烏と楓の木

たらこ飴

文字の大きさ
上 下
36 / 74

映画とファミレス②

しおりを挟む
 エイヴェリーは責任を持ってクレアが送り届けるというので、俺は後片付けがあるというシエルを待ってアレックスと三人で帰ることにした。

 学校前は迎えの車と生徒たちで混んでいた。シエルからは『まだかかりそうだから、先に帰ってて』と連絡が来たが、置いていくわけにもいかないからファミレスで時間を潰すことにした。

 ファミレスまで行く夜道の途中で、アレックスは切り出した。

「オーシャン、もしかしたらもうシエルから聞いてるかもだけど……」

 夜道を歩きながら、アレックスが切り出した。街灯が照らす歩道に、俺たち二人の影が長く伸びている。子どもの頃、一人で夜道を歩くのは怖かった。自分の影ですらお化けみたいに見えて怯えていた。

「ん?」

「これ聞いたらビックリすると思うんだけどさ」

「うん」

「私、オーシャンのことが好きなんだよね」

「うん……。さっき聞いたよ、シエルから」

「やっぱりね」

「いつから?」

「気づいたのは、半年くらい前。好きになったのはもっと前だと思う」

「そっか。なんかビックリだよ」

「そうだよね。だって私ら、小さい頃から一緒にいたんだもん」

「うん。なんつーか、いきなり恋人! って気持ちにはなれねーかも」

「いいよ、それでも。あなたがエイヴェリーのこと好きなの知ってるし、無理なの分かってるし。だけど、気持ちだけでも伝えときたかったの。今日がチャンスだと思ったから」

「気持ちは嬉しいよ。ありがとう、俺なんか好きになってくれて」

「俺なんかとか言わないの!」

 アレックスが俺の背中をバシンと叩く。

「いってぇ! 何すんだよ、怪力!」

「だって、オーシャン自尊心低すぎなんだもん。自信無くす気持ちは分かるけどさ、あんまりクレアとかと自分を比べちゃダメだよ」

「比べたくねーけど、気づいたら比べてんだよ。クレアだけじゃない、妹だってそうだ。シエルは俺よりも器用で何でもできて人気者だ。今日だって、アイツの仮装にみんなキャーキャー言ってるしさ」

「だけど、あなたにはあなたのいいところがあるよ。友達思いで優しいし、不器用だけどそこもまた人間らしくていいっていうか」

「でも、できたらクールにいきたいじゃん? 俺的に、クールでミステリアスなキャラに憧れるのよ」

 ぷっとアレックスが吹き出す。やがてアハハハ!! と大声をあげて笑い出した。

「笑うなよ!!」

「あなたがクールとかミステリアスとか、キャラじゃなさすぎて……」

 アレックスはお腹を抱えてしばらく笑ったあと、「あ~、可笑しかった!」と涙を拭った。

「あなたはあなたらしいのが一番だよ、オーシャン。カッコつけたって不自然なだけだし、今のままがいい」

「サンキュ。お前、今日の仮装すごく良いぞ。ハーマイオニーがまんま出てきたみたいだ」

「なら、ずっとこれで行こうかな」

「やめろ、なんか落ちつかねーよ」

 二人で笑いながら夜道を歩いた。ダンスパーティーで味わった苦い感情は今はもうなかった。代わりに夜の冷たい空気と、大きなイベントが終わった後の少しの寂しさだけがあった。

 ファミレスに着くと、料理を注文して今日の映画の内容について議論した。アレックスと俺は映画の趣味がよく似ている。小学生の頃から、よく二人で小遣いを持って学校近くの映画館に足を運んだものだった。それがない時はお互いの家のテレビで映画を観た。観たのは主にホラー映画だった。母親に夜眠れなくなるから観るのをやめろと怒られても聞かずに観た。そこから派生してホラーコミックや小説を読んだりもした。お互いの知っている都市伝説なんかを教え合ったこともある。

 俺たちはそんな風に、姉妹同然に一緒にいた。だから、アレックスとそれ以上の関係になるなんて今は想像できないけど、そうなったとしても悪くないと今はどういうわけか思ってる。

「今日は俺が奢るから」

「やけに太っ腹じゃん」

「色々気遣ってもらったからさ。お返しだ」

「ありがと! じゃあ遠慮なく頼むぞ」

 アレックスは本当に遠慮なく、ガーリックソースのかけられたチキンステーキやトマトパスタ、サラダ、パフェなんかを頼んだ。俺たちはそれを分け合って食べた。

 一時間後にシエルが合流して、残りの皿をつついているところに母親の車が迎えに来た。
しおりを挟む

処理中です...