようとは思わなくな~る」
セスが小声で「何故」と言う。
ン?
「……俺がお前を好きになって欲しいのはなぜだ? リュリュが俺を好きだからか?」
「は? ——いや、質問は許可しない。はいと答えろ」
「はい」
質問されたから催眠が解けたのかと思ったけれど、セスの瞼は深く閉じられ催眠はまだ解けていないようだ。
「いいから。セスは何も考えずに俺のことを好きになれ」
「はい」
素直な返事に安堵し、指示を続ける。
「俺の事を嵌めようとする企みを忘れたまえ~」
「……」
返事がない。
「ごほん、俺はセスの味方~。俺のことを傷つけようとは思わなくな~る」
「はい」
「ならば、俺のことを嵌めようとする企みを忘れたまえ~」
「……」
──おいっ、なんでだよ! はいって言えよ! このゴリラ!
こうしている間にゴリラの眉間にシワが。
いけない。そろそろ本当に催眠術が解けかかっているのかもしれない。
俺は術が解けてしまう前に最後の指示を出した。
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