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第一章 師匠'sとの出会い〜スケルトン軍団を昇天させます〜

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 テントを設置している場所から大木まで進む間、僕はいつもとは違う何かピリピリした雰囲気を感じていた。
 
 いつもなら戦争の準備で、少し離れたところで陣形を整えているスケルトンさんたちが大木の周囲に集まっていて、僕たちが歩く道だけがまっすぐに空けられていたんだ。
 
 僕たちは無言で大木の根元まで進む。アレックスさんとヴィンセントさんが僕らを待っていた。僕らが歩みを止めると、アレックスさんがこちらに近付いてくる。
 
『ユータ、トール、ヒロ、よく来た』
 
 アレックスさんは両手を広げて僕たちを抱擁した。骨だし、ぼろぼろの黒ローブのはずなのに、なぜか僕はとても温かい気持ちになる。少しの間、されるがままになっていると、やがてアレックスさんは抱擁を解いた。
 
『ユータ、ヒロ、トール、明日、旅に出なさい』
 
『卒業なのである!』
 
 アレックスさんは優しい口調で僕たちに告げ、ヴィンセントさんが左手に持った頭で鼻をすする音を立てながら声を張った。
 
 ……鼻水出るの?
 
『今日、ここに来てもらったのはね。どうしても見せたいものがあるんだよ』
 
「見せたいもの?」
 
『そう。坊やたちは強くなった。だから、教えておかないといけない』
 
「何をですか?」
 
『精霊の怖さを』
 
 アレックスさんの真剣な口調に、僕たちはただただ黙っていることしかできなかった。
 
『精霊は坊やたちが思っているよりも、ずっと怖い存在だよ。今からその一端を見せてあげよう』
 
『そして、人間がどのように立ち向かってきたのか、その真髄を見せるのである!』
 
 そう言うと、アレックスさんは両手を天に向かって拡げ、魔力を空へと放ち始めた。魔力が雲にまで達し、黄色いキラキラが喜んだ様子でたくさん集まってくる。その様子に見惚れていると、徹が顔を青くしながら耳打ちしてきた。
 
「優太、大空。これはやばい」
 
「「何が?」」
 
「普通の精霊を呼び寄せるだけに使う魔力の量じゃない」
 
『かっかっか! 今から見せるのは戦略級広域魔術である!』
 
 慄いている徹と違い、ヴィンセントさんは大きな声で笑っており、その目はゴロゴロと鳴り始めた分厚い雲を見つめていた。
 
「はあ!?」
 
「えーと、徹?」
 
 開いた口が塞がらないを体現している徹に尋ねると、徹は捲し立てる。
 
「戦略級広域魔術ってのは、町一つが吹っ飛ぶくらい広い範囲の超強力な魔術ってことだよ!」
 
 町一つ!?
 
『この気配を感じたときに出来ることは2つ。一つは逃げる。どこまでも遠くに。もう一つは──こうだ!』
 
 ヴィンセントさんは説明をしながら背負った大剣を構え、アレックスさんの左胸を後ろから突き刺した。
 
 何やってんの?!
 
『心配するでない。ただの刺突なぞ、こやつには効かん』
 
 ヴィンセントさんの言葉通り、アレックスさんはヴィンセントさんを一瞥しただけであり、空へと魔力を放出し続けていた。
 
 いやいや、びっくりするから!!
 
『そしてその役割をするのはヒロ、お主じゃ。逃げられない場合、お主が止めるしかない』
 
「ああ! 任せとけ!」
 
 大空は右手でどんっと胸を叩いて胸を張るが、僕は恐るおそる疑問を口にする。
 
「大空が間に合わなかったら?」
 
『死ぬだけじゃ──と言いたいところだが、少し違う。人は魔法を研究し、精霊に頼らない魔術を創り上げた』
 
 ヴィンセントさんは徹に視線を向けると、徹が答える。
 
「無属性魔術」
 
『そう。又の名を理術と呼び、人は自らの魔力で結界を作る技術を確立した』
 
「しかし、理術結界で戦略級の魔術を防げるとは──」
 
「──確かにそうだ。一人ならな。準備はよいか!」
 
 ヴィンセントさんは徹の言葉を途中で遮り、右手を上げて叫んだ。周囲に布陣していたスケルトンさんたちは気勢を上げ、骨と骨がぶつかり合う音が響く。
 
『【対戦略級魔術多重結界陣クァランプル】!!!』
 
 ヴィンセントさんの号令とともに、スケルトンさんたちは一斉に動き出し、真上に魔力の結界を作りだしていく。それは幾重にも幾重にも重なり、質量をもつ分厚い透明の壁のようなものが虹色に輝いていた。
 
 僕たちが虹色の波が不規則に流れている光景に見惚れていると、ヴィンセントさんが怒鳴り声を上げる。
 
『こらあ! バランスがおかしいぞ!』
 
 カタカタカタッ(第三八魔分隊長がいません!)
 
『三八……? あの耄碌ジジイめ、どこにいった!』
 
 ん? なんだか慌ただしいけど、誰かいなくなったのかな?
 
カタカタッ、カタカタカタッ(うちの隊長なら、ちょっと前にそいつが逝かせたっす!)
 
 あれ? そう言えば、やたら魔力を吸った、ローブを着た魔法使いっぽい半透明のおじさんがいたような……。
 
『ユータ?』
 
 ヴィンセントさんが左手を僕の目の前に差し出して僕の名前を呼んだ。
 
つまりは、ヴィンセントさんの頭が僕の直ぐ目の前に来る訳で……めちゃくちゃ怖い。
 
「……はい。僕がやりました」
 
『むむむ……。よし! トール!』
 
 僕はあっさりと白状した。少しの間、ヴィンセントさんは腕を組んで考え込み、徹を手招きして呼び寄せた。
 
「何ですか?」
 
『お主が代わりをやるのである!』
 
「はあ?! できる訳ないでしょ!」
 
『かっかっか、大丈夫じゃ! 周りのものに、呼吸を合わせよ! 息しとらんがな!』
 
 カタッ、カタカタカタッ(頼んます! ちゃんとバランス取って共鳴させないと消し炭になるっす!)
 
 四人のスケルトンさんが、まだ了承していない徹の両手足を持つ。徹は、抵抗虚しく、スケルトンさんたちにひょいっと担がれる。
 
「ゆうたあああああ、ひろおおおおおお!」
 
「いけるいける!」
 
「頑張って!」
 
「薄情者おおおおおおお!!」
 
 大空と僕が笑顔で見送ると、徹は叫びながらスケルトン軍団の中に消えて行った。
 
 降ろされた徹は、やけっぱちで魔力の壁を作りだした。そして、その壁の大きさが抜けていた穴とぴったりの大きさになったとき、不規則に輝いていた壁がひと際強い輝きを放った。
 
 眩さに眩んでいた僕が目を開けると、不規則だった虹色の波が規則的なリズムで中心から外周へと広がっていく、美しい光の壁が目に映った。

 ヴィンセントさんがアレックスさんに向けてこくりと頷くと、アレックスさんもまた首肯し、厳かな声色で魔言を述べ始める。
 
『天に御座す大雷霊に畏み申す』
 
 これって……祝詞?
 
『御霊の瞋恚シンイは避けること能わず、須臾シュユの間に黒跡が残るのみ』
 
「師匠おおおおおお!?」
 
 どこかで徹の叫び声が聞こえたけど……大丈夫だよね?
 
『幾条もの雷閃が煌めき、雷鳴は碧落ヘキラクに轟く』
 
「なんか、ビリビリしてきたな!」
 
 大空の言葉の通り、厚い雲では稲妻が何本も光を放っていて、僕の目にはひと際大きな黄金色の何かが近付いて来ているのが見えていた。
 
『顕現し給へ、雷神ナルカミ
 
 アレックスさんが魔術名を告げたその瞬間──
 
 
 
──世界は白で埋め尽くされた。
 
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