烏と楓の木

リーチのカラス④

　メールで打ち合わせして餌やりはアレックスが朝、俺が夕方の当番制になった。理由は俺が朝弱くていつも遅刻ギリギリだからだ。

　だが翌日アレックスは珍しく遅れると電話をしてきた。

『妹が熱出しちゃって。悪いけど、オーシャン今日餌やりお願い！』

　アレックスの妹のホリーは白血病で、以前まで入退院を繰り返していた。三ヶ月前に骨髄移植してこの頃は具合が良くなって家に帰ってきているらしいが、疲れやすく体調に波があるから油断ができないと言っていた。

「おう、分かった！　妹お大事にな！」

　たまたま早く起きていた俺は、自転車を高速で漕いで学校に向かった。

　何でリーチのカラスのために、俺がここまでせにゃならんのだ。リーチと仲良いわけでも、カラスが特別好きなわけでもないのに。

　八時過ぎに校門を潜り、裏庭に向かう。カラスたちはすでにスタンバイしてガーガー鳴いている。

「はいはい、分かったよ。餌やるから静かにしろ」

　五羽のカラスにパンを千切ったやつを撒いてやる。嬉しそうにガーガー鳴きながらパンを嘴に咥えるのを見ていたら、不思議と心が晴れた。

　アレックスは午後に学校に来た。

「ホリー、大丈夫なのか？」

「うん。昨日従姉妹の子たちが遊びに来て、はしゃいだから少し疲れちゃったのね。病院に連れて行ったけど、そんなに心配はないみたい」

「そうか、ならよかったよ。心配だよな、妹の体調少しでも悪くなると」

「そうだね、だいぶ元気にはなってるんだけど」

　九歳のホリーはずっと入退院を繰り返していた。アレックスは彼女のことが心配で夜も眠れない日々を過ごしていたという。だからホリーが外国で移植手術に成功したと聞いた時は、自分のことのように嬉しかった。

　アレックスの家に遊びにいくとホリーがいて、俺の名前を呼んで抱きついてくる。彼女はクレアに憧れていて、「大きくなったらミュージカル女優になる！」といつも言っている。彼女にはこれからも元気に生きていてほしいと思う。そして、夢を叶えてクレアよりも凄い女優になって欲しい。何となく、彼女ならなれる気がする。