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プロローグ

1話 ピックアップのハズレの方

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 スキル鑑定の日。
 それはこの世界に生まれた子供たちにとって、最も重要というべき大イベントだ。
 何故ならば、今日の日に示された己のスキルが強く優秀なものであれば明るい将来が約束され、逆に弱く実用性がないものを引いてしまえば、その時点で未来への道が大きく制限されることになるのだから。

 そしてつい先日、7歳の誕生日を迎えた俺――ヴェルマーク・ヴィン・アストールは、ついに本家からお呼びがかかって、20人近い兄弟・・と共にスキル鑑定の会場へと向かっているところである。

「なあ、これからぼくたち何をするんだー?」

「そうだよ! そろそろおしえてよー!」

「行けば分かります。静かにしていてください」

 ……だというのに、ここにいる兄弟たちは、これから行われることを何一つ知らない。
 みな口々に疑問の言葉を投げかけているが、執事服を身にまとった案内役の男たちは何も答えず、ただ黙るよう促すだけだ。
 それもそのはず。彼らは何も教えられていないのだから。

 ――じゃあ何故俺だけが知っているのかって?
 それは俺が、地球で死んでこの身に生まれ変わった転生者・・・だからだ。
 っと、それを語る前に着いちまったか。

「旦那様。お連れ致しました」

「うむ、入れ」

 まともに入るのは初めてな本家の屋敷。
 俺たちが過ごしていた別館とは全く違う、見るからに高級そうな調度品がこれでもかと並べられた豪邸だ。
 だがその美術品たちを鑑賞する暇すらもらえず、ただまっすぐと廊下を進み、その奥にある大扉の先へ進むように促された。

 そこにいたのは我らがアストール侯爵家現当主、ラマセリ・ヴィン・アストールその人だ。
 見た目は初老のおじさんといったところだが、腕を組みながらこちらを見定めるような鋭い目つきからは、言葉にできない気迫を感じる。
 そしてその周りには神妙な面持ちで俺たちに視線を向ける老若男女10人ほどがいた。

「よくぞ来た我が子たちよ。今日の日を待ちわびていたぞ」

 ラマセリはそう派手に両腕を広げて、怒っているんだか笑っているんだか良く分からない表情で俺たちを迎え入れた。
 ただ何となく機嫌が良さそうというのは雰囲気で伝わってくる。

 一方の兄弟たちはというと、きょとんと言った表情であたりを見渡していた。
 さっきラマセリが言った通り、ここにいる20人近い兄弟たちは、飯を共にした比喩的な意味での兄弟という訳ではなく本当の意味で兄弟なのだが、俺を含めて実父のラマセリと対面するのは初めてなのだ。
 俺は以前こっそり忍び込んだ時、一方的に顔を見ていたのでそこまで驚きはない。
 だが、兄弟たちは7~8年間一度も顔を見たことがないおっさんに、よく来た我が子よと言われても困るのは当然といえよう。

「さて、説明は後だ。とりあえず始めろ」

「はっ、承知いたしました」

「えっ、ええっ!?」

「――うっ!?」

 俺たちが困惑して暴れ出す前に、と言わんばかりに、あっという間に2グループに分けられ、魔法陣のようなものの上に纏めて乗せられた。
 そして俺たちを囲むように立つ五人の魔法使い(?)たちが一斉に良く分からない呪文を唱え始める。
 すると足下にうっすらと描かれていた魔法陣から強烈な光が発生して、俺の視界が真っ白で埋め尽くされた。
 目がくっそ痛え。光らせるなら先に言えよなほんと。
 あとついでに兄弟ガキどもが大声で暴れて喚き出したので耳もすごく痛い。

 早く終わってくれ――そう思いながら耐えていたら、突如として俺の体が青白く輝きだした。
 えっ、なにこれは……

「おおおっ、これはっ! おい!」

「はっ、はいっ! これは……なんということだ……」

「あのSSSが本当に現れるとは……これは奇跡なのか……?」

「すぐに確認しろ! それと目障りなハズレ・・・どもはさっさと連れていけ! 邪魔だ!」

 なんだなんだ。ようやく光が薄くなってきたと思えば、周りの奴らが慌ただしく動き始めたぞ。
 周り見れば赤色だったり黄色だったりと別の色の光を纏っている奴もいるし、逆に光が完全に消えた奴らもいる。だがその中で、俺が纏う青白い光は圧倒的な光量を誇っていた。

 今までは知る手段がなかったから分からなかったけれど、聞く限り俺のスキルはSSS級。
 つまりこの世界における最強の能力を手に入れたということになる!
 これは勝ち組ルート貰ったぜ! 今日まで苦労した甲斐があった……

「え、ちょっ、なにをっ――」

「大人しくこちらへ来てください! 早く!」

「あっ、おい――」

 安堵と共に、今の状況がソシャゲのガチャ画面みたいだなーなんて気の抜けた感想を抱いたのもつかの間、俺の軽い体はあっという間に持ち上げられてラマセリの前へ引きずり出されてしまった。
 そして全く光っていない奴や光が弱かった奴は優先的に強引に部屋の外へと連れ出されているのが見えた。

「くっくっくっ、今日はなんという素晴らしい日だ! 今日という日を迎えられたことを神に感謝するぞ!!」

「……旦那様。恐れながら、SSSのどちらかはマイナス・・・・の……」

「そんなものは分かっておるわ阿呆めが!! 貴様、この年には2種類しか存在しないSSRスキルを引き当てたのだぞ? この私が! 偉大なるこのアストール家現当主ラマセリがハズレの方・・・・・を引くとでも言いたいのか!?」

「ひっ!! いえ、その、も、申し訳ございませんっ!!」

「……ふっ、まあ良い。許してやろう。今日の私はとても気分がいい。そして、おい貴様! 喜ぶがいい! 貴様の明るい将来は、今日この瞬間に約束される。貴様はこのアストール家の次世代を担う存在となれるのだ!!」

「は、はぁ……」

「む、なんだその覇気のない返事は。まあそれも鑑定すればわかること。さあ、まずは貴様の名を聞かせてくれ!」

「あ、えっと、ヴェルマーク・ヴィン・アストール、です」

「ふむ、ヴェルマークか。良い名だ。では我が子ヴェルマークよ。次は貴様の有するスキルの名を教えてもらおうか! はじめろ!」

「ちょっ、うおっ!?」

 気づけば俺の両サイドにはごつい男二人が並んでおり、俺の細く短い両手をつかむと、一瞬のうちに俺の両手首に管付きリストバンドのような装置を取り付けられた。
 そしてラマセリがその装置を操作すると、血圧計のようにリストバンドが俺の手首を締めあげてきた。

「う、あっ……」

「くく、恐れることはない。すぐに終わる。貴様はただ2分の1の賭けに勝つだけでいい。だがまあ、我が血を引く子ならば、もはやその心配すら杞憂に終わるだろうがな! はっはっはっ!!」

 や、やべえ。すっごく嫌な予感がするんだが??
 この状況で、俺が凄まじい期待という名のプレッシャーをかけられているのは流石に分かる。
 だけど俺は2分の1に勝てばいい、という不穏な単語を耳にして、冷や汗を流していた。

 俺は前世でプレイしていたゲームにおいて、ガチャにて確率アップしている当たりが二種類あるとき、ほぼ確実に要らないほうを引き当てる【すり抜け】をやらかすことに定評があった。
 そして鑑定はしていないけれど、今日にいたるまでの生活で、俺のスキル名が【すり抜け】であることはほぼ確定して分かってしまっている……

「――む、なんだこれは??」

 ほらああああぁぁぁぁ……
 ラマセリがリストバンド(仮)と繋がっているタブレットみたいな端末の画面を見て、怪訝な顔をしているじゃないか。

「だ、旦那様? いかがいたしましたか……?」

「……何も表示されん。まさかこのタイミングで壊れたとでもいうのか?」

「そ、そのようなことはないはずでございますが……事前にしっかりと動作を確認しておりますし……」

「これを見ろ! スキル名が出てこないではないか! 今すぐ新しいものを用意せんか!!」

「は、はいっ!! ただいまっ!!」

「……すまんな。こちら側に不手際があったようだ。すぐに替えを持ってこさせるから、もうしばし待て」

「は、はい……」

 あのー、それって高確率で俺の所為のような気がするんですけどねえ……
 だけどそんなことを口にすれば俺の未来がろくでもない方向へ向かうような気がするので、ここは機械の故障だと信じて今しばらく待つとしよう。
 いやマジで。俺的には本当に機械の故障であってほしいんだけどねマジで。

「7年、いや、8年か。私がこの日をどれほど待ち詫びたことか。我がアストール家が抱える預言者は言った。この一年が終わるまでに生まれる子供が、数百年に一度しか現れぬとされる伝説級のSSSスキルを持っている可能性がある、とな。私は歓喜したよ。SSSスキルさえあれば我が一族の更なる繁栄は確実なものとなる! ゆくゆくは我が一族が世界を収める日すらも夢見るほどになぁ……」

 替えの機械を待っている間、ラマセリが勝手に語り始めた。
 彼曰く、アストール侯爵家にはお抱えの予言者がいて、その予言者は年が明けたタイミングで秘術を行使することで、その年に生まれてくる子供に割り振られるスキルの大まかな内容とランク別の内訳を知ることが出来るそうだ。

 早い話、ガチャの出現確率表が見れるって訳だな。
 スキルは一人につき一つまで。そして強さに応じて低い方からD→C→B→A→Sの五段階に分けられており、最強とされるSランクスキルの中でも特に強いスキルがSSランク、SSSランクに指定されているのだ。

 このスキルランクというのが特に重要で、基本的に上位のスキルは下位のスキル持ちに比べて強いというのがこの世界における一般的な認識となっている。
 だからこそこのラマセリという男は、毎年預言者に予言をさせ、より強いスキルがピックアップされた年は大量に子供を作り、疑似的なスキルガチャリセマラという悪魔のような行為をやってのけているってことだな。

 そして俺たちが生まれた年は、奇跡ともいうべきSSSスキルが二つもピックアップされた年。片方は自らとその周囲に不幸をもたらす凶悪なマイナススキルだが、もう片方は圧倒的な力を誇る最強スキルということまで分かっていた。
 だからこそその年に、ラマセリは大量の子作りに力を入れたのだと豪語する。

 それを自慢げに語られても、リセマラの道具にされている側としては正直めちゃくちゃ複雑な気分だがな……
 そうこうしているうちに、代わりのものが到着し、俺の石に関係なくすぐさま取り付けられた。

「さあ、では改めて貴様のスキルを見せてもらおうか!」

 あぁ、ラマセリのヤバすぎる話を聞かされたことで一旦現実逃避出来ていたけど、それもすぐに終わってしまったなぁ。
 果たして結果や如何に……

「……やはり表示されん。これではSSS級スキルを鑑定することが出来んとでもいうのか?」

「あ、あの……」

「ちっ、これではまるで役に立たんが、致し方あるまい、ひとまず先に他の者の鑑定を済ませてしまおう。おい、連れてこい!」

「え、えっと、僕は……」

「……貴様は少し端の方で待っていろ」

「は、はい……」

 なんというか、目に見えてテンションが下がっているのが分かる。
 ほぼほぼマイナススキルハズレの方を掴まされたのではないかと感じているに違いないよなぁアレ……
 この重すぎる空気の原因をこの場にいるほぼ全員が俺のせいだと認識しているせいでめちゃクソ気まずい。早く帰りたいんだが……

 そんな俺を尻目に、第二陣の鑑定が始まったんだが、早速大事件が発生しやがった。

「な、なんだとっ!!」

「そ、そんな馬鹿な……SSS持ちが同時に二人も……?」

「わ、私は神の奇跡を目の当たりにしているのか……?」

 光り輝く魔法陣の上で、一際強い青白い光・・・・を纏う少年が一人。
 あれは、さっきの俺と同じ光。そう、SSR級スキル持ちの証だ。
 その少年はすぐさまラマセリの前に引っ張って行かれた。

 茶色にも見える淡い金色の髪で目元が若干隠れている非常におとなしそうな少年だ。

「貴様、名をなんと言う?」

「えっ、えっと、名前は、レリウス、です……」

「ふむ、レリウスか。それにしても貴様も覇気が足りんな。だがまあ、貴様が大当たりのスキルを引いた暁には、その内気さも消え失せるだろうよ。さあ、鑑定だ!」

 そう言って同じような機械で彼――レリウスのスキル鑑定が始まった。
 そしてその結果は――

神格武装権限しんかくぶそうけんげん、だと!? 八百万の神々から力を借り受け、武具として顕現し、その力を行使する能力……」

「な、なんと凄まじい能力……そのようなスキルが存在するとは……」

 おいおいおいおいいいいい!!!
 誰が聞いてもあたりだとわかる能力引きやがったぞこいつ!!
 や、やっべぇ……ってことは俺の【すり抜け】はマイナススキル確定ってことだろ!?

「レリウスよ! このラマセリ、貴様のような子が生まれるのを長らく待っていた! さあ、我が下に来たまえ!」

「え、あ、は、はい……?」

「……あのーすいません、僕はどうしたら」

「あぁん? 貴様のような名も分からぬマイナススキル持ちなどさっさと去るがいい……と言っても、他のハズレどもと違って名も効果も分からぬのでは売り飛ばすことも出来んな」

「いかがいたしましょう、旦那様」

「そうだな。面倒なことになる前に屋敷から追い出して処分しておけ。変な呪いみたいなものをバラまけられても厄介だからな。必ず屋敷の外で始末しろ。モタモタするな!」

「はい! ただちに!! さあこいっ!」

「ちょっ、やめっ――」

 気づいたら俺は両腕をこわもての男二人にがっちりつかまれ、さっきより明らかに強引な形で俺を引きずっていく。
 ちょ、マジでいてえって! ヤバイ、この状況はヤバすぎる!

「あの、えっと、あれは……?」

「気にすることはない、レリウスよ。アレはお前のような勝者が見る必要のないゴミだ。さあ、上へ行こう。祝いの宴を開くぞ!」

 ふざけやがってくそがああああ!!
 自分の子供をリセマラの道具にして、いらなくなったら即捨てるとか、てめえのやってることはガチで悪魔と何ら変わんねえぞ!!
 叫んで暴れてやろうと思ったが、体の自由が利かない上に口まで塞がれてしまったので息すら苦しい。

 二度目の死を目前とした状況で、俺は今日にいたるまでの経緯を走馬灯のように思い出しはじめた……




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