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第六章 第三次・召喚勇者

89.Sランク『時間停止』

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 俺は、水色のショートヘアのまったりとした雰囲気の女の子と戦いを繰り広げていた。しかし、その戦い自体はありえないほどにハイスピード。

 一瞬にして背後に回り込んだり、ナイフを飛ばされたり、回り込まれたり、常人では目で追う事すら諦めてしまうほどのハイレベルな戦いだった。

 パッと消えては別の場所へと現れるそのスキル。瞬間移動かとも思ったが、俺は一つ違和感を感じていた。それは、瞬間移動ことで。

 彼女は、俺の背後へと回り込むのと同時に、別角度からナイフを放っている。それも何本も同時に。

 一度に何本もナイフを瞬間移動させながら、さらに自分も瞬間移動するなんて芸当は、本当に可能なのだろうか?

 どこに飛ばすとか、何を飛ばすとか、瞬間移動と一口に言っても色々と考えなくてはならない事があるはずなのに、それらを一瞬でこなして、コンピュータ上でいくつものソフトを動かすマルチタスクのような芸当が、果たしてスキルを持つこと以外は特に何もない、見た目的には普通の人間に出来るのか?

 遠くから彼女の戦い方を観察していた時から感じて違和感で、そこで俺は、もう一つ『あるスキル』の可能性を考えていた。

「……瞬間移動じゃないな。お前のスキルは――時を止めるスキル。そうだろう」

 俺は、水色のショートヘアを揺らす彼女に向けて言う。それを聞いた彼女は驚いたように――

「すごーい、よく分かったねえ……。わたしは使ってる本人だから分かるけど、使われてる側ってそうそう見破れるものじゃないと思うよー?」

 おっとりとした口調で、彼女は言う。時間停止というスキルに、絶対の自信を持っているようだった。……事実、本当に時を止めて自由に動けるのなら、それだけで圧倒的に優位に立てるのは戦うまでもなく分かる。

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ――」

 叫び、彼女の元へと走る俺だったが――その時、時が止まったような。本当に気がしただけで、はっきりと分かった訳じゃない。ただ、そんな予感がしただけで。

 ――それと同時に三方向から、さっきは避けて、地面へと転がっていたはずのナイフが一本ずつ、こちらに飛んでくるのが分かった。それも、さっきよりも近距離から。

 その予感を信じて俺は避けようとするが……全てを避け切るのは無理がある。一本のナイフが、俺の腕へと突き刺さる。

 守のステータスが高いとはいえ、痛みが軽減されるくらいで痛いものは痛い。骨に届くまで突き刺さるナイフが、激痛を放つ。

 さらに、避けたはずだった二本のナイフも、軌道を変えて再びこちらへ向かってくる。一本は脇腹に、もう一本は左のふくらはぎへと突き刺さる。

「――があああぁぁぁぁッ!!」

 さらに激痛が走る。何とか持ち堪えていたが、もし持ち前の高いステータスが無ければ、その場で倒れていただろう。

 決して、ここで諦める訳にはいかない。……何故なら、そろそろ『アレ』が来るはずなのだ。それまで、何としてでもこの場を持ち堪えなければならない。


 ――そして、その時。

 人混みの奥から、一人の目立つ声がこちらへ飛んでくる。

「――『トリガー・ストック』……開放ッ!」

 現れたのは、妹の唯葉の姿だった。そして、その魔法を唱えた瞬間。

 水色髪の少女の周囲から、同時に数十、数百もの電撃が放たれる。彼女は時を止め逃げようとしただろう。しかしそれは無理だ。人が通れる隙間なんて、存在しないのだから。

 唯葉は人間へと戻り、高いレベルで並の人間よりは強いかもしれないが、以前ほどの魔力も身体能力も失われている。

 事実、現れた電撃は当たれば感電はするだろうが、直接的なダメージはあまりなかった。しかし、電気を浴びながらスキルを使うなんて事、出来るはずがない。

 俺は全身に走る痛みも無視して、隙を見せる相手の元へと走り――スパンッ!! 剣を一振りし、トドメを刺した。


 以前のような攻撃力は失われているにしても、こんなにもたくさんの電撃を同時に放てた理由。それが、彼女の唱えた魔法『トリガー・ストック』にあった。

 無属性の上級魔法で、他の魔法と組み合わせて使う事で、その魔法の発動自体をストック、貯めておくことができる。ストック数には制限はなく、魔法を発動できればできるだけ、トリガー・ストックには魔法が貯まっていく。

 そして、さっき叫んだように『開放』すれば、貯めていた魔法が全て、同時に放たれる。

 一つ一つは弱くても、数百と集まれば逆転の一撃となる。だから、唯葉はずっと隠れて、魔法を貯め続けていたのだった。

「ありがとう、唯葉。……やっぱりステータスなんて無くても、唯葉は唯葉だな」

 もしあの時、魔人へと改造されていなかったとしても。今と同じ場所に立ち、同じように戦っていたんだろうと、そう思う。
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