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たらこ飴

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買い物②

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「てかさ、彼氏がマジでムカつくわけ」

 バスを待つ間、ミコトが何の前触れもなく彼氏の話を始めたことに驚いた。第一、ミコトに彼氏がいたことすら知らなかったのだ。

「ミコト、彼氏いるの?」

「ああうん。言ってなかったっけ?」

「聞いてない」

「同じ高校のクラスメイトなんだけどさ...。付き合って三ヶ月くらいかな? 趣味は合わないしやることばっか考えてるし、うんざりなんだよね」

「どうしてその人と付き合おうと思ったの?」

「...顔が面白いから」

「なにそれ」

 間も無く市街地行きのバスが到着する。ミコトの後に続いて乗り込み、一番後ろの向かって右側の席に並んで座る。窓際に座った私は、豊永さんの家のおばあさんにリードを引かれたオスのフレンチブルドッグを眺めていた。

「別に好きじゃないんだよね、そいつのこと」

 ミコトがつぶやいた。

「別れないの?」

「別れたいって言ったら、嫌だって泣くんだもん」

「それは...困ったね」

 一瞬、男なのに?という言葉を飲み込んだ。男だから、女だからという考え方は良くないのは知っている。もしも全く知らない人に「女なんだから、もっとお淑やかにしなさい」なんて言われたら頭に来るに違いない。けれど、私自身も無意識に先入観でモノを考えている。男性だって泣く。女性だって同じだ。その人が泣くのはミコトのことがそれだけ好きで、放したくないからなのだ。性別は問題ではない。

「マジでうざいんだよね。私のことを好きなのは分かるんだけど、私のペースに合わせてくれないし、自分の気持ちばっかでさ...。もうさっさと別れたいのに」

「離れたいのに離れられないってのも、辛いよね」

「もうメールも返してないんだけどさ、あっちがしつこいわけ。あーめんどくさ」

 私だったらどうだろう。もし相手に泣かれたら、別れられないかもしれない。たとえ気持ちが完全に冷めていたとしても、涙を見てしまったら言おうと準備していたことも言えなくなってしまう気がする。

「話し合うことはできないの? 相手が納得する理由を伝えてあげればいいんじゃない?」

「あなたが好きだからって?」

ーーーーえ?

 ミコト、今なんて言った?

 聞き間違いじゃないよね?

 今確かに彼女はーー。

「ミコト...」

「冗談だよ」

 とミコトは悪戯っぽく笑う。「なんだ、びっくりした」と胸を撫で下ろす。間も無くバスが市街地に着いて、私たちは席を立った。
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