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第3章 過去編

11話 青戸らの過去編2

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 従業員の青戸祐也が全面的に動いて社長夫妻の手足となり、新製品開発への足掛かりを掴もうと岩越銀行名古屋支店に掛け合った。

「豊科社長。色々調べた結果融資の方法に、『※証書貸付』があります!」
「どんな奴だい? その『証書貸付』って奴は」
「この書類を見てください! とりあえず岩越銀行名古屋支店の紫垣さんから話し聞いて書類貰ってきた」
「どれどれ」


【証書貸付の書面】
貸主 (以下、「甲」という。)と借主 (以下、「乙」という。)との間において次のとおり金銭消費貸借契約(以下、「本件消費貸借」という。)を締結した。

第1条(貸借)

甲は、乙に対し、金 円也を、貸渡し、乙はこれを確かに借受け、受領した。

第2条(利息)

本件消費貸借の利息は、元金に対し年 割 分の割合とする。

・・・

甲(住所)(氏名) 印
乙(住所)(氏名) 印
連帯保証人(住所)(氏名) 印        〟







 豊科社長は、書面に目を通しながら青戸が持ち帰った話に耳を傾ける。

「成る程。設備投資や長期運転資金の確保に良く、「※元金均等返済」とやらが採用される訳だ。こりゃ良い」
「良いだけではないようですよ……社長」
「長期返済になるので、銀行側にリスクがあるので審査が比較的厳しいようです」
「成る程、そこは銀行に要相談だな」
「ですね」

 一通り従業員の青戸と話を済ませた豊科社長。彼は豊科工業の経理を務める妻に話を切り出す。

「おい、誠子。お前経理だろ? 必要書類まとめて、俺の代わりに銀行に行って融資の相談してこい」
「あんたも行かんの?」
「俺は新製品開発に際して、協力を得られる企業がないか当たってみる」
「分かったわ」

 一通り必要そうな書類をまとめて岩越銀行にやって来た豊科誠子。彼女の相談相手は既に話題に上がった人物である岩越銀行名古屋支店の企業融資担当の紫垣順也である。

「で、相談なんですが、今までの豊科工業うちの売上等はこんな感じなんです。大口の取引相手のTOMIYAがラジコン部門からの撤退を打ち出して、主な取引先を失って営業不振なんです。新たな利益を求めて、新製品開発の為の資金融資を受けたいのですが、こんな会社でも融資を受けられますか?」
「そうですねぇ。この書面を見る限りは、これまでの企業としての成績は決して悪くはないですし、然程さほど赤字でもなかったですし。新製品開発による新たな販路拡大を考えてこの苦境を脱しようとする考えには私個人賛同です。証書貸付と言う形で、融資の方を何とかさせて頂きますが、難点が一つ……」
「難点とは?」
「いや……何でもないです。此方こちらで何とかします! よろしい! わたくし紫垣順也におまかせください」

 そう豪語した企業融資担当の紫垣順也は席を立ち離れる事五、六時間。誠子は首を長くして待っていると、担当の紫垣が息を弾ませながらようやく戻ってきた。

「ついに支店長からの許可出ました!」
「おおお、ありがとうございます!」
「いいえ。銀行員としての務めを果たした迄です。でも、これからですよ? 頑張って新製品開発してください」
「はい!」


 こうして誠子は新製品開発の資金源確保と言う重大な報せを持ち帰って、夫の社長と従業員の青戸に喜びを伝えた。



※証書貸付

証書(事実を証明するための文書、契約書)を交わして貸付を行うことを意味します。
 ここでいう証書(事実を証明するための文書、契約書)とは、金銭消費賃借契約書のことを言います。
 「証書貸付」とは融資内容が記載された契約書で融資を行う形の銀行融資と言えます。




 ※元金均等返済とは
元金部分の返済額がずっと同じで、利息部分が返済を重ねるごとに減っていくという返済方法のこと
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