上 下
21 / 22
第1章

21話 不幸中の幸せ探し

しおりを挟む
「にししっ、大漁大漁!」

 両手に握った札束を広げてゲスい顔で笑うリオン。
 ちなみに俺の両手にも宝石などの貴金属類がたっぷりと入った袋が握られている。
 そう、俺たちがやったのはシンプルな空き巣。
 グレーゾーンを軽々と飛び越えた真っ黒な犯罪だ。

「情報屋には相当持っていかれちゃったからね! このお金は今後のために必要だ!」

「あ、あぁ、そうだな……」

 なんというか、まだギリギリの凝っていたなけなしの倫理観が俺の心にモヤをかけている。
 人を三人もっておいて何を言っているんだと思われるかもしれないが、それとこれとは話は別だ。
 そもそもアレは他に手段を選んでいられない状況だったからな。

 だけど今回は、モロに自分たちの意思で起こした犯罪だ。
 多少なり思うところはあるのが普通というもの。

「……もぉ、まーだそんな暗い顔しちゃって。やっぱりこういうのには抵抗がある感じ?」

「そりゃそうだろ……そう軽々と罪を犯せるほど図太くはねえよ……」

 俺が苦々しくそう漏らすと、リオンははぁと小さくため息をついて俺の傍に寄って来た。

「一つ、ぼくが握っている無駄な情報を教えてあげよう。とある地域で権力を握っている貴族の話さ。そこは治安があまり良くなくてね。その地域の店はよく強盗なんかに襲われるんだ。だからその貴族は、自らの兵を巡回させて強盗から店を守る代わりに、店の人たちから金を受け取っている」

「……?」

 なんというか、昔漫画の世界とかで見たようなショバ代と言った感じがするな。
 しかし、今リオンがその話を俺に振ってきた意図が掴めない。
 だけどリオンはお構いなしで、にやりと笑いながら話を続ける。

「しかし不思議なことにね、その周辺の地域は驚くほど治安がいいんだ。全く犯罪が起こらないというわけじゃあないけど、そんな表立って暴れまわるような輩は少ない。兵隊さんも目を光らせているからね。でも、何故かその地域にたくさん現れる強盗達のほとんどは追い払われるだけで捕まることも少ないんだ。あははっ、なんでだろうねえ……」

「……っ!」

 なるほど、そういうことか。
 こいつ、少しでも俺の罪悪感を消すために……

「さて、無駄話はおしまいだ! ご飯でも食べに行こうか!」

 ワザと音が響くように両手を鳴らし、笑顔で俺の腕を掴むリオン。
 はやくいこ! と急かしてくる様からは、あれほど手慣れた犯行を行う常習犯とはとても思えない。
 目の前にいるのに、こんなにも正体を掴み難い奴がいるとはな……

(俺も足下を掬われないように気を付けねえと……)

 結局今の俺にできることは、たったそれだけだった。


 ♢♢♢♢


「こっちだ! 早く!」

「分かってるっ! すぐ行くよ!」

 慣れというのは本当に恐ろしい。
 何度も何度も汚い仕事に手を出していくにつれ、俺に残されていた僅かな良心なんてものはあっという間に消え去り、むしろ積極性すら生まれてきている。

 今回空き巣に入った家は何軒目だったかな。
 もはや数える必要性すら感じなくなってきている当たりヤバイ。
 最初に盗みに入った家は大当たりだったのでかなり儲かったのだが、普通は派手に大量の金品を盗むと大事になるので少しずつしか手を付けられない。

 だから必然的に様々な家に忍び込むことになるのだが――

「ここを抜けたら俺は東へ走る。いつもの場所で落ち合おう!」

「オッケー! じゃあまたあとで!」

 そう言って俺らは、二階の端の壁に向かって全力ダッシュを決める。
 そしてぶつかる寸前のところへきたところで、俺はリオンの手を握った。
 すぐ近くから家主と思われる誰かが、怒号と共に階段を駆け上がってくる音が聞こえている。
 急がなくては。

「――よし!」

 俺と、その手を握るリオンは分厚い建物の壁をあっさり通過し、空中へと放り出される。
 スキル【すり抜け】の本領発揮だ。
 皮肉なことに、俺のスキルはこういった悪さをする上で非常に相性がいいのだ!

 受け身を取りながら地面に着した俺たちは、それぞれ反対方向へと走り出した。
 情報屋を利用した空き巣は非常にコスパが悪いので自分たちのみの手でこうやって行為に及ぶことも何度か繰り返したのだが、今回は運悪く不意に家主が家に戻ってきてしまった。

 故にこうして慌てて逃げ出しているのだが、俺の【すり抜け】の有用性とリオンの入れ知恵のおかげで俺たちの仕事は致命的な失敗とはだいぶ縁遠くなっていると思う。
 今回も【すり抜け】がなかったら脱出が間に合わなかったかもしれないしな。

 俺はなるべく目立たないよう、前世ではまず不可能だったアクロバティックな高速移動で建物の隙間を縫うように駆け回る。
 落ち合う場所は、俺たちが仮の拠点としている町はずれの洞穴だ。

「ふー、お待たせ!」

 到着は俺の方が早かった。
 だがリオンも誰かに捕まることなく無事帰ってこれたようだ。
 俺たちは無言で笑みを浮かべながら、ハイタッチを決める。

(こういう日々も、案外悪くないのかもしれないな)

 もし、あの後一人でこの町に辿り着いていたらどうなっていただろうか。
 俺一人じゃきっと空き巣すら満足にこなせない。
 どこかで奴隷のように扱われるか、派手に暴れた末に報復で殺されるか。
 いずれにしろ、ロクな未来が思い浮かばない。

 ただ一つ気がかりなのがある。
 俺が置いてきてしまった可愛い妹のことだ。

(……マナ、悪いな。もうお前とは真正面から顔を合わせられないかもしれん)

 今俺がやっていることは、決して褒められるような行為ではない。
 生き抜くためとはいえ、こんな俺を見たマナはなんていうのかな。
 今までは他人との関係なんて一時的なもので、どれだけ仲が良くとも冷めたらそれで終わりくらいの感情しかもっていなかったはずなのに。

 今の俺は、マナに軽蔑されることを極度に恐れている。
 冷たく突き放される未来を想像すると胸が痛む。

(でも、いつかまた……)

 だからと言って、それは逃げる理由にはならない。
 今の俺にはあの家に戻ってマナを連れ出すようなことはできないけれど、いつか必ず迎えに行く。

(一年後には、お前が俺と同じ目に合うかもしれないからな)

「……ヴェル? どうしたの、急にそんな暗い顔して」

「あぁ、いや、ちょっと考え事をしちゃってな。大丈夫だ」

「そっか。ならいいんだけど、何かあったら大きくなる前にぼくに相談してよね! 相棒なんだから!」

「相棒……そうだな、その時は頼りにしてるよ、リオン」

「あははっ、急にこんなこと言うとちょっと照れるね!」

 不甲斐ない兄は、今の自分を笑わせることで手一杯だ。
 ただし心のどこかでこの状況を楽しんでいる自分がいる事実もまた、認めないといけないだろう……
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

人気MMOの最恐クランと一緒に異世界へ転移してしまったようなので、ひっそり冒険者生活をしています

テツみン
ファンタジー
 二〇八✕年、一世を風靡したフルダイブ型VRMMO『ユグドラシル』のサービス終了日。  七年ぶりにログインしたユウタは、ユグドラシルの面白さを改めて思い知る。  しかし、『時既に遅し』。サービス終了の二十四時となった。あとは強制ログアウトを待つだけ……  なのにログアウトされない! 視界も変化し、ユウタは狼狽えた。  当てもなく彷徨っていると、亜人の娘、ラミィとフィンに出会う。  そこは都市国家連合。異世界だったのだ!  彼女たちと一緒に冒険者として暮らし始めたユウタは、あるとき、ユグドラシル最恐のPKクラン、『オブト・ア・バウンズ』もこの世界に転移していたことを知る。  彼らに気づかれてはならないと、ユウタは「目立つような行動はせず、ひっそり生きていこう――」そう決意するのだが……  ゲームのアバターのまま異世界へダイブした冴えないサラリーマンが、チートPK野郎の陰に怯えながら『ひっそり』と冒険者生活を送っていた……はずなのに、いつの間にか救国の勇者として、『死ぬほど』苦労する――これは、そんな話。 *60話完結(10万文字以上)までは必ず公開します。  『お気に入り登録』、『いいね』、『感想』をお願いします!

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

私のスローライフはどこに消えた??  神様に異世界に勝手に連れて来られてたけど途中攫われてからがめんどくさっ!

魔悠璃
ファンタジー
タイトル変更しました。 なんか旅のお供が増え・・・。 一人でゆっくりと若返った身体で楽しく暮らそうとしていたのに・・・。 どんどん違う方向へ行っている主人公ユキヤ。 R県R市のR大学病院の個室 ベットの年配の女性はたくさんの管に繋がれて酸素吸入もされている。 ピッピッとなるのは機械音とすすり泣く声 私:[苦しい・・・息が出来ない・・・] 息子A「おふくろ頑張れ・・・」 息子B「おばあちゃん・・・」 息子B嫁「おばあちゃん・・お義母さんっ・・・」 孫3人「いやだぁ~」「おばぁ☆☆☆彡っぐ・・・」「おばあちゃ~ん泣」 ピーーーーー 医師「午後14時23分ご臨終です。」 私:[これでやっと楽になれる・・・。] 私:桐原悠稀椰64歳の生涯が終わってゆっくりと永遠の眠りにつけるはず?だったのに・・・!! なぜか異世界の女神様に召喚されたのに、 なぜか攫われて・・・ 色々な面倒に巻き込まれたり、巻き込んだり 事の発端は・・・お前だ!駄女神めぇ~!!!! R15は保険です。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

処理中です...