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捨てられ令嬢、騎士団に入る

アティ、家をもらう

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「女性を隊の宿舎には入れられないし、工房もあるし、一人暮らしするならあれぐらいの大きさが良いと思ったんだがなぁ」

 エドワードは分からないと首を横に振る。

「あそこはアティさんが住むには、ちょっとそぐわないんじゃないか。定期的にメンテナンスはしてるが、内装と外観の両方とも少し不安が残るな」
「そりぁなぁ、お前からしてみたら古い建物は全部メンテナンス不足だよ」

 エドワードさんがため息をつく。
 そのあとのフスフスと空気の抜けるような音に、アティは辺りを見回した。アティとセドリック、ハロルドとエドワード以外の全員が笑いを噛(か)み殺していた。

「みなさん、なぜ笑っているのですか?」

 セドリックはようやく食べる手をとめ、尋ねる。それに、ジョッキを持っているバートが答えた。

「ハロルドさんはとにかく運がないんだ。幸運のステータスがE-だから、本当に運がない」

 それに続き、ウィルが答える。

「古い建物とは特に相性が最悪だな。床を踏み抜いたり穴を作ったりで、検挙のときにハロルドさんが後方待機してる理由がそれだ」

 アティはハロルドたちと出会ったのが、昨日のことだと思い出して驚愕した。
 夏休みに入ってから毎日が24時間じゃないみたいと思っていたけど、今日はとっても長く感じたわ。でも、とても満ち足りた気分。

「姫様、どうされましたか?」

 セドリックの声で我に帰ったアティは、そうね、と微笑んだ。

「私、自分の家がほしいです。そこがどんなところだろうと構いません」

 安全な場所、自分を絶対に待ってくれる場所、騎士たちと出会い安らいでいるアティは、それがほしかった。

「本当にあそこに住むんすか? でも、あそこ出るって有名っすよね?」

 イザークはステーキを食べながら、ポツリと言った。

「あー、オレも聞いたことあるよ。夜になると、後ろの泉からコソコソ声がするって話だよね?」
「それっす。定期検査以外じゃ、みんな近づかないっすよね」
「ふん、くだらないな」
「ウィル先輩は聞いたことがないから言えるんすよ! おれは声聞いたことがあるんす!」

「あそこは精霊の泉だからな。宴会で気分が良くなって、姿を隠すことを忘れている……そんな精霊たちがあそこで毎日遊んでいるんだ」

 エールを飲んでいるバートがあっけらかんと話に入った。
 全員がびっくりしたように彼を見るが、彼は全く気にしていない。

「良い精霊ばかりだし、セドリックもいるし、確かにアティが住むならあそこがいいかもしれないな……もしかしてエドワードさんはこれを見通して……! さすがです!」
「そうだったんですか? すごいです、エドワードさん!」
「ならば、引っ越しのご挨拶をしなければなりませんね。どんな手土産が良いでしょうか」

 そんなバートとアティ、セドリックに、エドワードはしめたと笑う。

「そういうことだ、ハロルド。アティくんには、あの家に住んでもらおう」

 ハロルドは大きなため息をついたあと、負けたと両手をあげた。

「分かった。ただし、家の案内は私にやらせてくれ」
「……大丈夫か?」
「大丈夫に決まってるだろ」

 顔をしかめるエドワードに、ハロルドは胸を張って答える。そんな彼に、大丈夫じゃないだろう、とは誰も言えなかった。
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