一番うしろの席にいる奴とは、前世で一生を添い遂げました。

モト

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7.前世ツガイはヤリチンなのが玉に瑕

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 夏休み、特に青春を謳歌するでもなく、バイト三昧の日々を送った。叔父さんから高校生らしく遊んでこいと言われたけれど、予定がないと家でぐうたらするだけになるので、バイトしていた方がいいのだ。

 そんな風に送っていたら、本当にあっという間に夏休みが過ぎてしまって、二学期が始まった。



「おぉ、凄い……!」

 一か月ぶりに学校に登校すると【柔道部全国大会優勝おめでとう】というでっかい垂れ幕が校舎に飾られていて、「やったぁ」と思わず声が漏れる。
 翔真は団体でも個人でも優勝して、全校生徒揃っての朝礼で表彰されていた。

 次の休憩時間に木田と共に、祝いの言葉を伝えようと翔真がいる教室へと出向いた。けれど、彼の周りは人が多くて、何も言わずそのまま教室を後にした。

 今は便利な電子機器もあるし、祝マークを沢山付けたメールを送っておいた。きっと周りからいっぱいそんなメールが届いているだろうけど、「ありがとう」と翔真から返信がきた。暫くは注目されるだろうし、返信は不要だと書いておけばよかった。

「あっ、ふくちゃん可愛い~~!!」
「ふくちゃんいいよね」
「……」

 女子たちのそんな会話が耳に入り、思わず振り向いた。
 ……ほら、福ちゃんとは呼ばれたことないけどさ。俺は福地だからつい反応するんだよ。


 だけど、なんてことはない。彼女たちが“ふくちゃん”と言ったのは、ぬぼうっとしたふくろうのキャラクターのことだ。

 俺のセンスでは、あのキャラはそんなに可愛いとは思わないけれど、流行りとはなんとも恐ろしいことだ。
 何故か、その日を境にふくろうキャラのキーホルダーを鞄に付けた女子が多くなった。たまに男子も。

 うちの学校での流行り方は尋常ではなく、不思議に思っていたら、ついにとうとう木田の鞄にまでふくろうのキーホルダーが付き始めた。
 木田はドルオタで、アイドルのロゴキーホルダーなどを付けたりはするが、俺と同じくキャラには興味がないタイプなのに。

 机に肘付けて、木田の“ふくちゃん”を眺めていると、彼が腕を組んで話し始めた。

「昔さ、俺の親世代? 茶髪にしないとダサいみたいな時代があったんだって」

「……木田、なんの話だ」

「俺は正直、ふくろうキャラの可愛さにはピンと来ないが、このビックウェーブに乗っかかりたい!! 実は結構前に姉貴がこの一番くじ当てて二個あるからって俺にくれたんだよ!」

 どうやら、木田はこのキャラを話題に女子に話かけようと考えているようだ。果敢な勇者になるつもりだ。

 空気とは恐ろしいもので、では俺も“ふくちゃん”というキャラのことを知らなければ! なんてじわ~と焦るもの。

 高校生の話題の乗り方は勉強が必要だしな……
 携帯を取り出してyチューブを見て、俺もキャラ勉し始めた。



 すると、その一週間後、何故か学校内であれほど盛り上がっていたふくちゃんブームが静かになった。

 完全に流行に乗り遅れていたと思っていると、学校内で流行した発端を知った。
 その発端というのが、翔真が柔道全国大会に“ふくちゃん”を連れていたこと、それからいつも鞄に付けていたからなんだそうだ。


 おそらく、翔真が鞄に付けていた“ふくちゃん”とはコンビニバイトの一番くじの“ふくちゃん”で間違いないだろう。
 そして、彼がそれを付けなくなったものだから、みんなも付けなくなった──と。


 なんだそれと呆れながら、流行とはそういうものなのかと一つ勉強になった。

 横にいる木田はまだ“ふくちゃん”が話題に有効だと女子に果敢に話しかけている。

「はぁ~~、女子って、難しい」

 放課後、女子に遊びに行かないかと誘って断られている木田がしょんぼり肩を落とした。
 話題がないのに話題を作ろうとする木田の熱意には感心する。

「どんまい」
「おう」
「俺がいるじゃん、帰ろうぜ」
「おう……」

 木田の肩を軽く叩いて、共に教室を出た。
 校舎を出ると夏の日差しが眩しく、暑すぎて蝉の声も聞こえない。コンクリートの道はゆらゆらと蜃気楼が出来ている。


「千春、このままバイト行くの?」
「いや、今日は休み」
「んじゃ、ちょっと涼みにマッグへ行こうぜ」

 寄り道するなと言いたいところだけど、残暑の暑さに一度涼みたい気持ちはよく分かる。首から流れる汗も不快だから木田の提案に賛同した。

 マッグの店内に入り、期間限定のシェイクを注文する。それから、ちょうど木田が応援しているアイドルがライブ配信しているそうで、ぼんやりとそれを見た。
 その間、小腹が減ったので、ポテトを食べ、それを食べてから店を出た。


「あ──、マシだ……」

 外の気温がマシになっていた。クーラーで冷えた身体も丁度いい。
 マッグに寄り道したから、いつもの帰り道とは逆方向を向いていて、遠回りの帰路を木田としゃべくりながら、歩く。
 ふと、視線の先の住宅街に、見慣れたあの長身が見えた。

(あ、翔真じゃん)

 遠めでもあの身長とガタイのよさは、翔真だとはっきり分かる。部活はもう終わったのだろうか。

「翔──……」

 声をかけようとして手を挙げて、ちょっとゆっくり下げた。
 翔真の横には女子がいたのだ。この暑い中、彼女は翔真に身体を寄せている。翔真の腕はポケットにあるけれど、どうみたって恋人同士。

 学園でいる時とは違う、怪しい──雰囲気……。

 彼女をとっかえひっかえしているって聞いていたけど、実際に女の子と二人っきりでいるところは初めて見る。

 翔真と彼女は住宅街の奥へと消えていった。
 翔真の家は俺がバイトしているコンビニの近くだと言っていたから、向かっているのは多分……彼女の家。
 学園で見せるような子供っぽい表情や仕草じゃなくて、なんだかとても大人な感じだった。

「なんか、知らない人って感じ」

 そう呟いて自分もそこから歩き出した。数歩進んで横で変顔している木田に気が付いた。

「なんで変顔してんの?」
「──よせ、これが通常運転だ」

 翔真のモテ具合を見て、冗談めかして僻んでいるのかと思えば、真剣っぽい。
 その“っぽい”顔で、「千春はキレイ目な女子が好き、美乳派なんだよな?」と聞いてくる。……真剣だと感じたのはどうやら気のせいのようだ

「何? 急に」
「……俺は、正直大きければちょっと垂れていてもいいなと思うのだが、千春はスラッとしたキレイな子がいいんだよな!? 女優顔って感じの!」

 前言っていたもんな⁉ と言われる。
 おそらく、アイドル系か女優系かの二択で聞かれた時の話だろう。

 でも、キレイめが好きって言ったかな? 
 少し考えて、中学の頃を思い出した。

 俺と木田は陸上部で。同じ部内で仲良くなった女子がスレンダーでキレイな子だった。親しくなって、好きか嫌いかで言えば好きだけど、恋かというと微妙なライン。
 初恋かと言われると、そうかも。
 ──けど、部活を辞めて話さなくても平気だったから、やっぱり違うような気がする。


 すっかり忘れていたことが急に話題に上がって、返事に困っていると、木田が益々変顔になっていく。苦虫を嚙み潰したようなそんな表情。

「盛岡っちはあぁ見えて不器用で、……急いで人を好きになろうとしているんだよ」

「? お前がそんなに翔真を見ているとは知らなかったよ」
「ケロッとしている千春を見ると、あぁ~……って感じ」

 切ない! と木田は自分の身体をぎゅっと抱きしめた。

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