雨に天国、晴に地獄

結月彩夜

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第七話

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わたしは、父と母のことをほとんど覚えていない。
どこか、記憶にもやがかかっているようで、はっきりとしていないのだ。
たぶん自己防衛機能の一種だろうとのことだった。
思い出せない。でも、大好きで大切だった。それだけは鮮明なのだ。
何があったのかわたしは覚えていない。
ただ、わたしを抱きしめた叔父と視界いっぱいに、鮮烈で鮮やかなを覚えているだけだった。
ふと、そんな回想をしたのは目の前の現状の現実逃避のためだったのだろうか。
わたしは遠い目で空を仰いだ。
「空が青いなあ………」


ことは暫くさかのぼる。

「わたしは雨宮司織あめみやしおりと申します」
すいとわたしは彼──しょうきの目を見た。
初めて見た時から変わっていない美しいカラスの濡れ羽色の目。
吸い込まれそうなその瞳をどこか深淵を覗くような気持ちで私は見た。
その瞳は美しいのに、底なしの闇のようでどこか怖かった。
「?どうかいたしましたか?」
「いえっ!えーと、しょうきさんは漢字でどう書くんですか」
「説明が難しいですね」
しょうきさんはそう言うと着物の袖からメモ用紙とボールペンと取り出した。
何となく、普通のメモ用紙とボールペンなのが意外だった。
……というか、なぜ袖から……?

さらりとメモ用紙にボールペンで書いて見せてくれた。
「こう書きます」
メモ用紙には、”昌祁”と書いてあった。
確かに説明が難しそう……
「改めて昌祁しょうきさん、これからどうぞよろしくお願いします!」
「こちらこそよろしくお願いいたします。お嬢様。……いえ、しおり様」
様づけかーっ!
「しおり様のお名前はどうお書きになるのですか?」
「えーと。“司る”に“織物の織”で司織です」
「なるほど。“織を司る“ですか。素敵なお名前ですね。由来などはあるのですか」
名前をほめてもらうのは素直にうれしい。
確かに私の名前はよくあるような“詩織”でも“志織”でもない。
だから、気になったのだと思う。
というか、今更だけどお父さんは古くから付き合いがあるひと……?に娘の名前も言っていなかったのか……。
「父からは何か聞いていないのですか?」
昌祁しょうきさんはなんというか、ものすごく微妙な表情を浮かべた。
「……蒼司は何と言いますか説明下手というか、人の話を聞かないというか……まあ、その、はい。急にきてのろけ話だけ一方的にして帰ってしまっていまして……。奥様とお嬢様__司織様のお話は聞いているのですがどうにも無意識なのか、名前を言っていなかったのですよ」
なるほど……
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