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シンデレラ
2.物語の始まり・・・話
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シンデレラ。
物語としてはいくつかパターン(異聞)があるが、その一つで一番有名なのが絵本版だろう。
その昔、一人の少女が継母とその連れ子にいじめられ、酷い暮らしをしていた。
ある日、お城で舞踏会が行われることになった。
継母たちはシンデレラを置いてそこに出かけてしまう。
しかし、悲しみに暮れていたシンデレラの前に妖精(魔法使い)が現れ、魔法でドレスと馬車を用意してくれた。
ただし、その魔法は真夜中の零時に解けてしまうため、それまでには帰らないといけない。
王子と踊るも、零時の時を告げる鐘が鳴り響く中、シンデレラは急いで帰ってしまった。
その時、ガラスの靴を一足落としてしまう。
シンデレラに一目惚れした王子は、ガラスの靴の持ち主を探して、人々に靴を履かせた。
そして、靴にピッタリ合うシンデレラを見つけ、二人は結婚した。
めでたし、めでたし。
…という誰もが知っているストーリーだ。
だが、原作となった元々のグリム童話はもっと残酷で、ガラスの靴も話には出てこない。
他にも多くの異聞があるが、これが正解というものはない。
しかし、シンデレラの世界か…
誰に転生するのかな?
やはり主人公のシンデレラ自身か? それとも、一般市民か? 貴族か?
平民に転生して、シンデレラを中心としたラブコメにモブとして参加、とかは嫌
だな。
かと言って、男の俺が女性のシンデレラに転生するのはあまり気が進まな
い…。まあいい、出たとこ勝負だ…。再び、睡魔に襲われた。
…深い深い眠りからだんだん目覚めていく。
遠くから聞こえる鳥のさえずり、人々の声。
体の感覚に違和感を感じる。他人の体だからなのか?
何かに座って、揺れている感覚がする。
「・・・。・・子」
傍らで誰かの声が聞こえる。
「王子!王子!」
ゆっくりと両目を開けた。
目の前には、白いシャツに黒の蝶ネクタイ、黒のタキシードを羽織っている、まるまると太った執事のような人物がいた。
彼は、俺を心配そうに見て言った。
「王子!どうしたのですか?」
王子………だと!!!
ガタガタ揺れている。
蹄の音、ときおり聞こえる馬の鼻息。
ここは馬車の中だと理解した俺は窓ガラスを見た。
そこに映っていたのは、金髪のイケメン。上品な白のコーデで王子様のような服を着ている男。……いや、俺だった。
まさか、王子転生するとは・・・。
直後、王子のこれまでの出来事が頭の中に流れ込んできた。
三晩、王城で行われた舞踏会でシンデレラに出会い、ガラスの靴を拾ったこと。本人を見つけ出すために、翌朝からそのガラスの靴を手がかりに町中を探し回っていて、つい先程、見つかったという報告があったこと。それらが、頭の中のスクリーンに走馬灯のように流れた。
舞踏会が三晩で、靴がガラス、か…
ん、待てよ?
絵本版では舞踏会は一晩だけだった。だが、グリム版では舞踏会は三晩続けられていた。それから、おなじみのガラスの靴。絵本版では、物語の鍵とも言える重要アイテムだ。
そう言えばガラスの靴で思い出したが、幼い頃、母親が絵本版の読み聞かせをしてくれた際、零時を過ぎると魔法は解けると魔法使いは言っていたのに、どうしてガラスの靴だけは魔法は解けないの?と母親に尋ねて、困らせたっけ。ずいぶん俺も、こましゃくれたガキだったな。母、ゴメン!今は亡き母を懐かしく思い出した。
それはそうと俺が今いる世界は、グリム童話版と絵本版が、いろいろとまぜこぜとなった世界のようだ。
そして、一番予期してない人物への転生。
色々とまだ混乱している。
これを”転生”と言っていいのかもわからない。
過去の記憶のフラッシュバックということではなく、「自分は自分」という自意識が、はっきりと自覚できている。
この状態は、転生人物への”乗り移り”や”憑依”に近い感覚なのかもしれない。
なぜなら、王子の意識や魂も、この同じ体の中に存在していることが俺には直感されているからだ。
…まあいい。ノープラン、出たとこ勝負がこれまでも俺の人生プランだった。たぶん、そんな無計画で主体性のなさが、俺を平凡な男にさせたのかもしれないが…
それよりも、この場面からこの先どんな試練があるのだろうか?
王子がシンデレラに会いに行くのは、物語のもう最終場面じゃないか。
あの少女は、いや神は俺にいったい何をさせたいんだ?
揺れる馬車の中で俺はそんなことをずっと考え込んでいた。
「王子、着きました」
執事の声ではっとする。
「そうか…」
透き通るような美声。
王子の声音、いや今は自分の体ながら、少し驚いてしまった。
馬車を降りると、前には小さな家があった。
二階建てで、中世風に、レンガと石で造られた家。
周囲にも似たような家々、三日月型の尖塔をもつ教会、へんてこな噴水、粗末な小屋が目に入った。
人だかりができており、皆がこちらを見ている。
扉を開け家に入ると複数の人物がいた。
足が血だらけの女性、何事かをわめいている老女、その様子を眺める老人、二人の衛兵。そして・・・
「君が……」
俺の中の王子が声を漏らした。
そして、王子は顔を赤らめた。
その少女も顔を赤く染めながら王子の言葉に答えた。
「はい…。私があなたと踊ったシンデレラです」
俺自身も息を飲むくらい、彼女は可憐で美しかった。
物語としてはいくつかパターン(異聞)があるが、その一つで一番有名なのが絵本版だろう。
その昔、一人の少女が継母とその連れ子にいじめられ、酷い暮らしをしていた。
ある日、お城で舞踏会が行われることになった。
継母たちはシンデレラを置いてそこに出かけてしまう。
しかし、悲しみに暮れていたシンデレラの前に妖精(魔法使い)が現れ、魔法でドレスと馬車を用意してくれた。
ただし、その魔法は真夜中の零時に解けてしまうため、それまでには帰らないといけない。
王子と踊るも、零時の時を告げる鐘が鳴り響く中、シンデレラは急いで帰ってしまった。
その時、ガラスの靴を一足落としてしまう。
シンデレラに一目惚れした王子は、ガラスの靴の持ち主を探して、人々に靴を履かせた。
そして、靴にピッタリ合うシンデレラを見つけ、二人は結婚した。
めでたし、めでたし。
…という誰もが知っているストーリーだ。
だが、原作となった元々のグリム童話はもっと残酷で、ガラスの靴も話には出てこない。
他にも多くの異聞があるが、これが正解というものはない。
しかし、シンデレラの世界か…
誰に転生するのかな?
やはり主人公のシンデレラ自身か? それとも、一般市民か? 貴族か?
平民に転生して、シンデレラを中心としたラブコメにモブとして参加、とかは嫌
だな。
かと言って、男の俺が女性のシンデレラに転生するのはあまり気が進まな
い…。まあいい、出たとこ勝負だ…。再び、睡魔に襲われた。
…深い深い眠りからだんだん目覚めていく。
遠くから聞こえる鳥のさえずり、人々の声。
体の感覚に違和感を感じる。他人の体だからなのか?
何かに座って、揺れている感覚がする。
「・・・。・・子」
傍らで誰かの声が聞こえる。
「王子!王子!」
ゆっくりと両目を開けた。
目の前には、白いシャツに黒の蝶ネクタイ、黒のタキシードを羽織っている、まるまると太った執事のような人物がいた。
彼は、俺を心配そうに見て言った。
「王子!どうしたのですか?」
王子………だと!!!
ガタガタ揺れている。
蹄の音、ときおり聞こえる馬の鼻息。
ここは馬車の中だと理解した俺は窓ガラスを見た。
そこに映っていたのは、金髪のイケメン。上品な白のコーデで王子様のような服を着ている男。……いや、俺だった。
まさか、王子転生するとは・・・。
直後、王子のこれまでの出来事が頭の中に流れ込んできた。
三晩、王城で行われた舞踏会でシンデレラに出会い、ガラスの靴を拾ったこと。本人を見つけ出すために、翌朝からそのガラスの靴を手がかりに町中を探し回っていて、つい先程、見つかったという報告があったこと。それらが、頭の中のスクリーンに走馬灯のように流れた。
舞踏会が三晩で、靴がガラス、か…
ん、待てよ?
絵本版では舞踏会は一晩だけだった。だが、グリム版では舞踏会は三晩続けられていた。それから、おなじみのガラスの靴。絵本版では、物語の鍵とも言える重要アイテムだ。
そう言えばガラスの靴で思い出したが、幼い頃、母親が絵本版の読み聞かせをしてくれた際、零時を過ぎると魔法は解けると魔法使いは言っていたのに、どうしてガラスの靴だけは魔法は解けないの?と母親に尋ねて、困らせたっけ。ずいぶん俺も、こましゃくれたガキだったな。母、ゴメン!今は亡き母を懐かしく思い出した。
それはそうと俺が今いる世界は、グリム童話版と絵本版が、いろいろとまぜこぜとなった世界のようだ。
そして、一番予期してない人物への転生。
色々とまだ混乱している。
これを”転生”と言っていいのかもわからない。
過去の記憶のフラッシュバックということではなく、「自分は自分」という自意識が、はっきりと自覚できている。
この状態は、転生人物への”乗り移り”や”憑依”に近い感覚なのかもしれない。
なぜなら、王子の意識や魂も、この同じ体の中に存在していることが俺には直感されているからだ。
…まあいい。ノープラン、出たとこ勝負がこれまでも俺の人生プランだった。たぶん、そんな無計画で主体性のなさが、俺を平凡な男にさせたのかもしれないが…
それよりも、この場面からこの先どんな試練があるのだろうか?
王子がシンデレラに会いに行くのは、物語のもう最終場面じゃないか。
あの少女は、いや神は俺にいったい何をさせたいんだ?
揺れる馬車の中で俺はそんなことをずっと考え込んでいた。
「王子、着きました」
執事の声ではっとする。
「そうか…」
透き通るような美声。
王子の声音、いや今は自分の体ながら、少し驚いてしまった。
馬車を降りると、前には小さな家があった。
二階建てで、中世風に、レンガと石で造られた家。
周囲にも似たような家々、三日月型の尖塔をもつ教会、へんてこな噴水、粗末な小屋が目に入った。
人だかりができており、皆がこちらを見ている。
扉を開け家に入ると複数の人物がいた。
足が血だらけの女性、何事かをわめいている老女、その様子を眺める老人、二人の衛兵。そして・・・
「君が……」
俺の中の王子が声を漏らした。
そして、王子は顔を赤らめた。
その少女も顔を赤く染めながら王子の言葉に答えた。
「はい…。私があなたと踊ったシンデレラです」
俺自身も息を飲むくらい、彼女は可憐で美しかった。
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