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2章 学校編

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 ──放課後
 
 担任の笹野先生の指示通り職員室に定刻より少し前に来たのは良いものの、笹野先生が「待ってろ! 少し用事ができた」と話し、職員室を出て、少し待ち時間が伸びることに。
 どうやって先生からさりげなく聞き出すか、という方法について、考えがまとまらないために、早く情報を掴みたい思いと、考える時間が欲しい思いの狭間で揺れていた。
 
 お、笹野先生が戻ってきたぞ!
 ようやくかな?
 
「悠基、待たせたな」
「ずっと……待ってました……先生。早速話を」
「そうだったな。……話だったな」
「何の話か覚えていますよね?」
「い……いじ…いじめの話だったな?」  
「忘れないでくださいよ、笹野先生」  
「忘れてなどいないさ、少しプリントを取りに行ってただけさ」
 
 小さな女の子が怒りを可愛く表現するように、柄にもなく膨れっ面で、途中離席した先生にいらつきをぶつけた。
 笹野先生は物忘れは激しい方ではないと、認識しているのだが、用事が重なると忘れることもしばしばあるから仕方ないのだけれど。
 でも、やっぱり僕はいらついてしまった。
 切り出すべき話の本題がいじめではないのだけれど、話の切り口として、いじめの話を持ち出すのは都合がよいのではないか? と結論めいた考えが湧き出していた。
 だけど──。
 話せるかなぁ。
 一度整っていた頭の中の考えがぐちゃぐちゃになってしまった。
 このままでは話すのは難しくなる。
 
「この話をするなら、そうだなぁ。ここじゃ話をしづらいよな?」

 確かに先生のいう通り、職員室に人が少ないとはいえ、話をしづらい。
 話しづらく感じていたのは、場所の問題だと、自分に言い聞かせるように応えた。
 
「えぇ、確かにそうですね。人気のない場所が良いです」
「わかった。……悪い、誰もいない自習室の方で話すか」
 
 笹野先生は担任として、僕は五明章介の息子として。先生は先生でノートPCを抱えて、いじめの話を聞き出しに、僕は僕でUSBの話を聞き出しに、各々の目的を引っ提げて自習室へと向かった。
 
 
 
 ◇◆◇◆
 
 
「いじめについて、ゆっくりでいいから話せるか」
「……わかりました。話します」
 
 僕は精一杯に話した。
 今日までに起きたいじめにまつわる話を持ち出した。
 いじめっこ四人衆の話し。
 そして、3年2組の教室内では先生の知らないところでいじめがあり、何人かがターゲットにされていた。僕も皆も黙認していたという話しも。
 さらには、先生も知っているように僕が休んでいた状態が続き、おもらしをしてしまったことも要因となり、ターゲットにされて、いじめられた。
 というような話をおこなった。
 
 すると、先生は「なるほど、わかり……ました」と、話しながらUSBの刺さったノートPCに文字を入力しながら応えた。
 そのまま、先生はメモした情報をUSBに保存するために手早くパスワードを入力する。
 ハッと気づかされた。
 今、目の前にUSBがあるではないか。
 しかもパスワード入力中のキーボード操作まで何とか見える。
 それを僕は見逃さなかった。
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