上 下
4 / 13

3.無能聖女、馬車の中で考える

しおりを挟む
そもそも、貴族の結婚ははっきり言って政略結婚だ。当事者同士の心情など関係なく、国家を滞りなく動かすための手段に他ならない。10歳の時、トルテが聖女に選ばれると同時に殿下と結ばれた婚約もその為のものだった。

もちろんトルテも、ゆくゆくは聖女としてだけでなく王妃としても、この国の為に殿下を支えていく事に拒否感は無かった。

そして、出来れば殿下と心から愛し合いたかった。聖女としての役目を果たす傍ら、殿下が授業をサボった時は探し回り呼び戻し、有力貴族に失礼な事をすれば、慌てて謝罪をしに行ったりとしりぬぐいばかりをしていた。行動を諌めれば、自分はいずれ国王になるのだから、そんな事は気にしなくてもいいのだと、トルテよりも3歳年上のはずの殿下は、幼子のような事を言うばかりだった。

そうやって7年間、彼の自分本位な行動に振り回されたトルテは、彼と心を通わせようと思う事も無くなってしまった。何よりも、1年前に知ってしまった聖女の秘密…。今まで自分が正道と思いやって来た事が、どれだけ酷い事だったのかを思い知ってしまった。

聖女の役目は主に二つある。一つは国を守る結界を維持し、国土を護る事。もう一つは魔神ダークによって呪いを受けた者たちを救う事。

前者の役目は、トルテと他の6人の聖女たちで交代しながら魔力を流すことで維持されている。後者の役目に関しては、トルテ以外の聖女は一度の多くの呪いを解くことが出来ないらしく、いつもトルテ一人が任されていた。その実力を認められ、トルテは筆頭聖女になったのだった。

この呪いを解くという役目は年に数回、呪われの森という場所に囚われている者たちを救う事だった。この役目の始まりはツイース王国建国の歴史にも関係している。

このツイース王国はぐるりと国を囲むように結界が張られていて、精霊やエルフ、魔獣などの人間以外の種族が出入りできないようになっている。建国当初は、それだけではなく、鳥や獣達が一度結界の中に入ると外には出られなくなるようになっていた。

何故そのような事になっていたのかと言えば、結界が張られた当初この国は肥沃な草原が多くを占め、多くの野生動物がいたが、続々と逃げてくる人々を支えるには足りなかったのだ。そのため食料を確保する為に、他種族のもとから逃盗んできた動物達も含め、この結界内にとどめておかなければならなかったのだ。

500年前まで人間は、光の女神ライトと魔神ダークの加護を殆ど受ける事の出来なかった半端者として、エルフやドワーフたちの奴隷となっていた。長くても100年ほどしか生きられず、肉体も脆く体力も魔力も殆ど持たなかった人間と言う種族は、彼らにとって使い捨ての労働力でしかなかった。その為、人間たちの扱いは酷い物だったらしい。

そんな中、とある少女が広大な土地に人間だけが出入りできる結界を張り巡らせたのだ。「人間だけの安住の地」それがツイース王国の始まりだった。国が発展し落ち着いてくると、結界のこの効果は取り外され動物たちは自由に結界の内と外を行き出来るようになった。

しかし、一部の場所ではその効果が生き続けている場所がある。それが今トルテを乗せた馬車が向かっている、呪われの森だった。この森は、非常に多くの魔力が溜まっている。そのため、魔術の素材になる動植物が多く生息している。その大量の魔力のせいか、この森の結界だけが動物が外に出ることを許さずにいるのだった。

この森に囚われている者たちは、かつて闇の神ダークの呪いにより人から獣の姿へ変えられてしまった者たちの末裔で、獣の気配が混じったせいで結界の外に出ることができないのだ。その呪いを解き、森から解放するのが聖女の二つ目の役目であった。

そしてこれが、トルテが放棄した聖女の役目でもあった。
(あれを見たおかげで、この国の欺瞞に気が付けたのよね…)


そんな事を考えていると、馬車がガタンと止まった。どうやら呪われの森に着いたようだ。
思った以上に早く着いたようで、夜明けの気配は遠かった。






※-----------------------※

トルテが役目を放棄した理由、さんざんじらしますがもう少し後できちんと出てきますのでお待ちください。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

今更困りますわね、廃妃の私に戻ってきて欲しいだなんて

nanahi
恋愛
陰謀により廃妃となったカーラ。最愛の王と会えないまま、ランダム転送により異世界【日本国】へ流罪となる。ところがある日、元の世界から迎えの使者がやって来た。盾の神獣の加護を受けるカーラがいなくなったことで、王国の守りの力が弱まり、凶悪モンスターが大繁殖。王国を救うため、カーラに戻ってきてほしいと言うのだ。カーラは日本の便利グッズを手にチート能力でモンスターと戦うのだが…

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

身に覚えがないのに断罪されるつもりはありません

おこめ
恋愛
シャーロット・ノックスは卒業記念パーティーで婚約者のエリオットに婚約破棄を言い渡される。 ゲームの世界に転生した悪役令嬢が婚約破棄後の断罪を回避するお話です。 さらっとハッピーエンド。 ぬるい設定なので生温かい目でお願いします。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

公爵令嬢のRe.START

鮨海
ファンタジー
絶大な権力を持ち社交界を牛耳ってきたアドネス公爵家。その一人娘であるフェリシア公爵令嬢は第二王子であるライオルと婚約を結んでいたが、あるとき異世界からの聖女の登場により、フェリシアの生活は一変してしまう。 自分より聖女を優先する家族に婚約者、フェリシアは聖女に嫉妬し傷つきながらも懸命にどうにかこの状況を打破しようとするが、あるとき王子の婚約破棄を聞き、フェリシアは公爵家を出ることを決意した。 捕まってしまわないようにするため、途中王城の宝物庫に入ったフェリシアは運命を変える出会いをする。 契約を交わしたフェリシアによる第二の人生が幕を開ける。 ※ファンタジーがメインの作品です

この野菜は悪役令嬢がつくりました!

真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。 花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。 だけどレティシアの力には秘密があって……? せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……! レティシアの力を巡って動き出す陰謀……? 色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい! 毎日2〜3回更新予定 だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!

契約破棄された聖女は帰りますけど

基本二度寝
恋愛
「聖女エルディーナ!あなたとの婚約を破棄する」 「…かしこまりました」 王太子から婚約破棄を宣言され、聖女は自身の従者と目を合わせ、頷く。 では、と身を翻す聖女を訝しげに王太子は見つめた。 「…何故理由を聞かない」 ※短編(勢い)

処理中です...