39 / 151
第三章・第一節 兄妹二人のダンジョン攻略
39.業火の竜
しおりを挟む
赤く染まった竜人・イルエレを見据えて俺は、右手の剣を強く握る。
――完全に油断していた。『強い』と豪語しながらも、それにしては弱いなという違和感があったのに。
気づけたはずだったのに、その油断一つが、相手の思う壺だったのだ。
「人間の大陸に来てからは隠密行動ばかりで体が鈍っていたからねえ。久々に暴れられそうな相手に出会えて、アタシは嬉しいよッ!」
イルエレは、そう言い放つと――こちらに左手を向け、叫ぶ。
「――全てを焼き尽くすッ。『緋炎・エルディーレ』」
彼女の詠唱に応えるように、その左手から業火が続々と放たれる。
その炎は、次第に巨大なドラゴンを形造っていき、その巨大な炎で出来た竜は恐れさえも知らずに、ただ真っ直ぐに、こちらに向かって突撃してくる。
「唯葉はあのドラゴンを頼む! 俺はあの竜人を直接叩く! それまで何とか耐えてくれッ」
「分かった、任せて。お兄ちゃん、絶対に帰ってきてね」
「ああ、すまない唯葉。俺が油断したばっかりに……」
そう言うと、俺は赤く染まった竜人、イルエレの元へと走り出した。
唯葉は、右手をその竜に向けて一言叫び。
「――『サンダー・シュート』ッ!」
一本の雷撃が、燃え盛る業火の竜に向けて放たれるが……今まで数多くの魔物を一撃で葬ってきたその雷撃を受けてもなお、あの竜はびくともしない。
その間にも、あの竜は勢いを落とさずに真っ直ぐ、こちらに向かって来る。唯葉は一歩下がり、再び右手を向け、叫ぶ。
「これなら……、『サンダー・ブラスト』ッ!!」
数百もの魔物を一瞬にして殲滅した中級魔法。それを、たった一体の竜に向けて放つ。
――ゴオオオオオオォォォォォォォッ!! 業火と、超火力の雷撃がぶつかりあって起こった爆発の衝撃で、唯葉は後方へと吹き飛ばされそうになるが……何とか踏みとどまる。
対する業火の竜も、一度はその造形を崩し、消えそうになったが――再び炎は威力を強め、その姿を取り戻す。
「しぶといっ、まさかこれで倒せないなんて……」
再び迫って来る竜を前に、唯葉は再び一歩下がり、右手を強く握り締める。そして、
「もう私にはこれしか残ってない。これがダメだったら……いや、やるしかない」
唯葉は一歩、前に踏み込んで。
「――『ライトニング……
業火の竜に向けて、強く握った拳を突き出し――叫ぶ!
――スピア』ッ!!」
中級雷魔法『ライトニング・スピア』。
同じ雷魔法で中級の『サンダー・ブラスト』が広範囲を殲滅する魔法なら、こちらは一点に超火力を叩き込む大技。
そもそも、今までは初級の魔法で事足りていたので、撃つ機会もなかったこの魔法。唯葉自身も、使うのは初めての魔法だった。
唯葉の拳から、超火力の雷の槍が飛び出す。
そして、業火の竜の心臓部を――ギュインッ!! という高い音と共に貫く。
業火の竜に空いた大穴は――すぐには塞がらない。そして、動きも止まった。空いた穴の修復に時間をかけているのだろうか。
中級魔法を二度も放ったおかげで、かなり身体に反動が来ているが……ここまでのチャンスはもう二度と来ないかもしれない。
唯葉は、動かない体を強引に動かして、再びぽっかりと穴の空いた竜に右手を向けて、叫ぶ。
「――『サンダー・ブラスト』ッ!」
放たれた雷撃は、轟音と共に業火の竜の体を爆破していき――その業火は、威力を次第に弱めていく。
そして、どんどんと小さくなっていくその竜の姿を眺め、その炎が完全に消え去ったと同時。唯葉は力を使い切り、床に腰を落とす。
「やった……。でも、もう動けないや。お兄ちゃん、大丈夫かな……」
何度も無理をして大技を放った代償が、一気に返ってくる。もう立ちあがる体力も、気力さえも無くなってしまった。
唯葉は自身の無力さを噛み締めながら、兄、梅屋正紀の戦う姿を座って、眺める。
――完全に油断していた。『強い』と豪語しながらも、それにしては弱いなという違和感があったのに。
気づけたはずだったのに、その油断一つが、相手の思う壺だったのだ。
「人間の大陸に来てからは隠密行動ばかりで体が鈍っていたからねえ。久々に暴れられそうな相手に出会えて、アタシは嬉しいよッ!」
イルエレは、そう言い放つと――こちらに左手を向け、叫ぶ。
「――全てを焼き尽くすッ。『緋炎・エルディーレ』」
彼女の詠唱に応えるように、その左手から業火が続々と放たれる。
その炎は、次第に巨大なドラゴンを形造っていき、その巨大な炎で出来た竜は恐れさえも知らずに、ただ真っ直ぐに、こちらに向かって突撃してくる。
「唯葉はあのドラゴンを頼む! 俺はあの竜人を直接叩く! それまで何とか耐えてくれッ」
「分かった、任せて。お兄ちゃん、絶対に帰ってきてね」
「ああ、すまない唯葉。俺が油断したばっかりに……」
そう言うと、俺は赤く染まった竜人、イルエレの元へと走り出した。
唯葉は、右手をその竜に向けて一言叫び。
「――『サンダー・シュート』ッ!」
一本の雷撃が、燃え盛る業火の竜に向けて放たれるが……今まで数多くの魔物を一撃で葬ってきたその雷撃を受けてもなお、あの竜はびくともしない。
その間にも、あの竜は勢いを落とさずに真っ直ぐ、こちらに向かって来る。唯葉は一歩下がり、再び右手を向け、叫ぶ。
「これなら……、『サンダー・ブラスト』ッ!!」
数百もの魔物を一瞬にして殲滅した中級魔法。それを、たった一体の竜に向けて放つ。
――ゴオオオオオオォォォォォォォッ!! 業火と、超火力の雷撃がぶつかりあって起こった爆発の衝撃で、唯葉は後方へと吹き飛ばされそうになるが……何とか踏みとどまる。
対する業火の竜も、一度はその造形を崩し、消えそうになったが――再び炎は威力を強め、その姿を取り戻す。
「しぶといっ、まさかこれで倒せないなんて……」
再び迫って来る竜を前に、唯葉は再び一歩下がり、右手を強く握り締める。そして、
「もう私にはこれしか残ってない。これがダメだったら……いや、やるしかない」
唯葉は一歩、前に踏み込んで。
「――『ライトニング……
業火の竜に向けて、強く握った拳を突き出し――叫ぶ!
――スピア』ッ!!」
中級雷魔法『ライトニング・スピア』。
同じ雷魔法で中級の『サンダー・ブラスト』が広範囲を殲滅する魔法なら、こちらは一点に超火力を叩き込む大技。
そもそも、今までは初級の魔法で事足りていたので、撃つ機会もなかったこの魔法。唯葉自身も、使うのは初めての魔法だった。
唯葉の拳から、超火力の雷の槍が飛び出す。
そして、業火の竜の心臓部を――ギュインッ!! という高い音と共に貫く。
業火の竜に空いた大穴は――すぐには塞がらない。そして、動きも止まった。空いた穴の修復に時間をかけているのだろうか。
中級魔法を二度も放ったおかげで、かなり身体に反動が来ているが……ここまでのチャンスはもう二度と来ないかもしれない。
唯葉は、動かない体を強引に動かして、再びぽっかりと穴の空いた竜に右手を向けて、叫ぶ。
「――『サンダー・ブラスト』ッ!」
放たれた雷撃は、轟音と共に業火の竜の体を爆破していき――その業火は、威力を次第に弱めていく。
そして、どんどんと小さくなっていくその竜の姿を眺め、その炎が完全に消え去ったと同時。唯葉は力を使い切り、床に腰を落とす。
「やった……。でも、もう動けないや。お兄ちゃん、大丈夫かな……」
何度も無理をして大技を放った代償が、一気に返ってくる。もう立ちあがる体力も、気力さえも無くなってしまった。
唯葉は自身の無力さを噛み締めながら、兄、梅屋正紀の戦う姿を座って、眺める。
0
お気に入りに追加
457
あなたにおすすめの小説
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
世界最速の『魔法陣使い』~ハズレ固有魔法【速記術】で追放された俺は、古代魔法として廃れゆく『魔法陣』を高速展開して魔導士街道を駆け上がる~
葵すもも
ファンタジー
十五歳の誕生日、人々は神から『魔力』と『固有魔法』を授かる。
固有魔法【焔の魔法剣】の名家――レヴィストロース家の長男として生まれたジルベール・レヴィストロースには、世継ぎとして大きな期待がかかっていた。
しかし、【焔の魔法剣】に選ばれたのは長男のジルベールではなく、次男のセドリックだった。
ジルベールに授けられた固有魔法は――【速記術】――
明らかに戦闘向きではない固有魔法を与えられたジルベールは、一族の恥さらしとして、家を追放されてしまう。
一日にして富も地位も、そして「大魔導になる」という夢も失ったジルベールは、辿り着いた山小屋で、詠唱魔法が主流となり現在では失われつつあった古代魔法――『魔法陣』の魔導書を見つける。
ジルベールは無為な時間を浪費するのように【速記術】を用いて『魔法陣』の模写に勤しむ毎日を送るが、そんな生活も半年が過ぎた頃、森の中を少女の悲鳴が木霊した。
ジルベールは修道服に身を包んだ少女――レリア・シルメリアを助けるべく上級魔導士と相対するが、攻撃魔法を使えないジルベールは劣勢を強いられ、ついには相手の魔法詠唱が完成してしまう。
男の怒声にも似た詠唱が鳴り響き、全てを諦めたその瞬間、ジルベールの脳裏に浮かんだのは、失意の中、何千回、何万回と模写を繰り返した――『魔法陣』だった。
これは家を追われ絶望のどん底に突き落とされたジルベールが、ハズレ固有魔法と思われた【速記術】を駆使して、仲間と共に世界最速の『魔法陣』使いへと成り上がっていく、そんな物語。
--------
※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
S級スキル【竜化】持ちの俺、トカゲと間違われて実家を追放されるが、覚醒し竜王に見初められる。今さら戻れと言われてももう遅い
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
ファンタジー
主人公ライルはブリケード王国の第一王子である。
しかし、ある日――
「ライル。お前を我がブリケード王家から追放する!」
父であるバリオス・ブリケード国王から、そう宣言されてしまう。
「お、俺のスキルが真の力を発揮すれば、きっとこの国の役に立てます」
ライルは必死にそうすがりつく。
「はっ! ライルが本当に授かったスキルは、【トカゲ化】か何かだろ? いくら隠したいからって、【竜化】だなんて嘘をつくなんてよ」
弟である第二王子のガルドから、そう突き放されてしまう。
失意のまま辺境に逃げたライルは、かつて親しくしていた少女ルーシーに匿われる。
「苦労したんだな。とりあえずは、この村でゆっくりしてくれよ」
ライルの辺境での慎ましくも幸せな生活が始まる。
だが、それを脅かす者たちが近づきつつあった……。
追放された美少女を助けた底辺おっさんが、実は元”特級冒険者”だった件について。
いちまる
ファンタジー
【毎週木曜日更新!】
採取クエストしか受けない地味なおっさん冒険者、ダンテ。
ある日彼は、ひょんなことからA級冒険者のパーティーを追放された猫耳族の少女、セレナとリンの面倒を見る羽目になってしまう。
最初は乗り気でなかったダンテだが、ふたりの夢を聞き、彼女達の力になると決意した。
――そして、『特級冒険者』としての実力を隠すのをやめた。
おっさんの正体は戦闘と殺戮のプロ!
しかも猫耳少女達も実は才能の塊だった!?
モンスターと悪党を物理でぶちのめす、王道冒険譚が始まる――!
※本作はカクヨム、小説家になろうでも掲載しています。
追放?俺にとっては解放だ!~自惚れ勇者パーティに付き合いきれなくなった俺、捨てられた女神を助けてジョブ【楽園創造者】を授かり人生を謳歌する~
和成ソウイチ
ファンタジー
(全77話完結)【あなたの楽園、タダで創ります! 追放先はこちらへ】
「スカウトはダサい。男はつまらん。つーことでラクター、お前はクビな」
――その言葉を待ってたよ勇者スカル。じゃあな。
勇者のパワハラに愛想を尽かしていたスカウトのラクターは、クビ宣告を幸いに勇者パーティを出て行く。
かつては憧れていた勇者。だからこそここまで我慢してきたが、今はむしろ、追放されて心が晴れやかだった。
彼はスカルに仕える前から――いや、生まれた瞬間から決めていたことがあった。
一生懸命に生きる奴をリスペクトしよう。
実はラクターは転生者だった。生前、同じようにボロ布のようにこき使われていた幼馴染の同僚を失って以来、一生懸命に生きていても報われない奴の力になりたいと考え続けていた彼。だが、転生者であるにも関わらずラクターにはまだ、特別な力はなかった。
ところが、追放された直後にとある女神を救ったことでラクターの人生は一変する。
どうやら勇者パーティのせいで女神でありながら奴隷として売り飛ばされたらしい。
解放した女神が憑依したことにより、ラクターはジョブ【楽園創造者】に目覚める。
その能力は、文字通り理想とする空間を自由に創造できるチートなものだった。
しばらくひとりで暮らしたかったラクターは、ふと気付く。
――一生懸命生きてるのは、何も人間だけじゃないよな?
こうして人里離れた森の中で動植物たちのために【楽園創造者】の力を使い、彼らと共存生活を始めたラクター。
そこで彼は、神獣の忘れ形見の人狼少女や御神木の大精霊たちと出逢い、楽園を大きくしていく。
さらには、とある事件をきっかけに理不尽に追放された人々のために無料で楽園を創る活動を開始する。
やがてラクターは彼を慕う大勢の仲間たちとともに、自分たちだけの楽園で人生を謳歌するのだった。
一方、ラクターを追放し、さらには彼と敵対したことをきっかけに、スカルを始めとした勇者パーティは急速に衰退していく。
(他サイトでも投稿中)
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる