33 / 75
31. 謎の少女
しおりを挟む
その少女はホールの裏口から巧みに警備を掻い潜って、クレアの楽屋の前までやって来た。
その日はロンドン芸術ホールで開催されたミュージカル公演の最終日で、クレアは千秋楽を大成功のうちに終え楽屋でほっと一息ついていた。
にわかに外が騒がしくなり、クレアは耳をそばだてた。女の子と男性2人ーーおそらく警備員が言い争うような声が聞こえてきた。
一向に騒ぎが収まる様子はなく、心配になったクレアは外に出た。楽屋の前では自分と同い年かいくらか年下くらいの知らない女の子が、警備員2人と何やら揉めていた。
少女が警備員2人に挟まれ両脇を抱えられ追い返されそうになっていたところに、クレアが声をかけたのだという。
「そこの女の子、待って」
クレアは少女に手招きをし、険しい顔をした警備員に彼女と自分は友達なのだと嘘をついた。クレアは厳格な両親から客を特別扱いすることは許さないと口酸っぱく言われていたにも関わらず、その少女を楽屋に招き入れたのだという。
何故だかその子と話してみたくなった。そうクレアは言った。彼女はラフなジーンズ姿で素朴な顔立ちであったが、雪のような白い肌に明るいベージュの短い髪、ビー玉のように輝く大きな緑色の瞳をしていた。
「あなたは可愛いから特別」
クレアはそう言って、テーブルの上にあったショコラブラウニーを彼女に差し出した。彼女はそれをあっという間に平らげお代わりまでした。話を聞いてみたところ彼女はクレアの熱狂的なファンというわけではなく、ただ大切なことを伝えるために来たのだという。その大切なことについてクレアは「機密事項だから」と悪戯っぽく笑うばかりで、一度も口を割らなかった。
クレアは翌日、父と母に出かけてくるとだけ言い残してホテルを抜け出し、彼女と一緒に大英博物館や図書館を見学し、図書館の側のカフェで食事をした。別れ際、クレアは辺りに誰もいないことを確認して彼女にキスをした。それがファーストキスだったと、クレアは締め括った。
「ロマンチック!」
クレアの初めてのキスの話を聞き終えたミアとルーシーは、眩いばかりに目を輝かせている。
「だけど意外。ガードが固いあなたが気に入った女の子を楽屋に入れて、デートまでしちゃうなんてね」
ミアがニヤニヤ笑いながらクレアの脇腹を肘で突いて冷かした。
「案外プレイガールだったりしてね」とルーシーも続く。
クレアは恥ずかしそうに首を振った。
「あのあと楽屋に一般人の子を勝手に入れたことと、嘘をついて2人で遊びに行ったことが両親にバレてこっぴどく叱られたわ。いくら彼女に惹かれていたとはいえ、芸能人として軽率なことをしたと反省した」
クレアは苦笑いを浮かべ肩を竦めた。その後も彼女とは良き友人として付き合いが続いているのだと説明したあとで、クレアはルーシーにクッションを渡してお題を告げた。
「あなたがこれまでした悪戯で、1番悪いやつを教えて」
ルーシーは過去に思いを馳せるような遠い目をしたあと、何かを思い出したみたいにふっと微笑んで話し始めた。
その日はロンドン芸術ホールで開催されたミュージカル公演の最終日で、クレアは千秋楽を大成功のうちに終え楽屋でほっと一息ついていた。
にわかに外が騒がしくなり、クレアは耳をそばだてた。女の子と男性2人ーーおそらく警備員が言い争うような声が聞こえてきた。
一向に騒ぎが収まる様子はなく、心配になったクレアは外に出た。楽屋の前では自分と同い年かいくらか年下くらいの知らない女の子が、警備員2人と何やら揉めていた。
少女が警備員2人に挟まれ両脇を抱えられ追い返されそうになっていたところに、クレアが声をかけたのだという。
「そこの女の子、待って」
クレアは少女に手招きをし、険しい顔をした警備員に彼女と自分は友達なのだと嘘をついた。クレアは厳格な両親から客を特別扱いすることは許さないと口酸っぱく言われていたにも関わらず、その少女を楽屋に招き入れたのだという。
何故だかその子と話してみたくなった。そうクレアは言った。彼女はラフなジーンズ姿で素朴な顔立ちであったが、雪のような白い肌に明るいベージュの短い髪、ビー玉のように輝く大きな緑色の瞳をしていた。
「あなたは可愛いから特別」
クレアはそう言って、テーブルの上にあったショコラブラウニーを彼女に差し出した。彼女はそれをあっという間に平らげお代わりまでした。話を聞いてみたところ彼女はクレアの熱狂的なファンというわけではなく、ただ大切なことを伝えるために来たのだという。その大切なことについてクレアは「機密事項だから」と悪戯っぽく笑うばかりで、一度も口を割らなかった。
クレアは翌日、父と母に出かけてくるとだけ言い残してホテルを抜け出し、彼女と一緒に大英博物館や図書館を見学し、図書館の側のカフェで食事をした。別れ際、クレアは辺りに誰もいないことを確認して彼女にキスをした。それがファーストキスだったと、クレアは締め括った。
「ロマンチック!」
クレアの初めてのキスの話を聞き終えたミアとルーシーは、眩いばかりに目を輝かせている。
「だけど意外。ガードが固いあなたが気に入った女の子を楽屋に入れて、デートまでしちゃうなんてね」
ミアがニヤニヤ笑いながらクレアの脇腹を肘で突いて冷かした。
「案外プレイガールだったりしてね」とルーシーも続く。
クレアは恥ずかしそうに首を振った。
「あのあと楽屋に一般人の子を勝手に入れたことと、嘘をついて2人で遊びに行ったことが両親にバレてこっぴどく叱られたわ。いくら彼女に惹かれていたとはいえ、芸能人として軽率なことをしたと反省した」
クレアは苦笑いを浮かべ肩を竦めた。その後も彼女とは良き友人として付き合いが続いているのだと説明したあとで、クレアはルーシーにクッションを渡してお題を告げた。
「あなたがこれまでした悪戯で、1番悪いやつを教えて」
ルーシーは過去に思いを馳せるような遠い目をしたあと、何かを思い出したみたいにふっと微笑んで話し始めた。
30
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
あやかし雑草カフェ社員寮 ~社長、離婚してくださいっ!~
菱沼あゆ
キャラ文芸
令和のはじめ。
めでたいはずの10連休を目前に仕事をクビになった、のどか。
同期と呑んだくれていたのだが、目を覚ますと、そこは見知らぬ会社のロビーで。
酔った弾みで、イケメンだが、ちょっと苦手な取引先の社長、成瀬貴弘とうっかり婚姻届を出してしまっていた。
休み明けまでは正式に受理されないと聞いたのどかは、10連休中になんとか婚姻届を撤回してもらおうと頑張る。
職だけでなく、住む場所も失っていたのどかに、貴弘は住まいを提供してくれるが、そこは草ぼうぼうの庭がある一軒家で。
おまけにイケメンのあやかしまで住んでいた。
庭にあふれる雑草を使い、雑草カフェをやろうと思うのどかだったが――。
姉らぶるっ!!
藍染惣右介兵衛
青春
俺には二人の容姿端麗な姉がいる。
自慢そうに聞こえただろうか?
それは少しばかり誤解だ。
この二人の姉、どちらも重大な欠陥があるのだ……
次女の青山花穂は高校二年で生徒会長。
外見上はすべて完璧に見える花穂姉ちゃん……
「花穂姉ちゃん! 下着でウロウロするのやめろよなっ!」
「んじゃ、裸ならいいってことねっ!」
▼物語概要
【恋愛感情欠落、解離性健忘というトラウマを抱えながら、姉やヒロインに囲まれて成長していく話です】
47万字以上の大長編になります。(2020年11月現在)
【※不健全ラブコメの注意事項】
この作品は通常のラブコメより下品下劣この上なく、ドン引き、ドシモ、変態、マニアック、陰謀と陰毛渦巻くご都合主義のオンパレードです。
それをウリにして、ギャグなどをミックスした作品です。一話(1部分)1800~3000字と短く、四コマ漫画感覚で手軽に読めます。
全編47万字前後となります。読みごたえも初期より増し、ガッツリ読みたい方にもお勧めです。
また、執筆・原作・草案者が男性と女性両方なので、主人公が男にもかかわらず、男性目線からややずれている部分があります。
【元々、小説家になろうで連載していたものを大幅改訂して連載します】
【なろう版から一部、ストーリー展開と主要キャラの名前が変更になりました】
【2017年4月、本幕が完結しました】
序幕・本幕であらかたの謎が解け、メインヒロインが確定します。
【2018年1月、真幕を開始しました】
ここから読み始めると盛大なネタバレになります(汗)
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる