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56. 気持ち
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その後出来上がったトリュフをデザートに4人で食べた。私の身体に異変が起きたのは食べ終わって20分ほど経った頃だった。体温が上がり頭が朦朧として、私は呂律が回らない口で訳の分からない発言をしまくるうち、次第に自己否定的な感情が湧いてきて抑えられなくなった。
「え~……私は~ダメ人間です!! ザ・人間の屑!!」
悪酔いしたおっさんのように右手を上げて叫びテーブルに突っ伏す。
「この子、ブランデーに酔ってるわ」
耳にジョーダンの声が入ってくる。私は酔ったのか、そうか。元々体質的にお酒に弱いうえ、普段ほとんど飲まず耐性がないから少しのブランデーでも酔うのか。どおりでさっきから頭がぐるぐるするし、感情がコントロールできなくて言動が支離滅裂なわけだ。
「規定量より多めのブランデー入れちゃったのよね」
ミシェルが気まずそうにつぶやき、「にしても、こんなベロンベロンになるか?」とタケオが怪訝そうに言う。
不意に過去にあった様々な苦い思い出が蘇る。ブランデーによりぶっ飛んだ理性を修復する努力はもはや放棄していた。私は再び顔をあげ大声で叫んだ。
「演技の才能もなければ容姿もスタイルもイマイチ! そういや誰かに言われたな、『Spice Girlsに例えるとお前はプレーン・スパイスだ』って。なんだプレーンって、ヨーグルトかっつの。もはや味すらねーわ」
捲し立てるように言って缶のジンジャーエールを一気飲みする。
ちなみにSpice Girlsとは20年以上前に大ブレイクし、ビートルズに匹敵するくらいの人気を博した伝説的女性グループだ。メンバーの一人一人にはその性格や特徴に応じてスポーティー・スパイス、ベイビー・スパイス、ジンジャー(赤毛の)・スパイス、スケアリー・スパイス、ポッシュ(ツンとした)・スパイスという愛称がつけられていた。アイドルという存在自体が稀少だった当時、その状況を逆手にとって大成功を収めたのが彼女たちだった。
中学のとき放課後何人かで教室に残って話をしているとき、お互いをSpice Girlsに例えるならどのメンバーかという話になった。その仲間の1人が私を指して言った言葉がそれだった。プレーン・スパイスというのは、『面白みのない人間』という意味の、私に対する皮肉だったのだろう。
「リオ、あなたはお世辞じゃなくてめちゃくちゃ面白いわよ。一緒にいてすごい楽しいし、ドライに見えて実は友達思いだし、綺麗だしお洒落だし最高の友達よ。そんな奴の言うことなんて気にすることないわ」
ミシェルは必死に励ましながら私の背中をさすった。
「ニコルには着てたTシャツを笑われたわ。サルサのTシャツを笑うなんて何様だっつーの! お前の顔のプリントされたバスマットがあったら一生踏んづけてやる!」
ジンジャーエールの空き缶の底をテーブルに打ち付けながら毒づく私にジョーダンが優しく声をかける。
「ニコルは誰にでもあんな感じよ、やんなっちゃうわ。だけどリオ、あなたはゲームも上手いし、天才的なゲーマーだし、殿堂入りレベルの腕前を持ったプレイヤーよ。もっと自信を持って」
ジョーダンの台詞は結局、すべて『ゲームが得意』という一文に集約される。次にタケオが口を開く。
「それにお前は……ええと……」
「いいわよ、無理に褒めなくたって」
これ以上褒めるところが見つからず困った様子のタケオに向かって言う。だが直後タケオは閃いたような表情を浮かべた。
「お前はさり気なく人を思いやれるじゃないか。ルーシーが言ってたぞ、お前は凄くかっこいい奴だって。日本語に『イケメン』という言葉があるが、お前はまさしくそれだ」
「何? イケメンって」
「『イケてるメンズ』という意味だ。だが最近ではかっこいい男性だけじゃなくて女性を指して使うことも増えたな。見た目だけじゃなくて中身を指して言うこともある」
「なるほどね。他にルーシー何か言ってた?」
おっさんに絡んでいく若い女。側から見たらかなりおかしな図だ。
「お前と結婚したいとよ」
「本当!?」
「嘘だ」
私の『本当!?』からタケオの『嘘だ』まではほんのコンマ1秒ほどだった。この超短時間の間に噴出した喜びは瞬く間に泡と散った。
「ふざけんな!」
叫んだあとで、何故私はこの短い時間でルーシーのことで一喜一憂したのだろうと考える。ルーシーにカッコいいと褒められるのはとても嬉しい。心がゴム毬になったみたいだ。つまり今にも飛び跳ねそうという意味だ。
「さてはルーシーのことが好きなのね、リオは」
ジョーダンがニヤニヤ笑いを浮かべながら言った。
私はそこでバッテリーの切れたアンドロイドのように静止した。
「え~……私は~ダメ人間です!! ザ・人間の屑!!」
悪酔いしたおっさんのように右手を上げて叫びテーブルに突っ伏す。
「この子、ブランデーに酔ってるわ」
耳にジョーダンの声が入ってくる。私は酔ったのか、そうか。元々体質的にお酒に弱いうえ、普段ほとんど飲まず耐性がないから少しのブランデーでも酔うのか。どおりでさっきから頭がぐるぐるするし、感情がコントロールできなくて言動が支離滅裂なわけだ。
「規定量より多めのブランデー入れちゃったのよね」
ミシェルが気まずそうにつぶやき、「にしても、こんなベロンベロンになるか?」とタケオが怪訝そうに言う。
不意に過去にあった様々な苦い思い出が蘇る。ブランデーによりぶっ飛んだ理性を修復する努力はもはや放棄していた。私は再び顔をあげ大声で叫んだ。
「演技の才能もなければ容姿もスタイルもイマイチ! そういや誰かに言われたな、『Spice Girlsに例えるとお前はプレーン・スパイスだ』って。なんだプレーンって、ヨーグルトかっつの。もはや味すらねーわ」
捲し立てるように言って缶のジンジャーエールを一気飲みする。
ちなみにSpice Girlsとは20年以上前に大ブレイクし、ビートルズに匹敵するくらいの人気を博した伝説的女性グループだ。メンバーの一人一人にはその性格や特徴に応じてスポーティー・スパイス、ベイビー・スパイス、ジンジャー(赤毛の)・スパイス、スケアリー・スパイス、ポッシュ(ツンとした)・スパイスという愛称がつけられていた。アイドルという存在自体が稀少だった当時、その状況を逆手にとって大成功を収めたのが彼女たちだった。
中学のとき放課後何人かで教室に残って話をしているとき、お互いをSpice Girlsに例えるならどのメンバーかという話になった。その仲間の1人が私を指して言った言葉がそれだった。プレーン・スパイスというのは、『面白みのない人間』という意味の、私に対する皮肉だったのだろう。
「リオ、あなたはお世辞じゃなくてめちゃくちゃ面白いわよ。一緒にいてすごい楽しいし、ドライに見えて実は友達思いだし、綺麗だしお洒落だし最高の友達よ。そんな奴の言うことなんて気にすることないわ」
ミシェルは必死に励ましながら私の背中をさすった。
「ニコルには着てたTシャツを笑われたわ。サルサのTシャツを笑うなんて何様だっつーの! お前の顔のプリントされたバスマットがあったら一生踏んづけてやる!」
ジンジャーエールの空き缶の底をテーブルに打ち付けながら毒づく私にジョーダンが優しく声をかける。
「ニコルは誰にでもあんな感じよ、やんなっちゃうわ。だけどリオ、あなたはゲームも上手いし、天才的なゲーマーだし、殿堂入りレベルの腕前を持ったプレイヤーよ。もっと自信を持って」
ジョーダンの台詞は結局、すべて『ゲームが得意』という一文に集約される。次にタケオが口を開く。
「それにお前は……ええと……」
「いいわよ、無理に褒めなくたって」
これ以上褒めるところが見つからず困った様子のタケオに向かって言う。だが直後タケオは閃いたような表情を浮かべた。
「お前はさり気なく人を思いやれるじゃないか。ルーシーが言ってたぞ、お前は凄くかっこいい奴だって。日本語に『イケメン』という言葉があるが、お前はまさしくそれだ」
「何? イケメンって」
「『イケてるメンズ』という意味だ。だが最近ではかっこいい男性だけじゃなくて女性を指して使うことも増えたな。見た目だけじゃなくて中身を指して言うこともある」
「なるほどね。他にルーシー何か言ってた?」
おっさんに絡んでいく若い女。側から見たらかなりおかしな図だ。
「お前と結婚したいとよ」
「本当!?」
「嘘だ」
私の『本当!?』からタケオの『嘘だ』まではほんのコンマ1秒ほどだった。この超短時間の間に噴出した喜びは瞬く間に泡と散った。
「ふざけんな!」
叫んだあとで、何故私はこの短い時間でルーシーのことで一喜一憂したのだろうと考える。ルーシーにカッコいいと褒められるのはとても嬉しい。心がゴム毬になったみたいだ。つまり今にも飛び跳ねそうという意味だ。
「さてはルーシーのことが好きなのね、リオは」
ジョーダンがニヤニヤ笑いを浮かべながら言った。
私はそこでバッテリーの切れたアンドロイドのように静止した。
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※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
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