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【1部】第三章.自分のスキルを確認するまでが長い
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時は少し戻りブロッサムが城を追い出され、案内眼鏡が追跡魔法の魔法陣を燃やした後の事。
ブロッサムと一緒に召喚された者達は応接室で、おのおの好きな椅子に座っていた。
「もぉー!あとどんくらい待たなきゃいけないワケー?」
「本当だよな、俺ら召喚された側なんだぜ、もっと丁重に扱ってほしいよなぁー」
「ていうかさー、ヤエがいなくない?部屋とびだしたオジサンも戻ってこないしー」
「本当だヤエザキさんが居ないな、どこ行ったんだろう?」
そんな会話をしているのは、大学生のユウカとケンタだった。
「お前ら何のんきな事言ってんだよ。なんだよこれ…夢じゃなかったのかよ…ふざけんな…」
うなだれて呟くのは、大学生の集団の中で一番体つきの大きいタクマだった。
「まぁまぁ、元の世界には帰れないっぽいし、きっと王様が手助けしてくれるよ。僕は早くこっちの料理が食べてみたいなぁ…。このお菓子も美味しいし結構いい所だと思うよ」
そう言ってヒフミはテーブルに置かれた菓子に手を伸ばす。
彼等は大学の同級生で、グループ課題が終わった打ち上げでカラオケに行く最中にこの世界へ召喚された。
窓際のソファーでは、高校生の男女二人組が自分の世界を作っていた。
「私、聖女だって!二人で異世界無双したいね!」
「そうだな、俺も勇者だし、最強カップルになれそうだな!!」
「そうなったら最高だね!早くスキルアップして魔王討伐に行きたい!」
「魔王倒したら、どこか森とかで一緒に暮らそうぜヒナコ」
「そうだね、そしたら可愛いカフェとか開きたい!シンジにも美味しいお菓子つくったげる!」
部屋の隅で無言で立っている青年はソウマ。ヒナコとシンジと同じ塾に通っている高校生だ。
そして3人とも、塾帰りに召喚に巻き込まれた。
そんな彼等の所に宰相がやって来た。
その後ろには、先ほど血相を変えて応接室から飛び出して行ったスーツ姿の男が立っている。
「皆様、大変長らくお待たせいたしました、これより国王陛下への謁見を行います」
全員の視線が集まった事を確認すると、宰相は言葉を続ける。
「しかし、その前に一つお知らせがございます。あなた方と一緒に召喚されました、イツキヤマノ様がこの城を去り街へ行きました」
その言葉に、様々な反応をする召喚者たち。
「あのスーツの女性?姿が見えないと思ったら街に行ったの?うっそマジでー?勇気あるぅー」
「俺、あの人の事鑑定したけど、スキルが一つしか無かったぜ?仕方ないんじゃないか?」
「魔王討伐なんて危険な事、俺もしたくねぇよ…」
「ますます私達が活躍しないとだね」
「そうだな!」
ザワザワする面々に、宰相はさらに言葉を重ねる。
「彼女は自ら街へ降りるとおしゃられたのです。自分では魔王討伐の役にはたてないからと…マエジマ様にもそう言っていましたよね?」
「そうだ。彼女は自ら身を引いて市井に降りて行ったよ。護衛の兵士と一緒だからきっと大丈夫だろう」
マエジマと呼ばれたスーツの男はそう答えた。
その言葉に、他の召喚者たちは納得した表情になった。
この時、案内眼鏡がこの部屋にいたならば、マエジマの右手首に、先ほどまでは着けていなかった怪しげな金の腕輪がはまっていることに気が付いたかも知れない。
「確かに、あの人スライムテイムとかいうスキルしか持ってなかったもんね。称号も只の人とか書いてあったし…」
この時、召喚された者達は誰一人として、ここに来る前に神々に会いスキルを授かった事を言わなかった。いや、言えなかったのだ。神々の手によって、その記憶は消されていたのだから。
その記憶を持ったままフォンティーへ来たのは、スキルについて細かい注文を付けた、ブロッサムとマエジマの二人だけである。そのマエジマもその事を口にはしなかった。
「では皆様、騎士たちが謁見の間まで案内しますので、付いて行ってください」
「オジサン!ちょっと待って!!まだヤエが部屋に戻ってきてないんだケド!!」
ユウカの一言で召喚者たちの人数が8人しか居ない事に気が付き、宰相が大慌てする事になった。
謁見の時間を変える事は出来ないため、今回召喚されたのは8人であると誤魔化す羽目になったのだった。
何とか国王と召喚者たちとの謁見を終えると、宰相は応接室に居た者達を呼び集めた。
予想外に大人数が召喚されてしまった今回の儀式、最小限の部下しか配置しなかったせいで監視の目が行き届かなかった。何たる失態。
「なぜ全員を監視していなかった!」
宰相は、警備にあたっていた騎士や文官たちに当たり散らす。
「しかし…宰相様が応接室に来る少し前までは部屋にいらっしゃったんです…」
「気が付いたら居なくなっていました…もしかしたら、侍従たちの控室から外に出たのではないでしょうか?」
怯えながらもそう訴える部下たちを睨みつけながら宰相は指示を出す。
「勝手に部屋を飛び出た勇者といい、今回の小娘といい、何だ今回の奴らは!!もっとおとなしくしておれば良いものを!!ただの小娘だ、城内をくまなく探せ!門から出ていく人間も全て調べるのだ!!」
こうして、サクラ・ヤエザキという名の異世界から召喚された女性も、この王城から姿を消したのだった。
*------*
この後、閑話いくつか続きます。
ブロッサムと一緒に召喚された者達は応接室で、おのおの好きな椅子に座っていた。
「もぉー!あとどんくらい待たなきゃいけないワケー?」
「本当だよな、俺ら召喚された側なんだぜ、もっと丁重に扱ってほしいよなぁー」
「ていうかさー、ヤエがいなくない?部屋とびだしたオジサンも戻ってこないしー」
「本当だヤエザキさんが居ないな、どこ行ったんだろう?」
そんな会話をしているのは、大学生のユウカとケンタだった。
「お前ら何のんきな事言ってんだよ。なんだよこれ…夢じゃなかったのかよ…ふざけんな…」
うなだれて呟くのは、大学生の集団の中で一番体つきの大きいタクマだった。
「まぁまぁ、元の世界には帰れないっぽいし、きっと王様が手助けしてくれるよ。僕は早くこっちの料理が食べてみたいなぁ…。このお菓子も美味しいし結構いい所だと思うよ」
そう言ってヒフミはテーブルに置かれた菓子に手を伸ばす。
彼等は大学の同級生で、グループ課題が終わった打ち上げでカラオケに行く最中にこの世界へ召喚された。
窓際のソファーでは、高校生の男女二人組が自分の世界を作っていた。
「私、聖女だって!二人で異世界無双したいね!」
「そうだな、俺も勇者だし、最強カップルになれそうだな!!」
「そうなったら最高だね!早くスキルアップして魔王討伐に行きたい!」
「魔王倒したら、どこか森とかで一緒に暮らそうぜヒナコ」
「そうだね、そしたら可愛いカフェとか開きたい!シンジにも美味しいお菓子つくったげる!」
部屋の隅で無言で立っている青年はソウマ。ヒナコとシンジと同じ塾に通っている高校生だ。
そして3人とも、塾帰りに召喚に巻き込まれた。
そんな彼等の所に宰相がやって来た。
その後ろには、先ほど血相を変えて応接室から飛び出して行ったスーツ姿の男が立っている。
「皆様、大変長らくお待たせいたしました、これより国王陛下への謁見を行います」
全員の視線が集まった事を確認すると、宰相は言葉を続ける。
「しかし、その前に一つお知らせがございます。あなた方と一緒に召喚されました、イツキヤマノ様がこの城を去り街へ行きました」
その言葉に、様々な反応をする召喚者たち。
「あのスーツの女性?姿が見えないと思ったら街に行ったの?うっそマジでー?勇気あるぅー」
「俺、あの人の事鑑定したけど、スキルが一つしか無かったぜ?仕方ないんじゃないか?」
「魔王討伐なんて危険な事、俺もしたくねぇよ…」
「ますます私達が活躍しないとだね」
「そうだな!」
ザワザワする面々に、宰相はさらに言葉を重ねる。
「彼女は自ら街へ降りるとおしゃられたのです。自分では魔王討伐の役にはたてないからと…マエジマ様にもそう言っていましたよね?」
「そうだ。彼女は自ら身を引いて市井に降りて行ったよ。護衛の兵士と一緒だからきっと大丈夫だろう」
マエジマと呼ばれたスーツの男はそう答えた。
その言葉に、他の召喚者たちは納得した表情になった。
この時、案内眼鏡がこの部屋にいたならば、マエジマの右手首に、先ほどまでは着けていなかった怪しげな金の腕輪がはまっていることに気が付いたかも知れない。
「確かに、あの人スライムテイムとかいうスキルしか持ってなかったもんね。称号も只の人とか書いてあったし…」
この時、召喚された者達は誰一人として、ここに来る前に神々に会いスキルを授かった事を言わなかった。いや、言えなかったのだ。神々の手によって、その記憶は消されていたのだから。
その記憶を持ったままフォンティーへ来たのは、スキルについて細かい注文を付けた、ブロッサムとマエジマの二人だけである。そのマエジマもその事を口にはしなかった。
「では皆様、騎士たちが謁見の間まで案内しますので、付いて行ってください」
「オジサン!ちょっと待って!!まだヤエが部屋に戻ってきてないんだケド!!」
ユウカの一言で召喚者たちの人数が8人しか居ない事に気が付き、宰相が大慌てする事になった。
謁見の時間を変える事は出来ないため、今回召喚されたのは8人であると誤魔化す羽目になったのだった。
何とか国王と召喚者たちとの謁見を終えると、宰相は応接室に居た者達を呼び集めた。
予想外に大人数が召喚されてしまった今回の儀式、最小限の部下しか配置しなかったせいで監視の目が行き届かなかった。何たる失態。
「なぜ全員を監視していなかった!」
宰相は、警備にあたっていた騎士や文官たちに当たり散らす。
「しかし…宰相様が応接室に来る少し前までは部屋にいらっしゃったんです…」
「気が付いたら居なくなっていました…もしかしたら、侍従たちの控室から外に出たのではないでしょうか?」
怯えながらもそう訴える部下たちを睨みつけながら宰相は指示を出す。
「勝手に部屋を飛び出た勇者といい、今回の小娘といい、何だ今回の奴らは!!もっとおとなしくしておれば良いものを!!ただの小娘だ、城内をくまなく探せ!門から出ていく人間も全て調べるのだ!!」
こうして、サクラ・ヤエザキという名の異世界から召喚された女性も、この王城から姿を消したのだった。
*------*
この後、閑話いくつか続きます。
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