黒い雨

Tihiro✓

文字の大きさ
上 下
4 / 4
刹那5秒

5秒間

しおりを挟む
全て一瞬の出来事。
頭上から吹き付ける風を感じながら、私は虚ろに目を開いた。
目の前の景色は絶景で、そこには嫌なクラスメイトもいなければ、嫌な出来事も何も無かった。
ただ流れに身を任せて、海を漂うみたいに全身の力を抜き切ると、重い頭で何となく考える。

私はこれでよかったのか、と。

まあこの状態を望んだ自分だからこそ、もう遅いということはハッキリと明確に分かっていて、今更後悔なんてものを感じるには無理があると思った。

無理があった‥‥。
いや、考えたくなかったんだ。
だから私は考えないために、無理矢理にでも考えるべきだと思った。最後の瞬間。刹那が終わるその時まで、自分を肯定する必要があった。

一瞬、一瞬で全てを終わらせることが出来る。
あともう少しで、あと少しで、私は救われる。

この迷路から抜け出す近道を、私は見つけたのだ。

見つけた。

もう少しで‥‥。


もう終わりが近づいている‥‥‥‥。



もう終わりにできる‥‥‥‥。



はずなのに、


「嫌だ!!」

私は体を力一杯捻ると一言の悲鳴を上げて葛藤の縁から抜け出す。
咄嗟に出た腕に力を込めると物凄い勢いで宙を切り刻んだ。

「っ‥‥!」


‥‥‥。


あの感覚に似ていた。
昨日、学校の帰りに大好きだった親友に言った。

一緒に帰ろう。

けど‥‥ダメだった。



届かない。


私の思いは虚しく、届かなかった。

あぁ‥‥私、ほんとに全て終わらせちゃうんだ‥‥。

諦めて目を閉じると、現実に目を背けた。
いつもそうしてきたように、目を閉じて、嫌なことが過ぎるのを、待つ事を、私は、選んだ。

「わっ!」

その時だった。
体中に物凄い重力を感じ、思わず目を見開いた。

「もう‥もう離さないから」

聞き慣れたその声を懐かしいように感じたと同時に、
私の刹那は終わった。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

家に帰ると夫が不倫していたので、両家の家族を呼んで大復讐をしたいと思います。

春木ハル
恋愛
私は夫と共働きで生活している人間なのですが、出張から帰ると夫が不倫の痕跡を残したまま寝ていました。 それに腹が立った私は法律で定められている罰なんかじゃ物足りず、自分自身でも復讐をすることにしました。その結果、思っていた通りの修羅場に…。その時のお話を聞いてください。 にちゃんねる風創作小説をお楽しみください。

結婚して四年、夫は私を裏切った。

杉本凪咲
恋愛
パーティー会場を静かに去った夫。 後をつけてみると、彼は見知らぬ女性と不倫をしていた。

処理中です...