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母子のピザ会
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どっと疲れて、家に帰るなりソファに沈み込んだ。シエルたちが部屋で騒いでいるのが聞こえてきたけれど、それが気にならないくらいには疲れていて、気づいた時には眠ってしまっていた。
母親が仕事から帰ってきた音で目を覚ました。時計は夜十時を過ぎている。シエルは部屋にいるらしい。
「あらオーシャン、寝てたの? キャンプはどうだった?」
母に訊かれ、「まあまあ楽しかった」と短く答える。
「それより飯ない? すげぇ腹減ったわ」
お昼にキャンプ場でBBQをして以来まともに食事をとっていなかったから、俺の空腹はMAXに達していた。母親の持つ袋から、香ばしいチーズの香りがする。これはもしや……と涎が出かけたところで母親の口から嬉しい言葉が飛び出した。
「今日はピザを買ってきたから、三人で食べましょう」
「やったー!!」
ピザという単語が聞こえたのか、シエルも早足で階段を下りてきた。テーブルを囲み、家族三人でのピザパーティーが始まる。二種類のピザを齧り、おまけのサラダをつつく。
母親は夢中で食べる俺たちを見て微笑んでいる。
父が再婚してから、母親はショックでしばらく塞ぎ込んだ。だけど少しずつ立ち直り、こんな風に夜遅くの三人での団欒が当たり前になった。
「料理大会はどうだったの?」
シエルがサラダのトマトを摘みながら俺に訊いた。
「優勝だったよ」
「すごい、おめでとう! それ最初に言ってよね」
シエルはつっこみながらも嬉しそうだ。
「メグが味噌汁に入れる味噌忘れてどうなるかと思ったけど、勝てて良かったよ。リアナのチームといい勝負だった」
クレアとの間に起きたことは話さなかった。母親のことだから過剰に心配して、相手の家に謝罪の電話などかけかねない。
食事の後母親は風呂に向かった。
「そういえば」と思い出したようにシエルが呟く。
「今度うちと合同で、ハロウィンのダンスパーティがあるでしょ?」
「そういやそんなのもあったな」
10月31日にシエルの通う隣町のグランストーン音楽学院と、俺の通うベルガー演劇学校の二年生で合同のハロウィンダンスパーティーがある。これは両校のニ年生の合同イベントで、40年以上前に、ベルガーの校長と旧知の仲だったグランストーンの校長が思いついて始めたのがきっかけらしい。企画するのも料理を準備してもてなすのも、ダンス用の音楽を演奏するのもグランストーンの生徒たち。俺たちはあくまで客で、仮装をして参加をする。
「エイヴェリーを誘ったら? ダンスの相手に」
「ああ……」
誰と参加するかは自由だが、友達同士でペアになり連れ立って行く生徒が多い。憧れている相手を誘うこともできる。まるで共学校のプロムみたいなノリだ。
エイヴェリーを誘いたい気持ちはあったけれど、彼女は俺と行くより仲の良いクレアとペアになった方が安心だろう。悔しいけれど、エイヴェリーは俺よりもクレアの方に気を許している。他校を訪れるのも、気が置けない仲の相手のほうが安心に違いない。
「まさか、クレアに譲るとか言わないでしょうね?」
「うっ……」
妹は何でもお見通しらしい。
「そんなんじゃいつまで経っても進展しないわよ。せっかくのチャンスなんだから、モノにしないと」
「分かってるよ、言われなくたって」
「エイヴェリーに何の仮装するか聞いて、その流れで誘っちゃえばいいのよ」
「うん……」
「自信持ちなさいよ、応援してるから」
シエルが俺の肩をぽんと叩く。彼女は本当に姉思いだ。
母親が仕事から帰ってきた音で目を覚ました。時計は夜十時を過ぎている。シエルは部屋にいるらしい。
「あらオーシャン、寝てたの? キャンプはどうだった?」
母に訊かれ、「まあまあ楽しかった」と短く答える。
「それより飯ない? すげぇ腹減ったわ」
お昼にキャンプ場でBBQをして以来まともに食事をとっていなかったから、俺の空腹はMAXに達していた。母親の持つ袋から、香ばしいチーズの香りがする。これはもしや……と涎が出かけたところで母親の口から嬉しい言葉が飛び出した。
「今日はピザを買ってきたから、三人で食べましょう」
「やったー!!」
ピザという単語が聞こえたのか、シエルも早足で階段を下りてきた。テーブルを囲み、家族三人でのピザパーティーが始まる。二種類のピザを齧り、おまけのサラダをつつく。
母親は夢中で食べる俺たちを見て微笑んでいる。
父が再婚してから、母親はショックでしばらく塞ぎ込んだ。だけど少しずつ立ち直り、こんな風に夜遅くの三人での団欒が当たり前になった。
「料理大会はどうだったの?」
シエルがサラダのトマトを摘みながら俺に訊いた。
「優勝だったよ」
「すごい、おめでとう! それ最初に言ってよね」
シエルはつっこみながらも嬉しそうだ。
「メグが味噌汁に入れる味噌忘れてどうなるかと思ったけど、勝てて良かったよ。リアナのチームといい勝負だった」
クレアとの間に起きたことは話さなかった。母親のことだから過剰に心配して、相手の家に謝罪の電話などかけかねない。
食事の後母親は風呂に向かった。
「そういえば」と思い出したようにシエルが呟く。
「今度うちと合同で、ハロウィンのダンスパーティがあるでしょ?」
「そういやそんなのもあったな」
10月31日にシエルの通う隣町のグランストーン音楽学院と、俺の通うベルガー演劇学校の二年生で合同のハロウィンダンスパーティーがある。これは両校のニ年生の合同イベントで、40年以上前に、ベルガーの校長と旧知の仲だったグランストーンの校長が思いついて始めたのがきっかけらしい。企画するのも料理を準備してもてなすのも、ダンス用の音楽を演奏するのもグランストーンの生徒たち。俺たちはあくまで客で、仮装をして参加をする。
「エイヴェリーを誘ったら? ダンスの相手に」
「ああ……」
誰と参加するかは自由だが、友達同士でペアになり連れ立って行く生徒が多い。憧れている相手を誘うこともできる。まるで共学校のプロムみたいなノリだ。
エイヴェリーを誘いたい気持ちはあったけれど、彼女は俺と行くより仲の良いクレアとペアになった方が安心だろう。悔しいけれど、エイヴェリーは俺よりもクレアの方に気を許している。他校を訪れるのも、気が置けない仲の相手のほうが安心に違いない。
「まさか、クレアに譲るとか言わないでしょうね?」
「うっ……」
妹は何でもお見通しらしい。
「そんなんじゃいつまで経っても進展しないわよ。せっかくのチャンスなんだから、モノにしないと」
「分かってるよ、言われなくたって」
「エイヴェリーに何の仮装するか聞いて、その流れで誘っちゃえばいいのよ」
「うん……」
「自信持ちなさいよ、応援してるから」
シエルが俺の肩をぽんと叩く。彼女は本当に姉思いだ。
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