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しおりを挟む「はぁ⁉ 前世がふくろうだったことを思い出したって⁉」
「うん。俺の前世、ふくろう」
俺、福地 千春は、つい三日前に前世を思い出した。
森に住むふくろうだった。思い出したからといって、人格に影響がないようなそんな記憶を小学校からの親友である木田 友一に伝えてみた。
親にも言っていないことだ。けど、この木田って男に言ったところで、俺を見る目は変わらないだろう。多分、俺が宇宙人だって言ってもそこそこに流してくれる。そんな奴だし、そんな仲。
ただ、今は昼休憩で、木田は握り飯を口の中一杯に頬張っていたから、話す度、米粒が飛ぶ。
自分の持っているパンをサッと避けながら、その食べ方を続ける限り女子にはモテんだろうなぁと顔を顰めた。
「千春ってば、そんなオカルトっぽいこととか言う奴だっけ?」
「ん~、別に信じなくてもいいけどさ。マジで思い出したんだよ、前世。俺ってば、目ん玉くりくりのさ、ふっくらな胸元、丸いフォルムでめっちゃ可愛かったんだよな」
こんな話を急に信じてもらおうとは思っていないから、軽く話す。聞いている木田も面白くないジョークと受け取ったのか「ふーん、目がデカいのは今世もじゃん、羨ましいぜ。俺なんか一本線の細めなのに」と普通に会話を続ける。
「──で、なんでそんなネタ思いついたの?」
ネタか。まぁ、俺が木田でもそう思うだろうな。
「あぁ、木田に話そうと思ったのはさ。前世夫婦だった奴に会っちゃってさ。ソイツとまぁ、同じクラスだったからさ。内々に秘めておくよりサッと言葉に出しちゃいたいって感じ?」
「え? 夫婦って……」
「うん、ふくろうだから、ツガイなんだけど」
木田から二度目のはぁ? を聞きながら、廊下側の一番後ろの席を指さした。そこにいるのは、入学式で出会った身長190センチの大男。彼の身長ならば、必然的に席は一番後ろだろう。
「アイツ。アイツのこと見て、前世を思い出したんだよ」
「んん~?」
木田は口元を歪ませた変な表情で俺を見たあと、廊下側に座る大男を見た。
木田はその男の名前を思い出そうとするが、まだ高校始まって三日目、名前が出てこないのだろう。
俺も、まだクラス全員の名前を覚えたわけじゃないけれど、ツガイだった男の名は覚えた。
「盛岡 翔真」
「あぁ……、盛岡、ね。盛岡。……千春ってアイツと今まで接点あったのか?」
今度は眉を歪ませた木田がうーんと腕組みをする。
これはお笑いのつもりなのか、それとも変な物でも食ったのか? 彼が考えているのはそんな感じだろう。
「接点なんてないよ。入学式に盛岡を見てツガイだったなとこう~……急に思い出したっていうか」
入学式で「どうも」と挨拶を交わした盛岡とだけど、あれっきり話していない。彼はガタイがいい上に、強面で表情も少なく声も低い。15歳にはとても見えない雰囲気と容姿だ。
彼はまだクラスメイトとは打ち解けていないようで誰かと話している様子を見たことはなかった。だから、どんな奴かはまだ分からない。
「えっと、さ。よく知らない奴をジョークのネタに使うのはやめた方がいいぞ? やたらデカくて怖そうじゃん」
「ん~多分だけど、そんなに怖くはない……かな?」
盛岡に前世記憶があるのかは定かではないけれど、挨拶した時、ぺこりと頭を下げる仕草は礼儀が正しそうなイメージだ。筋肉隆々だからきっと礼儀を重んじるスポーツでもしていそう。
「ん? うーん? うーん……」
木田は頭に疑問符を付けながら、ポケットからスマホを取り出した。素早く画面に何か入力して検索している。
彼は疑問があればネットですぐに検索する。俺もそうだけど、疑問を持つと人に聞くより先にスマホ。スマホの情報が間違っていたら、おしまいだ。ちゃんと本を読めと大人に叱られている。
木田のことを眺めていると、ふむふむと顎を擦りながら、彼はスマホ画面を俺の顔に近づけた。
そこには寄り添う二羽のふくろう。
「ふくろうって一生添い遂げる個体が多いって聞いたことあるけど」
鳥類は一夫一妻制が多くて、鶴やワシ、アホウドリは離婚率がトップに少ない。ふくろうも一度ツガイになったら一生を添い遂げる。
「うん。俺、アイツと一生を添い遂げたよ」
「ヒュ~~!」
「だから、前世ね」
考えるのが面倒くさくなったのか、木田が適当に話にノッてきた。
俺も話を聞いてもらいたかっただけだから、適当な反応でむしろホッとする。話を切り上げて、話題を変えようと思った時、廊下側の後ろに座っている盛岡と視線が合った。
俺達の露骨な視線に気づいていたのかもしれない。盛岡は立ち上がるとこちらに近づいてきた。
まるで巨人兵みたいだな……と歩く姿を見て思っていると、あっという間に盛岡が俺達の目の前にいて、影になる。
威圧感に木田と俺は口を一文字にしていると、巨人兵……盛岡が話しかけて来た。
「……自分の話をされているのかと思って」
「……」
そりゃあ、こんな教室内であからさまな視線を送れば、気になって当然だろう。
低い声と無表情は怒っているのかいないのか分からないけれど、パンッと両手を合わせて「ごめん!」と謝った。
人の少ない昼休みの教室、誰も俺達に関心がないと思っていたけど、噂される方はたまったものではない。
「あー……露骨な視線だった、よな?」
「……」
「あー。あー……えっと、本当にごめん! そうだよな。教室でおかしなことを言うべきじゃなかったよな」
「……」
前世ツガイだなんて。──はた迷惑なこと言った?
彼は俺をジッと見下ろしたまま無言で、ただただ威圧感。
いたたまれなく口を閉ざした俺の横で、木田が助け船を出すように、「まぁまぁ、空いている席に座れよ~」と盛岡を座らせた。
視線が逸れてホッとする。
「俺、木田友一くん。こっちの目ん玉くりくりは福地千春ね。よろしく。んで、盛岡っちって呼んでいい?」
「盛岡っち? ……木田、それはあまりに慣れ慣れしいぞ」
木田が会話をリードしてくれることは正直有難いけれど、心の距離感がある中で、その呼び方を提案するのはいかがなものか。
「あぁ、別にいい」
……○○っちって感じじゃないけど、いいのか?
「んで、盛岡っちは、前世ふくろうなん?」
木田がさらりと単刀直入に聞いている。相手のパーソナルスペースやら雰囲気を読まない奴。けど、三日間聞けなかったから有難い。
「あぁ。福地、くん? を見て思い出した」
「えぇえ? 千春を見てって、それ千春と同じじゃん」
多分、盛岡が頷くまで俺の言うことはほとんどネタに思っていたのだろう。俺と盛岡を交互に見比べて、口をパカッと大きく開け何か言おうとしたが、やめたようで口を閉ざす。それから顎を手で擦り「ふぅ~ん」とニマニマし始めた。
「いや、いいよ。信じる信じないは置いておいて、お前ら面白いじゃん。ネタにしておけよ」
木田は立ち上がると、俺と盛岡の肩をパンパン叩いた。
こういうノリに慣れている俺は構わないけど、初めてまともな会話をした奴にウザ絡みされて、盛岡からすればいい迷惑だろう。
横目で盛岡の様子を窺うと目が合った。
「ネタにするかは分からないけど。高校ではまだ仲がいい奴いないから、よろしく」
「……」
意外にも盛岡は木田のノリは嫌いではないようで、まさかのよろしく申請。
いいのか? 仲良くする奴らが俺らみたいなタイプでいいのか? とは思いはするが、真正面からそう言われれば、嬉しくはある。
俺が握手の手を差し出す前に、横にいる木田が「よろしくぅ~」と盛岡の手を握りブンブンと上下に振る。
「ネタのくだりからなら、握手は俺からだろ。あ、盛岡……っち? 俺もこんな奴なんだけど、よろしくね?」
「ん」
そんなわけで、高校で初めて出来た友人は、前世で一生寄り添ったツガイ。
こんな奇妙な縁があるもんだなととりわけ何か考える訳もなく、俺は盛岡翔真とつるむようになった。
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