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11. ルーシーのこと
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ルーシーとブルーベルは今頃楽しく話しているだろうか。そんなことを考えながら、廃工場の裏の空き地に停められた車の中でコンビニで買った卵サンドを食べる。まるでぼっち飯だなと心で独りごちる。学生時代は一人の状態に慣れきってしまって、離れたところでぽつんと一人でご飯を食べることを何とも思っていなかったのに、このドラマの撮影が始まってからはスタッフや他の俳優たちとわいわいランチをするのが当たり前になっていたために、この状況が少しばかり寂しい。だがルーシーが今幸せで楽しければそれでいいのだ。そう自分に言い聞かせた。
ルーシーと私が出会ったのは、このドラマの撮影が始まった半年前のことだった。19歳の私よりも2歳年上の彼女は私以上にこの業界のことをよく知っていた。社交的で誰に対しても平等に親切なルーシーはその人柄とエネルギッシュかつ誠実な仕事ぶりもあいまって、俳優やモデル、コメディアンや映画監督や歌手など数多くの知り合いがいた。
ルーシーと仲良くなったきっかけが果たして何だったか、あまりよく思い出せない。気づいたら私たちは一緒にいるようになっていた。ルーシーは私のしょうもないジョークにお腹を抱えて笑ってくれ、私が好きなロックバンドを同じく好きだと言った。彼女も私も犬よりも猫派で、紅茶よりもブラックコーヒーを好んで飲んだ。2人ともやらせのようなリアリティーショーが苦手で、代わりに静かな旅番組や自然番組を好んで観た。
私たちはオフの日によく一緒に出かけた。街で買い物をすることもあったし、小さなカフェやダイナーでコーヒーを飲みながら仕事の話やその他の他愛のない話をし続けることもあった。彼女と恋愛の話をしたことはほとんどなかったが、2人でカフェで昼食をとっていた時にルーシーは一度だけ、どんな人がタイプかと私に尋ねたことがある。私はその時こう答えた。
「私をそっとしておいてくれる人。過度に期待をしないで、そのままで良いっていってくれるような」
ルーシーは他の人のように怪訝な顔をしたりはしなかった。彼女は私の言葉を受け入れるように一度深く頷いた。
「リオにぴったりな人はきっといると思う」
「そうかな? 私はいないと思う」
こんな恋愛に対して淡白でメール不精で返信もそっけない、デートをするくらいなら寝ていたいと答えるような人間を好きだという人など、この先現れるとは到底思えない。
高校に通っていた時何人かの男子に言い寄られて付き合ってみたものの、どの交際も1ヶ月と持たずに終わってしまった。彼らはデートをしたい、抱きしめたい、キスをしたい、家に遊びに来ないかなどと一方的に誘うばかりで、私の感情やペースなんてちっとも考えてはいなかった。そもそも私はそんなに愛情深い人間でもなければ、彼らに自ら進んで愛情を注ごうなどと思うくらいの気持ちに至ることすらできなかった。デートをするくらいなら家で寝ていたい。好きだ愛してると言葉だけの繋がりの関係を作る暇があるならば、トレジャーハンティングに行きたい。その考えは変わることなく、恋愛はつまらないものという認識は時を経るごとに明確になるばかりだった。
私の打ち明け話を静かに聞いていたルーシーは、全てを受け入れるように大きく一度頷いた。
「あなたと付き合う男子はあまりに子ども過ぎたんだわ。これからきっとたくさん出会いがある。その中にあなたが居心地がいいと思える相手がきっといるはずよ」
「そんな人、きっとこの世にはいないわ」
チャップリンのような人がこの世にいたらいいが、彼は唯一無二の存在であって、だからこそ今もなお鮮烈に人々の記憶に残り続けているのだ。
「私がロマンチストなのかしらね。運命の人とか、ソウルメイトとかそういうの信じちゃうのよ」
そう微笑みながら語るルーシーの瞳は静かな輝きを放っている。まるで見果てぬ夢を閉じ込めているような。
「何らかのロマンを持ってると、それだけで幸せな気持ちになったりする?」
右手に持ったスプーンでコーヒーをかき混ぜる私の問いかけに、ルーシーの目がふっと細められる。
「そうかもしれないわ。運命の人に会えたらいいなって思うだけで希望が持てる」
「そっか。ならロマンチストでいるのも悪くないよね」
「そうよ。あなたの海賊船で宝探しってのもロマンよね」
「ロマンってゆうより、それで一括千金が手に入れられたら儲け物じゃない? もう働かなくていいんだし」
「手に入った途端に、目標を失ってつまらない人生になるかもよ?」とルーシーはテーブルに頬杖をつき小首を傾げて私を見つめた。
「今よりつまらない人生なんてないわ」
これまでの人生について思いを巡らせる。いじめや大切な人の死、上手くいかない仕事、その他諸々のことーー。これ以上面白味のない人生になったら、それこそ私は生きた屍のようになるだろう。
「私は楽しいけどな、あなたといられて」
ルーシーのこの言葉にも優しい笑顔にもきっと嘘はない。彼女は私に嘘をつかない。その真っ直ぐさにはいつも救われる。いつかルーシーが抱き続けている夢が叶えばいい。そう心の中で願った。
ルーシーと私が出会ったのは、このドラマの撮影が始まった半年前のことだった。19歳の私よりも2歳年上の彼女は私以上にこの業界のことをよく知っていた。社交的で誰に対しても平等に親切なルーシーはその人柄とエネルギッシュかつ誠実な仕事ぶりもあいまって、俳優やモデル、コメディアンや映画監督や歌手など数多くの知り合いがいた。
ルーシーと仲良くなったきっかけが果たして何だったか、あまりよく思い出せない。気づいたら私たちは一緒にいるようになっていた。ルーシーは私のしょうもないジョークにお腹を抱えて笑ってくれ、私が好きなロックバンドを同じく好きだと言った。彼女も私も犬よりも猫派で、紅茶よりもブラックコーヒーを好んで飲んだ。2人ともやらせのようなリアリティーショーが苦手で、代わりに静かな旅番組や自然番組を好んで観た。
私たちはオフの日によく一緒に出かけた。街で買い物をすることもあったし、小さなカフェやダイナーでコーヒーを飲みながら仕事の話やその他の他愛のない話をし続けることもあった。彼女と恋愛の話をしたことはほとんどなかったが、2人でカフェで昼食をとっていた時にルーシーは一度だけ、どんな人がタイプかと私に尋ねたことがある。私はその時こう答えた。
「私をそっとしておいてくれる人。過度に期待をしないで、そのままで良いっていってくれるような」
ルーシーは他の人のように怪訝な顔をしたりはしなかった。彼女は私の言葉を受け入れるように一度深く頷いた。
「リオにぴったりな人はきっといると思う」
「そうかな? 私はいないと思う」
こんな恋愛に対して淡白でメール不精で返信もそっけない、デートをするくらいなら寝ていたいと答えるような人間を好きだという人など、この先現れるとは到底思えない。
高校に通っていた時何人かの男子に言い寄られて付き合ってみたものの、どの交際も1ヶ月と持たずに終わってしまった。彼らはデートをしたい、抱きしめたい、キスをしたい、家に遊びに来ないかなどと一方的に誘うばかりで、私の感情やペースなんてちっとも考えてはいなかった。そもそも私はそんなに愛情深い人間でもなければ、彼らに自ら進んで愛情を注ごうなどと思うくらいの気持ちに至ることすらできなかった。デートをするくらいなら家で寝ていたい。好きだ愛してると言葉だけの繋がりの関係を作る暇があるならば、トレジャーハンティングに行きたい。その考えは変わることなく、恋愛はつまらないものという認識は時を経るごとに明確になるばかりだった。
私の打ち明け話を静かに聞いていたルーシーは、全てを受け入れるように大きく一度頷いた。
「あなたと付き合う男子はあまりに子ども過ぎたんだわ。これからきっとたくさん出会いがある。その中にあなたが居心地がいいと思える相手がきっといるはずよ」
「そんな人、きっとこの世にはいないわ」
チャップリンのような人がこの世にいたらいいが、彼は唯一無二の存在であって、だからこそ今もなお鮮烈に人々の記憶に残り続けているのだ。
「私がロマンチストなのかしらね。運命の人とか、ソウルメイトとかそういうの信じちゃうのよ」
そう微笑みながら語るルーシーの瞳は静かな輝きを放っている。まるで見果てぬ夢を閉じ込めているような。
「何らかのロマンを持ってると、それだけで幸せな気持ちになったりする?」
右手に持ったスプーンでコーヒーをかき混ぜる私の問いかけに、ルーシーの目がふっと細められる。
「そうかもしれないわ。運命の人に会えたらいいなって思うだけで希望が持てる」
「そっか。ならロマンチストでいるのも悪くないよね」
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「手に入った途端に、目標を失ってつまらない人生になるかもよ?」とルーシーはテーブルに頬杖をつき小首を傾げて私を見つめた。
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