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しおりを挟む「待ってー!お兄様!エルド!」
庭園をかける幼き日の私……、これは5歳くらいだったかしら……。あの頃の夢を見るなんて久しぶりだわ――
「レイア!早く!こっちだ!」
兄のヴィンセットがレイアを呼ぶと、レイアは息を切らして答えた。
「ま、待って!お兄様早いわ!!」
するとヴィンセット王子の隣にいたエルドは、レイアの元へ駆け寄ってきた。
「レイア、もう少しだよ。一緒に行こう」
エルドはレイアの手を取ると、ヴィンセットの待つ丘へレイアと共に登っていった。
ああ、この頃はお兄様とエルドと遊ぶのが大好きだった。私抜きで、2人で遊びに行ってしまうと泣いて怒って皆を困らせたっけ。お兄様とエルドはとてもが仲良くて、そんな仲良しの二人を見ているのが何故かとても嬉しかったのよね。
丘の頂上へ着いた一行は、侍女が用意した茶や菓子を頬張った。
えーと、カップケーキは最後にとっておいて、先にサンドウィッチを食べよ!
レイアは好きな物を最後に食べたようと残していたのだが、皿の上に1つだけ残っていたカップケーキはヴィンセットの手に捕まってしまった。
「最後の一つ、貰うぞ」
「っ!!」
私のだって言いたいのに、レイアの口の中にはサンドウィッチがあってうまく話せない。急いで口の中のサンドウィッチを飲み込もうとしたけど、上手くいかなかった。そして、カップケーキはヴィンセットの口の中に運ばれてしまったのだ。レイアは、やっとの思いでサンドウィッチを飲み込んだのに一歩遅かった。
「お兄様!それ後で食べようと思って残していたのよ!」
「ええ?俺が聞いたとき何も言わなかっただろ!?」
「それは、サンドウィッチを食べてて話せなかったのよ!お兄様のバカぁ。カップケーキ楽しみにしてたのにー!」
「レイアが食べるのが遅いのがいけないんだろ!」
お兄様がフンッとするから私の目にはみるみる涙が溜まっていった。そんな私の頭を優しく撫でてくれたのはエルドだった。
「レイア、またここに、今度はもっとたくさんカップケーキを持ってこよう。だから元気を出して」
「エルド……。また一緒に丘を登ってくれる?」
「もちろん」
エルドはニコリと笑って頷いた。するとレイアも涙が滲んだ瞳を細めて笑顔に変わる。
「全く……エルドはレイアに甘いんだよなー」
とヴィンセットは口を尖らせた。
「お兄様が意地悪なだけでしょ?」
「なんだってー?」
「きゃー、エルド助けて!」
わざとらしく怒った顔をするお兄様に私は笑いながらエルドの後ろに隠れた。
「よし、帰りは誰が1番速く丘を下りられるか勝負しよう!」
お兄様が得意気な顔をして言ってきた。
「いやよ、どうせレイアが1番最後だもの……」
レイアが口を尖らせる。
「じゃあ、レイアのリボンを1つ僕に貸してくれる?」
エルドがレイアに優しく言った。
「え?」
「レイアのリボンを僕の手首に付けて。僕がレイアの分も必ず勝つから。だから、レイアは僕を応援して」
エルドはヴィンセットの方を向くと「いいだろ?」と聞く。ヴィンセットは苦笑いで「しょうがないなぁ」と言うと「でも勝つのは俺だからな!」と言ってニッと笑った。
「レイア、いい?」
レイアは頬を染めて嬉しそうに笑うと、頭に着けていたピンクのリボンを取ってエルドの手首に巻き付けた。
レイアは先にゴールとなる丘の下に来た。
「いくわよ!よーいスタート!」
レイアの掛け声で真剣に丘を下って走ってくるエルドに、レイアはドキドキしているとふと違う思いが湧き上がる。
エルドはいつまで私の為に走ってくれるのだろう。――って私は何を考えてるんだろう?そんなのこれから、私が素敵な淑女になれば……いずれエルドと結婚する事になるって、前にお母様がこっそり教えてくれたし……、大丈夫よ。
レイアがそんな事を考えていると、2人が丘の下へ到着し、息を切らしながら「どっちが勝った?」という視線をレイアに向けてくる。
一瞬過ぎったよく分からぬ想いより幼いレイアには目の前の2人の勝敗の方が重要で、レイアはどうしてそんな事を思ってしまったのかも考える事はなく、すっかり忘れ去ってしまっていた――
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