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第4章 後宮潜入編
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所変わって秀英・景雲に宛がわれた仕事場。
二人で狭い部屋に閉じこもっていた。
現在は書面での仕事が多いが、来週には現場視察が控えていた。
書類整理をしながら、景雲は最近耳にした話がずっと気になっていた。
「なぁ、秀英」
「何だ」
「この国の殿下が妃をとったことは知ってるか?」
「京雅殿下が妃をとったことはここ最近では有名な話だろう。どこの出身なのか、また名前すら一部にしか公開されていないが」
「その妃の名前を俺はとある所から聞くことができたんだが、これが少し引っかかってな」
「なんだ、知り合いだったのか?」
秀英はこのやり取りの間、ずっと筆を動かしていて景雲のほうは見ていない。
景雲はというと、仕事に飽きがきていて、先程から椅子をガタガタと揺らしていた。
「知り合いなのかどうか判断がつかんのだ」
「言っている意味がわからないな」
「…その妃の名は『授 安里』と言うらしい」
「授家とは聞いたことがない」
「俺が言いたいのはそこじゃない。この名前を聞いて何も思わないのか?」
「…?」
ここで秀英の筆が止まった。訝しげに景雲を見やる。
景雲は天井を見上げながら、ポツリと漏らした。
「『授 安里』と『柳 晏寿』、どこか響きが似てないか?」
秀英の息をのむ音が響き、筆からぽたりと墨が落ちた。
「…まさか」
信じられない、という口調で秀英が呟くも景雲は全くふざけているようではなかったので内心で焦りが生じる。墨が落ちてしまった紙をくしゃりと握りつぶす。
「いろいろ辻褄が合うんだよ。
晏寿は『住み込みで貴族の御子息の教育係』と言ったが具体的な名前は出していない。
もし、これがそこそこ有名貴族ならば俺や秀英も知っているはずだから、守秘義務と言われてなければ晏寿は名前を言ったはず。
でもこの貴族の子息が殿下であれば、易々と名前は言えないし口止めされている可能性もある。そして晏寿も偽名を使っているとすれば大体筋は通る」
「それでは晏寿が皇太子妃になってしまう!」
「いやいや仕事だからそれはないだろう。
公表してないわけだから、いずれはその座から外れるのだろうよ」
声を荒げた秀英を抑えるように景雲は言う。
しかし秀英は納得していないようだった。
珍しく感情を表に出す秀英を見て苦笑しながら一つの提案をしてみる。
「確認ではないが晏寿に文を書いてみないか?」
「万一晏寿が皇太子妃の授 安里と同一人物であればそうそう文も届かないのではないか」
「簡単な近況報告という理由で大臣に頼めばいい。仕事を回してるのは結局大臣なわけだから、晏寿の居場所も知っているはずだ」
「成程…」
冷静さを取り戻してきたようで、秀英は景雲の提案を真剣に考え始めた。
こういった頭脳戦は秀英の担当である。
それをわかっていた上で景雲は秀英に言ったのだった。
「さて、うまく行けばいいが…」
そう呟いた景雲の声は秀英の耳には届かなかった。
翌日。
秀英は文を簡単な内容で書いてきた。
秀英曰く、
「最初は検閲側も警戒するから勘繰られないくらいほうがいい。徐々に核心に触れる内容にすべき」
ということだった。
景雲もこれには異論はなく、その文を早速儀円のもとへと持って行った。
「李大臣、頼みがあるのですが」
「なんだ」
「この文を晏寿に届けてもらいたいのです」
儀円は訝しげにその文を見、秀英と景雲の顔を見た。
「何を考えている」
「特には。ただ、初めて晏寿と仕事で離れたものですから」
「…わかった」
渋々、という感じでその文を受けとる。
秀英と景雲はそこで礼を言って自分達の仕事へと戻った。
「…杜補佐」
「はい、なんですか?」
「この文に怪しい所がないか確認してくれ」
「わかりました」
文を杜補佐に渡して、だらだらと儀円は自席に着いた。
二人で狭い部屋に閉じこもっていた。
現在は書面での仕事が多いが、来週には現場視察が控えていた。
書類整理をしながら、景雲は最近耳にした話がずっと気になっていた。
「なぁ、秀英」
「何だ」
「この国の殿下が妃をとったことは知ってるか?」
「京雅殿下が妃をとったことはここ最近では有名な話だろう。どこの出身なのか、また名前すら一部にしか公開されていないが」
「その妃の名前を俺はとある所から聞くことができたんだが、これが少し引っかかってな」
「なんだ、知り合いだったのか?」
秀英はこのやり取りの間、ずっと筆を動かしていて景雲のほうは見ていない。
景雲はというと、仕事に飽きがきていて、先程から椅子をガタガタと揺らしていた。
「知り合いなのかどうか判断がつかんのだ」
「言っている意味がわからないな」
「…その妃の名は『授 安里』と言うらしい」
「授家とは聞いたことがない」
「俺が言いたいのはそこじゃない。この名前を聞いて何も思わないのか?」
「…?」
ここで秀英の筆が止まった。訝しげに景雲を見やる。
景雲は天井を見上げながら、ポツリと漏らした。
「『授 安里』と『柳 晏寿』、どこか響きが似てないか?」
秀英の息をのむ音が響き、筆からぽたりと墨が落ちた。
「…まさか」
信じられない、という口調で秀英が呟くも景雲は全くふざけているようではなかったので内心で焦りが生じる。墨が落ちてしまった紙をくしゃりと握りつぶす。
「いろいろ辻褄が合うんだよ。
晏寿は『住み込みで貴族の御子息の教育係』と言ったが具体的な名前は出していない。
もし、これがそこそこ有名貴族ならば俺や秀英も知っているはずだから、守秘義務と言われてなければ晏寿は名前を言ったはず。
でもこの貴族の子息が殿下であれば、易々と名前は言えないし口止めされている可能性もある。そして晏寿も偽名を使っているとすれば大体筋は通る」
「それでは晏寿が皇太子妃になってしまう!」
「いやいや仕事だからそれはないだろう。
公表してないわけだから、いずれはその座から外れるのだろうよ」
声を荒げた秀英を抑えるように景雲は言う。
しかし秀英は納得していないようだった。
珍しく感情を表に出す秀英を見て苦笑しながら一つの提案をしてみる。
「確認ではないが晏寿に文を書いてみないか?」
「万一晏寿が皇太子妃の授 安里と同一人物であればそうそう文も届かないのではないか」
「簡単な近況報告という理由で大臣に頼めばいい。仕事を回してるのは結局大臣なわけだから、晏寿の居場所も知っているはずだ」
「成程…」
冷静さを取り戻してきたようで、秀英は景雲の提案を真剣に考え始めた。
こういった頭脳戦は秀英の担当である。
それをわかっていた上で景雲は秀英に言ったのだった。
「さて、うまく行けばいいが…」
そう呟いた景雲の声は秀英の耳には届かなかった。
翌日。
秀英は文を簡単な内容で書いてきた。
秀英曰く、
「最初は検閲側も警戒するから勘繰られないくらいほうがいい。徐々に核心に触れる内容にすべき」
ということだった。
景雲もこれには異論はなく、その文を早速儀円のもとへと持って行った。
「李大臣、頼みがあるのですが」
「なんだ」
「この文を晏寿に届けてもらいたいのです」
儀円は訝しげにその文を見、秀英と景雲の顔を見た。
「何を考えている」
「特には。ただ、初めて晏寿と仕事で離れたものですから」
「…わかった」
渋々、という感じでその文を受けとる。
秀英と景雲はそこで礼を言って自分達の仕事へと戻った。
「…杜補佐」
「はい、なんですか?」
「この文に怪しい所がないか確認してくれ」
「わかりました」
文を杜補佐に渡して、だらだらと儀円は自席に着いた。
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