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9. 謎の鳥居
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耕太郎は慣れた様子で籠を修理してくれ、僕の薪を半分抱えて一緒に山を降りてくれた。ついでに麓から少し歩いた場所にある例の鳥居のある場所まで行った。
その鳥居は山に囲まれた細道の脇にあった。開かれた小さな木の祠の中には、可愛らしい木彫りの神さまがいた。耕太郎が手を合わせるのに僕たちも倣った。幸と松、そして耕太郎を救えますように。願いはそれだけだった。耕太郎も静かに手を合わせていた。
「子どもの頃、あの祠はオラの逃げ場だった」
車のある場所に向かいながら耕太郎はぽつりと言った。
「いじめられたりするといつもあそこに行って、もう怖い思いや悲しい思いをしなくてもいいようにって祈ったんだ。結局何も変わらなかったけどな」
「お前の声は届いてるさ」
権田が言った。
車を置いた場所に辿り着くと、試しに権田と二人で車に乗り込み、元の世界に戻るよう念じエンジンをかけてみたが上手く行かなかった。
「もしかしたら、ノルマ的なのを解決しなきゃ戻れない的なやつじゃね? ほら、よくタイムスリップものの漫画であるだろ? 何か大事なことを解決しないと元の世界に戻れないみたいな」
権田のひらめきは、たった今僕が考えていたのとそっくり同じだった。
「だとしたら、僕たちはあの事件が起こるのを止めないといけないのか」
「よく分からんけど、そうかもな。あの祠の神様のおしぼめしってやつじゃねぇか」
「それを言うなら思し召しだろ」
権田と話しながら、さっきの耕太郎が神様にお願いしていたという話と、僕たちがここにいることは大きな関係があるんじゃないかと思えてきた。耕太郎の必死の願いをあの神様が聞いてくれていたのだとして、彼を救い事件を起こさせないために僕たちがここに呼ばれたのだとしたら僕たちがここに来たのは偶然ではなくて必然的なものなのではないかと思えた。
「なら、尚更あの事件が起こるのを食い止めないといけないな」
「でもよ、元の世界に帰ることになったら、幸ちゃんともお別れなんだよな」
「それは俺だって名残惜しいさ」
幸や松は今や僕たちの生活の一部になっていた。二人は甲斐甲斐しく僕たちの世話を焼いてくれる。最初僕たちを煙たがっていた松も、今では家族の一員として扱ってくれる。よくコキを使われるが何も当てにされないよりずっといい。
「お前、もしかして帰りたくねーんじゃねえの?」
「うっ……」
権田に図星を突かれ言葉に詰まる。この生活が好きになりつつある今、耕太郎や幸を助けたいという気持ちはあるが帰りたいという気持ちはあまりない。せっかく仲良くなった彼女たちと別れることは寂しいし、未来に戻り現実に向き合いたくなかった。それならばこっちに残るという手もありだなと思っていた。
「俺も戻るのやんなってきたな~、ここにいんの楽しいし幸ちゃんも可愛いしさ。松さんも近所の人も皆優しいし、元の世界より楽しいわ」
「ああ、そうだな。僕もここを離れるのは嫌だ」
「でもいつかは帰らねえといけねんだよな」
「そうだな……」
いっそ元の世界のことを夢のように忘れてしまえればいい。そんな現実逃避じみたことを考えながら、僕は踵を返した。
その鳥居は山に囲まれた細道の脇にあった。開かれた小さな木の祠の中には、可愛らしい木彫りの神さまがいた。耕太郎が手を合わせるのに僕たちも倣った。幸と松、そして耕太郎を救えますように。願いはそれだけだった。耕太郎も静かに手を合わせていた。
「子どもの頃、あの祠はオラの逃げ場だった」
車のある場所に向かいながら耕太郎はぽつりと言った。
「いじめられたりするといつもあそこに行って、もう怖い思いや悲しい思いをしなくてもいいようにって祈ったんだ。結局何も変わらなかったけどな」
「お前の声は届いてるさ」
権田が言った。
車を置いた場所に辿り着くと、試しに権田と二人で車に乗り込み、元の世界に戻るよう念じエンジンをかけてみたが上手く行かなかった。
「もしかしたら、ノルマ的なのを解決しなきゃ戻れない的なやつじゃね? ほら、よくタイムスリップものの漫画であるだろ? 何か大事なことを解決しないと元の世界に戻れないみたいな」
権田のひらめきは、たった今僕が考えていたのとそっくり同じだった。
「だとしたら、僕たちはあの事件が起こるのを止めないといけないのか」
「よく分からんけど、そうかもな。あの祠の神様のおしぼめしってやつじゃねぇか」
「それを言うなら思し召しだろ」
権田と話しながら、さっきの耕太郎が神様にお願いしていたという話と、僕たちがここにいることは大きな関係があるんじゃないかと思えてきた。耕太郎の必死の願いをあの神様が聞いてくれていたのだとして、彼を救い事件を起こさせないために僕たちがここに呼ばれたのだとしたら僕たちがここに来たのは偶然ではなくて必然的なものなのではないかと思えた。
「なら、尚更あの事件が起こるのを食い止めないといけないな」
「でもよ、元の世界に帰ることになったら、幸ちゃんともお別れなんだよな」
「それは俺だって名残惜しいさ」
幸や松は今や僕たちの生活の一部になっていた。二人は甲斐甲斐しく僕たちの世話を焼いてくれる。最初僕たちを煙たがっていた松も、今では家族の一員として扱ってくれる。よくコキを使われるが何も当てにされないよりずっといい。
「お前、もしかして帰りたくねーんじゃねえの?」
「うっ……」
権田に図星を突かれ言葉に詰まる。この生活が好きになりつつある今、耕太郎や幸を助けたいという気持ちはあるが帰りたいという気持ちはあまりない。せっかく仲良くなった彼女たちと別れることは寂しいし、未来に戻り現実に向き合いたくなかった。それならばこっちに残るという手もありだなと思っていた。
「俺も戻るのやんなってきたな~、ここにいんの楽しいし幸ちゃんも可愛いしさ。松さんも近所の人も皆優しいし、元の世界より楽しいわ」
「ああ、そうだな。僕もここを離れるのは嫌だ」
「でもいつかは帰らねえといけねんだよな」
「そうだな……」
いっそ元の世界のことを夢のように忘れてしまえればいい。そんな現実逃避じみたことを考えながら、僕は踵を返した。
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