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第4章 後宮潜入編

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晏寿の兄・怜峯は儀円に呼ばれ、杜補佐と廊下を歩いていた。
そして儀円がいる部屋まで着くと、杜補佐が「失礼しいます」と声をかけて中に入った。
儀円は首だけを二人に向け、気だるそうに口を開く。

「杜補佐、御苦労。よく来たな、怜峯」
「妹が世話になっております、李大臣」
「止せよ、気持ちが悪い」
「…相変わらずだな、儀円」

その二人のやり取りを驚きながら杜補佐は見ていたが、一礼だけして杜補佐は出ていった。
杜補佐が出ていくと、更に二人は気軽な口調になる。

「それで何用だ、わざわざ呼び出して」
「いきなり本題か?たまに会ったんだから、軽い雑談でもしていけばいいのに。まぁそこ座れよ」
「俺よりも忙しい身分でよく言う」
「優秀な部下が多いもんでな」

怜峯が腰を下ろした向かいに儀円が座る。
その瞬間儀円の目の色が変わった。怜峯はそれを見逃さず、儀円の発言を待った。

「怜峯、」

二人の話し合いは長くかかった――


京雅の前には先日訪れた藤瑞と、その主である糸 稜現が座っていた。
頬杖をつき、二人を眺める。

「お目通りでき光栄です、殿下。糸 稜現にごさいます」
「ああ」

簡単に流す京雅。
それを気にすることなく、稜現は話しだす。

「私めの話を聞いて下さる殿下にまず最大の敬意を払い、そして」
「御託はいい。本題は?」

決まり文句のような挨拶を面倒がり、京雅は打ち消す。それに稜現は目を見開いたものの、伊達に年はとっていない。動じることなく話した。

「殿下の側室に我が娘をと」
「そう言った話は断っている」
「しかし殿下は現在正室のみと聞き及んでおります。今後のことを考えれば側室がいても問題はないのでは」
「僕は今の妃だけを愛している。だから側室は不要だ」
「…その皇太子妃殿下の秘密を私が知っていたとしても?」

京雅が黙る。
それを好機と取った稜現はここぞとばかりに畳みかけてきた。

「皇太子妃殿下は殿下に嘘をついております。
あの女は元は落ちぶれた良家の娘。殿下に出生を偽って後宮入りしたのでございます。名も本名は、」

「柳 晏寿」

「!」

京雅の口から晏寿の名前が出てきたことで、言葉を失った稜現。傍に控えていた藤瑞も驚いていた。
京雅は冷たい目のままで淡々と語り出す。

「柳 晏寿。柳家の娘で上に兄が一人。父親を亡くしたあとはその兄が家を継いでいる。
他にも彼女の家が落ちぶれた理由も母親が今どうしているかも聞いてるけど、聞きたいか?」

稜現は息を飲む。
嫌な汗も流れ始めた。
京雅は関係なしに続けた。

「僕のお嫁さんは僕が聞いたら教えてくれたよ」
「し、しかし!」
「まだ何か言うか?これ以上口を開けば自分の首を絞めていくだけだけど」

稜現の言葉は一切受け付けないという雰囲気が流れていた。

「脅しは効かないからね。
この者らを私を脅迫しようとした罪と我が妃を愚弄した罪で捕らえよ!」

京雅の凛とした声が響き、すぐに護衛の者達が部屋に入ってきて稜現らを捕まえた。
二人は抵抗したが、力では及ばなかった。

捨て台詞のように稜現が叫ぶ。

「貴様…!小娘の話ばかりを信じおって、妃の言いなりの愚王にでもなるつもりか!」
「老い先短い老人の言うことより、可愛いお嫁さんの方を信じるなんて当たり前でしょ。それに僕は愚王になってもいいけど、そんなことしたら安から嫌われるから絶対しない。その前に彼女は僕がそうなる前に止めてくれるだろうけど」
「ぐぅっ…!」

稜現達は抑えつけられて部屋を強制的に退出させられたのだった。
静かになった部屋で京雅はため息をつく。

「疲れた…安に癒されに行こうかな…」
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