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2章 学校編

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「さて、授業を始める前に皆に伝えなければならないことがある。実は──」
 
 僕が言われるがまま席に着くと、授業を始める直前になって笹野先生からの話が設けられることに。
 「実は」と切り出した話に皆が思い思いの反応を見せた。
「何それー、気になるぅー」という女子の反応や、「ふん、どうせ下らない話だろ?」という受け付けない反応から、「早く話して、先生」という期待の反応まで様々だった。
 いずれにせよ、四人衆はたいした反応も見せていなかった。
 なんだろう? って疑問に思うも、教室内はガヤガヤとしだしたために、先生の話は途切れ途切れにしか聞こえない。

「実は──兎沙希(うさぎさき)っって──」

と、この部分だけ聞こえた。
 何か大切なことを先生は話していたような気がする。
 それがなんだったのか? うまく聞き取れず、話がよくわからないまま授業が始まった。
 
 
 ◆◇◆◇
 
 笹野先生による数学の授業も終わり、四時限目の体育の時間に僕は体操着を着こんでなかったから、見学をすることに。
 見学をする生徒が僕以外に数人いたが全員が女子だった上に、自分の影が薄いことも有力な理由となり、だれにも気づかれずに職員室を目指すことを決断した。
 念のため、足音をたてないようにアジックスのブランドの靴を脱ぎ、上履きに履き替える。
 その間、探偵行為をしているような楽しい心地がして、思わずくすりと笑い声を漏らしてしまいそうになったほど。
 他人に縛られず、他人に見られずに一人別行動をとることは、街中で自分を赤裸々にだすような爽快さまで感じる。
 僕の将来の夢、決まったな。
 僕、探偵とか良いかもしれない。
 他人に悟られずに調べる密偵行為を今まさにしているのだと、少し舞い上がる。
 と同時に、さんざん親や先生達から長いこと“将来の夢”ってやつを探すように言われて、見つからずにいた自分になりたいものがこんな簡単に見つかったのだから、人生何がどう左右するかわからないもんだと、つぶさに呟いた。
 さて、そろそろ職員室だ。
 他クラスの生徒たちに見られないように、慎重に屈んで廊下を通り過ぎた。
 見えてきた。
 今度は漏らすような失態はしないと、心に誓って、慎重な面持ちで職員室の扉をノックした。
 
「どうぞ」
「失礼します。三年二組の五明悠基です」
「用件はなんだね? まだ授業中だぞ?」
「実は、担任の笹野先生に話したいことがあって、ちょうど体育が見学だから、来ました」
「なるほど。笹野先生……ねぇ。先生から許可はとってあるんだろうな?」
「もちろんです!」
  
 職員室の敷地に足を踏み入れる前ににらみを聞かせてきた学年主任だったが、何とか誤魔化せた。
 そのまま、職員室の扉の前で、笹野先生を待つことに。   
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