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スウィーツ・バイキング②

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11月21日(日)

 午前中エイヴェリーとチェスで対戦した後、新しくスウィーツの食べ放題ができる店ができたから行ってみようと提案した。私と同じ超甘党のエイヴェリーは、即座に同意してくれた。

 私たちは甘いものーー特にチョコレートやイチゴと生クリームのたっぷり入ったクレープなんかには目がない。学校帰りに待ち合わせて、一緒にカフェでデザートを食べることもしばしばだ。パンケーキの店に行くこともよくある。だけどあの店は同じ学校の子たちの溜まり場になっているから、しばらくは行かないだろう。ソラのことで絡まれても面倒だしね。

 街に向かうバスの中で、エイヴェリーと私は色めき立ちながらスマートフォンでお店のホームページを見ていた。

 写真のケーキやフロマージュ、タルトなんかのスウィーツに、見ているだけで涎が出そうになった。

 お店は幸い混んでいなかった。同じ学校の生徒に会ったら面倒臭いなと思っていたけれど、どのテーブルにも知った顔はいなくて、いるのはスウィーツよりもお喋り目当てのマダムたちと、何か真剣に話をしている高齢男性二人だけだった。

 店内には、ホームページで見たあの光景が広がっている。

 大きなテーブルの上にところ狭しと並んだいちごがたくさん乗ったショートケーキや、小さなカップに入ったオレンジのフロマージュ、木苺のムース、洋梨のタルトやチョコレートのかけられたワッフル、ベリーソースを挟んだピスタチオのガトーオペラ、シュークリームやマカロン……。

 ダージリンやローズヒップティー等数種類のアイスティーの入ったボトルもある。

「わぁ、夢みたいだわ」

 はしゃいで目を輝かせるエイヴェリーが、子どもみたいで可愛いと思う。私も子どもになったみたいに気持ちが興奮して、早く食べたくて仕方がなかった。

 店員に案内され、テーブルのそばの長机に重ねられた銀色のプレートと皿を手にとって、好きなスウィーツを選んでいく。私は最初ピスタチオのガトーを、次にフランボワーズのケーキ、そして苺のマカロンとカスタードシュークリームを皿に乗せてテーブルに運ぶ。

「持つわ」

 エイヴェリーのプレートに並んだ二つの皿があんまりいっぱいになっていたから、そのうちの一つを先にテーブルに運んであげた。そしたらエイヴェリーが「ありがとう、ベニー」とふざけた呼び方をするもんだから、「その呼び方はなし!」と返して二人で笑った。

 テーブルにつくと、予想した通りエイヴェリーは私がハロウィンパーティーでベニー・ワッツの格好をしたことを話題にあげた。私はハロウィン当日まで何の仮装をするかエイヴェリーとオーシャンには秘密にしていて、当日エイヴェリー扮するベス・ハーモンの男友達ベニーの格好でステージに立った。まさか、あんなに歓声を浴びるなんて思ってなかったけれど。普段と違う人に化けるのって新鮮だし、非日常的でなかなか楽しかった。

「あの時のあなたの格好、すごくツボだったわ。当日まで秘密にしておいて、まさか私と被せてきてくれるなんて」

「サプライズ成功ね。ベニー・ワッツに似てるかはどうとして、雰囲気は出てたでしょ?」

「すごくね。うちのクラスの友達が何人か、あなたのファンになったみたい。あなたがイケメンすぎて、踊ってる時なんか恥ずかしかったわ」

 エイヴェリーと私はダンスで一曲だけ踊った。前々から約束していたわけじゃないけれど、クレアとエイヴェリーが踊っているのを見て楽しそうで少しだけ羨ましくなって、クレアに断りを入れて一緒にアン・マリーの曲を踊った。恥じらっているエイヴェリーが何だか可愛いかった。「ベニーなら、『この後僕とチェックメイトしない?』なんて言うのかな?」とダンスの途中で言ったら、エイヴェリーはツボに入ったのかくすくす笑った。エイヴェリーが笑うのに釣られて私も笑った。結局最後まで笑っていた。凄く楽しかった。

 エイヴェリーはオレンジのフロマージュをフォークで掬う。彼女の赤い唇にフロマージュが入っていく。私はピスタチオのガトーを口に含みながら、ベス・ハーモンの髪型も勿論いいけれど、エイヴェリーにはやっぱりショートヘアが似合うななんて考えながら、演劇コンペの劇のことを訊いてみた。

「劇の配役は決まった?」

「まだよ、今回は私は脇役に立候補したの。オーシャンは準主役やりたいみたいだけどね」

「今年の劇も楽しみだわ。去年のはすごかったもの」

「ふふ、そうね。すごくいい思い出だわ」

「舞台の仕事、してみないの?」

 オーシャン曰く、クラスには舞台やドラマの仕事をしている子も多くいるそうだ。でもエイヴェリーはそうじゃない。彼女はきりっとした顔でパッと人目を惹く魅力があるし、才能があるからオーディションを受けたら受かりそうなものなのに。

「どうかしらね。今のところ、学園祭やコンペで演じられるだけで十分だなって思うの」

 エイヴェリーがそういうなら、無理強いする資格は私にはない。でももし彼女が女優じゃなくても他のことをやりたいと言ったら、私は全力で応援すると思う。

 隣のテーブルのおじいさん二人は、恋愛の話をししていた。一人のおじいさんが、「お前がバドミントンがすごく好きなのは分かるけど、全ての女性がバドミントンが好きというわけじゃない。だから、バドミントンの話ばかりしたって相手はつまらないと感じるじゃろう」と言うと、向かいのおじいさんが「いやそうじゃない。バドミントンは楽しいぞ。イヴォンヌはいつも楽しそうにわしの話を聴いてくれるわい!」とムキになって言い返した。

「いんや、それはお前に合わせてくれてるんじゃ! 女性というのはそういうもんじゃ。でも内心彼女はこう思っとるわい。『クソつまらないジジイだわ、コイツと話してるなら時報を永遠に聴いていた方がまだマシ』ってな!」

「なんじゃと!! お前だって、毎日毎日ペットのフクロモモンガの話ばかりしとるじゃないか!!」

 二人の口論がヒートアップしてきたから、私とエイヴェリーは店を出てショッピングに行くことにした。
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