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第5章 自宅謹慎編

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「か、母様?
どうして私と大臣が…」
「あら、申し分ないじゃない。儀円君なら私も安心できるわ。晏寿もお年頃でしょう?そろそろ縁談話を進めなきゃって思ってたのよ。それとも他に思い当たる殿方がいるの?」
「いや、いないけど。それに私は今仕事が忙しいから、嫁ぐわけにはいかないよ」
「そうなの?せっかくこんなに縁談の話が来てるのに」

と、瑚蘭が見せたのは文の束。
おそらく縁談についての文であろうと、晏寿は顔を引きつらせた。
もともと名門である柳家。
更に糸家の影もなくなった今、「晏寿を嫁に」という話は絶えなかった。

「と、とにかく私にはまだいいよ!」

晏寿は無理やり会話を終了させた。
瑚蘭は不服そうであったが、文の束を置いたのだった。



晏寿の兄、怜峯は王宮で儀円の仕事を手伝っていた。怜峯は入って日は浅いものの、知識と経験を活かして仕事をこなしていたのだった。

「これはてい大臣のところか?」
「ああ。あとで杜補佐に細かい詳細は聞いてくれ」
「わかった」

最初は新参者に眉をひそめていた者も多かったが、人一倍働く怜峯を見ていて何も言えなくなった。
怜峯はほとんど寝ずに働くこともある。
それでもけろりとしているので、ある時一人の者が怜峯に尋ねた。

「寝ないで働いてよく体がもつな」

それに対して怜峯はあっさりと答えた。

「糸家の重圧よりは軽いものだ。父が亡くなった時はもっとひどかったし。三日くらい徹夜は平気だよ」

晏寿といい怜峯といい、柳兄妹は働き者として認知されるようになった。
そして立場を確立していったのだった。

「儀円。晏寿を謹慎処分にしたのは俺達の母を独りにさせないためか?」

仕事の合間に怜峯が尋ねた。
儀円は面倒くさそうな表情を浮かべ、怜峯を睨んだ。

「自惚れるな。あいつは極秘任務と言われてた仕事を当人に話してるんだ。処罰せねばならんだろうが」
「しかし、時期がよすぎるなと思って。なんだかんだ俺の母と妹には甘いよな」
「ぬかせ」

にやにやしながら怜峯は儀円に詰め寄る。
儀円は短くため息をついた。

「だが、晏寿は嫁にやらんからな」
「何も言ってないだろう。しかもどうしてお前と義理の兄弟にならないといけないんだ」
「俺だって嫌だ。晏寿をとられるのはもっと嫌だ」

仲が良いのか、悪いのか。
こういった言い合いも名物になりつつあった。

「大臣、こちらに署名をお願いします」

入ってきたのは秀英。
秀英と景雲は現在、新たな仕事が儀円の印鑑一つで終わろうとしていた。
今回割り振られた仕事は前回の仕事よりも幾分か簡単な仕事であった。

「そこに置いとけ。で、お前らはこれから二週間休みだ」
「はぁ…」

唐突な儀円の申し出にすぐには反応できなかった秀英だった。
しかし、ここのところ休んでないことに気付き、丁度よかったと思いなおした。
秀英は儀円の部屋を退出し、景雲に伝えに行った。

「じゃあ俺も鄭大臣の所に行ってくる」
「ああ」

そう言って怜峯も部屋を出ていき、儀円は一人になる。
そしてぽつりと呟いた。

「餓鬼のときは結構本気で嫁に欲しかったがな…」
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