上 下
3 / 39
第1章 事件の始まり

2話 被害者編2と事情聴取・第1発見者

しおりを挟む
「あ、お前……、こんな所で何油売ってるんだ?」

 久屋大通駅に設置された公衆トイレ。その脇でぷかりぷかりと煙をくゆらせている祐川の姿を、たまたま有休を取って栄の商業施設「SHINE SAKAEシャイン サカエ」に向かう途中で久屋大通駅を訪れた同僚の菊地に目撃された。

「そういや、祐川、お前ぇー。同僚の小椋おぐらさんの脚をわざと引っ張るような事してたよな? いくらなんでも小椋さんの資料だけ会議の前日に紛失したように装っていただろ!」

「そ、そんな事してない! 言い掛かりにも程がある!」
 
「何を言うかと思いきや……取って付けたような言い訳だな! 俺は見たんだぞ? ──あれは五月中旬かな。書類が置かれた小椋さんのデスクから人目を忍んで漁っていた事もあるではないか!」

 ──何を根拠に、あたかも見たかのように言うんだ。

 祐川の顔に嘘を溢している事がばれそうになっている事への焦りが面白いぐらいに滲み出ていた。動揺をあらわにした祐川を見る菊地の目が鋭い眼光に変わっている事を祐川は薄ら薄らとだけ気付いていた。

 前々からの事だった。祐川には気にくわない人が現れる度、周囲には気付かれない程度のモラハラを仕掛けたような節の言動が見られていた。本人はその一つ一つの言動が、モラハラに値するとも思わず鈍感な人、いや他人が傷つく事もお構い無しに何も感じないような無頓着な人であった。祐川にはこういう一面や経緯いきさつがある。周囲からはなぜ尼野部長に可愛がられているか? 不思議がられる一面を祐川は持ち合わせていた。 

 「男に愛嬌は不必要なモノ」と言う古臭い考えがまだ横行する平成初期の人間の菊地。それに対比するように、対照的な「とりあえず笑って誤魔化せ」精神でいる祐川。当然人間誰しも対立感情を抱くのだが、会話の勢いが加熱していく中、とりあえず「ごめん、すまなかった」と謝る祐川。先に謝られては立つ瀬がなく立場がなくなり、これ以上この話を言及しづらくなった菊地。両者の口論のやり取りは、祐川の策略によるモノか、祐川が先に折れる事で早々に話が終わった。

 祐川は、口論で興奮した脳が沸き立つ感覚を覚えたまま時間ときが経過するのを腕にめた腕時計の針が語る。午後四時三十二分を指し、もう定刻を過ぎていたのだ。とりあえず先方には「向かっている最中です」と電話を入れておく事に決めた。が、どうにも寒気がするのだ。風邪なのかわからないが、丁度目と鼻の先にトイレがあるので用を足しておく事に決めた。



※※※第一発見者

「これが遺体ですか」
「だなぁ、ま、被害者に合掌しときますか!」

 永瀬清人きよと警部補と何名かの刑事が、発見者の守永成一もりながせいいちの通報を受けて駆けつけたのだ。

「とりあえず、鑑識に回せ」
「ですな! 鑑識に任せて、此処は第一発見者に話しを聞くか」

  永瀬警部補が、遺体発見時の被害者の状態の鑑識が終わるまでの間、第一発見者の守永成一から事情聴取をする事になった。

「えー、では、貴方の名前の方を確認します! 守永……成一……さんですね?」
「はい、そうです! 守永成一です」
「遺体発見時、貴方は此処に用を足しに立ち寄った……とは既にちらっと伺っていますが……。実際どうでしたか?」
「ええ、確かにもよおして立ち寄りました」
「その時の状況を教えてください」
「わかりました……」

 第一発見者の守永成一は、小難しそうに眉をひそめて、警察に通報した時のようなよく通る普段通りの声の大きさではなく、小声で経緯いきさつの説明をしだした。第一発見者の守永成一が、家庭教師のアルバイトに遅刻して傘を用意できなかった為に、雨で濡らした身体を冷やしてもよおして立ち寄った駅で──と言う恥ずかしい話しを身振り手振りを用いて端的に伝えた。

「……と言う事なんですよ、警部補さん」
「なるほど、話しは分かりました。そう言う事でしたか」
「えぇ……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

化粧品会社開発サポート部社員の忙しない日常

たぬきち25番
ミステリー
【第6回ホラー・ミステリー小説大賞、奨励賞受賞作品!!】 化粧品会社の開発サポート部の伊月宗近は、鳴滝グループ会長の息子であり、会社の心臓部門である商品開発部の天才にして変人の鳴滝巧に振り回される社畜である。そうしてとうとう伊月は、鳴滝に連れて行かれた場所で、殺人事件に巻き込まれることになってしまったのだった。 ※※このお話はフィクションです。実在の人物、団体などとは、一切関係ありません※※ ※殺人現場の描写や、若干の官能(?)表現(本当に少しですので、その辺りは期待されませんように……)がありますので……保険でR15です。全年齢でもいいかもしれませんが……念のため。 タイトル変更しました~ 旧タイトル:とばっちり社畜探偵 伊月さん

リモート刑事 笹本翔

雨垂 一滴
ミステリー
 『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。  主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。  それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。  物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。  翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?  翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!

【完結】残酷館殺人事件 完全なる推理

暗闇坂九死郞
ミステリー
名探偵・城ケ崎九郎と助手の鈴村眉美は謎の招待状を持って、雪山の中の洋館へ赴く。そこは、かつて貴族が快楽の為だけに拷問と処刑を繰り返した『残酷館』と呼ばれる曰くつきの建物だった。館の中には城ケ崎と同様に招待状を持つ名探偵が七名。脱出不能となった館の中で次々と探偵たちが殺されていく。城ケ崎は館の謎を解き、犯人を突き止めることができるのか!? ≪登場人物紹介≫ 鮫島 吾郎【さめじま ごろう】…………無頼探偵。 切石 勇魚【きりいし いさな】…………剣客探偵。 不破 創一【ふわ そういち】……………奇術探偵。 飯田 円【めしだ まどか】………………大食い探偵。 支倉 貴人【はせくら たかと】…………上流探偵。 綿貫 リエ【わたぬき りえ】……………女優探偵。 城ケ崎 九郎【じょうがさき くろう】…喪服探偵。 鈴村 眉美【すずむら まゆみ】…………探偵助手。 烏丸 詩帆【からすま しほ】……………残酷館の使用人。 表紙イラスト/横瀬映

【完結】縁因-えんいんー 第7回ホラー・ミステリー大賞奨励賞受賞

衿乃 光希
ミステリー
高校で、女子高生二人による殺人未遂事件が発生。 子供を亡くし、自宅療養中だった週刊誌の記者芙季子は、真相と動機に惹かれ仕事復帰する。 二人が抱える問題。親が抱える問題。芙季子と夫との問題。 たくさんの問題を抱えながら、それでも生きていく。 実際にある地名・職業・業界をモデルにさせて頂いておりますが、フィクションです。 R-15は念のためです。 第7回ホラー・ミステリー大賞にて9位で終了、奨励賞を頂きました。 皆さま、ありがとうございました。

世界は妖しく嗤う【リメイク前】

明智風龍
ミステリー
その日の午後8時32分にそれは起きた。 父親の逮捕──により少年らは一転して加害者家族に。 唐突に突きつけられたその現実に翻弄されながら、「父親は無実である」というような名を名乗る謎の支援者に励まされ、 ──少年は決意する。 「父さんは無実だ」 その言葉を信じ、少年は現実に活路を見いだし、立ち上がる。 15歳という少年の身でありながら、父親を無事救い出せるのか? 事件の核心に迫る!! ◆見所◆ ギャグ回あり。 おもらしにかける熱い思いをミニストーリーとして、2章学校編7~9に収録。 ◆皆さん。謎解きの時間です。 主人公の少年、五明悠基(ごみょうゆうき)君が、とある先生が打鍵している様子と、打鍵したキーのメモを挿し絵に用意してます。 是非解いてみてください。 挿し絵の謎が全て解けたなら、物語の核心がわかるかもしれません! ◆章設定について。 おおよそ区別してます。 ◆報告 しばらく学校編続きます! R18からR15にタグ変更しました。 ◆表紙ははちのす様に描いていただきましたので表紙を更新させていただきます!

アナグラム

七海美桜
ミステリー
26歳で警視になった一条櫻子は、大阪の曽根崎警察署に新たに設立された「特別心理犯罪課」の課長として警視庁から転属してくる。彼女の目的は、関西に秘かに収監されている犯罪者「桐生蒼馬」に会う為だった。櫻子と蒼馬に隠された秘密、彼の助言により難解な事件を解決する。櫻子を助ける蒼馬の狙いとは? ※この作品はフィクションであり、登場する地名や団体や組織、全て事実とは異なる事をご理解よろしくお願いします。また、犯罪の内容がショッキングな場合があります。セルフレイティングに気を付けて下さい。 イラスト:カリカリ様 背景:由羅様(pixiv)

グリムの囁き

ふるは ゆう
ミステリー
7年前の児童惨殺事件から続く、猟奇殺人の真相を刑事たちが追う! そのグリムとは……。  7年前の児童惨殺事件での唯一の生き残りの女性が失踪した。当時、担当していた捜査一課の石川は新人の陣内と捜査を開始した矢先、事件は意外な結末を迎える。

処理中です...