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第7章 晏寿の奮闘編
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武官達の昼食も済み、調理場に二人が戻ると昂全が何かを炒めているところだった。
「昂全君、何作ってるの?」
「昼飯っす。何も食べてないだろうから」
手元をのぞき込むと香ばしい匂いが食欲をそそる。
「炒飯!いいの?食べて」
「そのために作ったんで。どうぞ」
「わーい」
湯気が立ち上る炒飯を晏寿はいそいそと口に運ぶ。
卵と余り物の叉焼でできたものだったが、空腹の晏寿にはとても美味しく感じた。
ふと気づくと、鈴は席に着かず隅に立っている。
晏寿は鈴に話しかけた。
「鈴ちゃん、せっかく昂全君が作ってくれたから食べようよ」
「…私のような身分の者が貴族の方と一緒に食事はできません」
「今はそんなこと関係ないよ。私がいるのが異端なんだから。それに皆で食べたほうが美味しいし。ね、昂全君」
昂全に話しを振るも、昂全もどことなく居心地が悪そうにしている。
「え、もしかして昂全君も鈴ちゃんと同じ考えなの?だから自分の分の御飯用意してないの?」
「…っす」
「越さんは!?」
昂全の短い返事を肯定ととり、慌てて下働きで仲良くなった越を呼ぶ。
越も困った表情で晏寿を見ていた。
「文官ちゃん、ここは身分の低いもんが集まってんだ。だから貴族の人とは一緒に飯を食ってはならないって小さい時から叩き込まれてる」
「そんな…せっかく作ってくれたものを皆と一緒に食べられなければ、美味しいものも美味しく感じないよ。
私だけでしょ?身分の括りがあるの。私なら気にしないから皆で食べよう?」
「でも…」
「お咎めなら我儘言ったってことで私が受けるから、ね?」
粘る晏寿に下働き達は困り果てていた。
そんな中、皿を持ち晏寿の横に昂全がどかっと座る。
晏寿は驚いて隣の昂全を見上げる。
すると小さな声でぼそぼそと言った。
「…皆で食いたいって言ったのはあんただ」
「!…うん!」
昂全の行動をきっかけに全員が折れ、晏寿を中心として炒飯を食べたのだった。
「晏寿ー迎えに来たぞー」
昼食を食べ終わり、片付けをしているところに景雲がやってきた。
「昂全、今日はどうだったか?」
「…飯作りました」
「うん、そのためにお前はここに来たんだからな」
景雲が昂全に感想を聞いたもののまともな返答は無く、景雲も仕方ないとばかりに苦笑した。
「景雲ありがとう。今終わったから」
「それじゃあ戻るか。昂全後は頑張れ」
「うす」
景雲と晏寿が帰っていく後ろ姿を昂全が流れでそのまま見ていたら、背後で鈴が呟いた。
「結局男からちやほやされてるだけじゃない」
鈴の小さな声は昂全の耳にも届いていたが、鈴をちらりと見るだけに留まった。
そして、何事も無かったように作業に戻るのだった。
「昂全君、何作ってるの?」
「昼飯っす。何も食べてないだろうから」
手元をのぞき込むと香ばしい匂いが食欲をそそる。
「炒飯!いいの?食べて」
「そのために作ったんで。どうぞ」
「わーい」
湯気が立ち上る炒飯を晏寿はいそいそと口に運ぶ。
卵と余り物の叉焼でできたものだったが、空腹の晏寿にはとても美味しく感じた。
ふと気づくと、鈴は席に着かず隅に立っている。
晏寿は鈴に話しかけた。
「鈴ちゃん、せっかく昂全君が作ってくれたから食べようよ」
「…私のような身分の者が貴族の方と一緒に食事はできません」
「今はそんなこと関係ないよ。私がいるのが異端なんだから。それに皆で食べたほうが美味しいし。ね、昂全君」
昂全に話しを振るも、昂全もどことなく居心地が悪そうにしている。
「え、もしかして昂全君も鈴ちゃんと同じ考えなの?だから自分の分の御飯用意してないの?」
「…っす」
「越さんは!?」
昂全の短い返事を肯定ととり、慌てて下働きで仲良くなった越を呼ぶ。
越も困った表情で晏寿を見ていた。
「文官ちゃん、ここは身分の低いもんが集まってんだ。だから貴族の人とは一緒に飯を食ってはならないって小さい時から叩き込まれてる」
「そんな…せっかく作ってくれたものを皆と一緒に食べられなければ、美味しいものも美味しく感じないよ。
私だけでしょ?身分の括りがあるの。私なら気にしないから皆で食べよう?」
「でも…」
「お咎めなら我儘言ったってことで私が受けるから、ね?」
粘る晏寿に下働き達は困り果てていた。
そんな中、皿を持ち晏寿の横に昂全がどかっと座る。
晏寿は驚いて隣の昂全を見上げる。
すると小さな声でぼそぼそと言った。
「…皆で食いたいって言ったのはあんただ」
「!…うん!」
昂全の行動をきっかけに全員が折れ、晏寿を中心として炒飯を食べたのだった。
「晏寿ー迎えに来たぞー」
昼食を食べ終わり、片付けをしているところに景雲がやってきた。
「昂全、今日はどうだったか?」
「…飯作りました」
「うん、そのためにお前はここに来たんだからな」
景雲が昂全に感想を聞いたもののまともな返答は無く、景雲も仕方ないとばかりに苦笑した。
「景雲ありがとう。今終わったから」
「それじゃあ戻るか。昂全後は頑張れ」
「うす」
景雲と晏寿が帰っていく後ろ姿を昂全が流れでそのまま見ていたら、背後で鈴が呟いた。
「結局男からちやほやされてるだけじゃない」
鈴の小さな声は昂全の耳にも届いていたが、鈴をちらりと見るだけに留まった。
そして、何事も無かったように作業に戻るのだった。
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