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あれから1週間が過ぎたが、エリーナが前世の記憶を取り戻す事はなかったし、同じような夢を見る事もなかった。ルアナの話から、夢だと思おうと納得していたが、エリーナには、もう一人話しを聞きたいと思っている相手がいた――
「エリーナ様、とても綺麗ね」
「ルドルフ皇太子殿下も格好良いわ」
今日は、宮殿で皇后陛下の誕生日を祝う舞踏会が開催されている。ルドルフとエリーナももちろん参加していた。
「エリーナ、大丈夫か?今日は無理をしなくても良かったのに」
「皇后様のお誕生日ですもの。そういうわけにもいかないわ」
実はエリーナは、数日前から頭痛に悩まされていた。
ずっと頭痛がするわけではないが、ふとした時に痛くなり、それが就寝時に多い為、エリーナは寝不足にもなっていた。
舞踏会に皇太子殿下とその婚約者である公爵令嬢がいれば、挨拶に来る貴族も後を立たず、舞踏会が始まってから、エリーナは休む間もなく対応に追われていた。
顔色の良くないエリーナを心配するルドルフは、視線を後ろに向けた。
すると、すぐにルドルフの護衛として控えていたアランが側によってくる。
「アラン、エリーナを休憩室に連れて行ってくれ」
それにすかさず、エリーナが「ルドルフ、私は大丈夫よ」と言った。
今年、貴族学園を卒業すれば、ルドルフとの結婚もすぐだ。もうすぐ、皇太子妃となるのに少し体調が悪いだけで休むわけにはいかない。
「エリーナ、だが顔色が良くない。少し休むんだ」
「本当に平気よ」
エリーナは、強い瞳でルドルフを見上げた。それに、ルドルフが小さく息を吐く。
「エリーナ、君の責任感の強い所は、良い所だけど……」
ルドルフがエリーナにだけ聞こえる声でそう言うと、ちょうどローレン侯爵令嬢が挨拶にやって来た。
「ルドルフ皇太子殿下とエリーナ公爵令嬢にご挨拶申し上げます」
「あら、ローレン嬢!」
学園の友人に出会い、エリーナの表情が和らいだ。
「本日は、お招き頂きましてありがとうございます」
ローレンがカーテシーをするとルドルフは、ちょうどいいとローレンに言った。
「堅苦しい挨拶はいいよ。それよりも、ローレン嬢、少しエリーナと一緒に休憩室にいてくれないだろうか?」
ルドルフの言葉にエリーナが小さく「ルドルフ!」と抗議の声を上げる。
二人の様子を交互に見たローレンは、
「かしこまりました」
とカーテシーをした。
こうしてエリーナは、ローレンと共にアランに護衛されながら、休憩室へ向かう事となった。
「もう、ルドルフってば。大丈夫って言ったのに」
エリーナは、休憩室へ向かう廊下を歩きながら、不服そうに口を尖らせた。
「エリーナ様は、最近頭を押さえている事が多かったですし、私もどうされたのかと少し気掛かりでした。それに今日は少し表情も疲れているようです。小さな変化にもすぐに気付いてくださるなんて、ルドルフ殿下は、本当にエリーナ様の事を大事にされてますね」
いつもは滅多に笑わないローレンが、小さく微笑んでエリーナを見つめた。
それにエリーナが、少し頬を染める。
「それはそうですよ。ルドルフ殿下はずーーーとエリーナ様の事ばかり見ているんですから」
とアランが応戦してきた。
「ア、アランまで何言ってるのよ」
「いや、もうルドルフのエリーナ様に対する愛情は海よりも深いですから。今日はエリーナがどうした、こうだったって、毎日うるさいのなんのって」
そう言ってアランは両手を上げて肩をすくめる。
「え!?ルドルフってそんなに毎日、私の事を話しているの!?」
「それはもう」
とアランは、ニヤリと笑った。
「まあ、毎日、ルドルフ殿下のエリーナ様への惚気話を聞けるなんて、なんて最高なの!」
「え?さ、最高?」
エリーナが聞き返すとローレンは、満面の笑みを浮かべた。
「それはそうですよ!だってお二人は私の生きる活力ですから!」
か、活力!?
あのクールなローレンが拳を握り、力強く宣言した事に、エリーナは、顔を赤くして両手で覆った。
それにアランは、横を向いて笑っていて、静かな休憩室の廊下が賑やかになっていた。
「随分楽しそうですね」
そこに現れたのは、肩につかないくらいの長さの茶髪に、眼鏡越しの緑の瞳を細くして微笑むジェフ・マカロッカ公爵子息であった。
「エリーナ様、とても綺麗ね」
「ルドルフ皇太子殿下も格好良いわ」
今日は、宮殿で皇后陛下の誕生日を祝う舞踏会が開催されている。ルドルフとエリーナももちろん参加していた。
「エリーナ、大丈夫か?今日は無理をしなくても良かったのに」
「皇后様のお誕生日ですもの。そういうわけにもいかないわ」
実はエリーナは、数日前から頭痛に悩まされていた。
ずっと頭痛がするわけではないが、ふとした時に痛くなり、それが就寝時に多い為、エリーナは寝不足にもなっていた。
舞踏会に皇太子殿下とその婚約者である公爵令嬢がいれば、挨拶に来る貴族も後を立たず、舞踏会が始まってから、エリーナは休む間もなく対応に追われていた。
顔色の良くないエリーナを心配するルドルフは、視線を後ろに向けた。
すると、すぐにルドルフの護衛として控えていたアランが側によってくる。
「アラン、エリーナを休憩室に連れて行ってくれ」
それにすかさず、エリーナが「ルドルフ、私は大丈夫よ」と言った。
今年、貴族学園を卒業すれば、ルドルフとの結婚もすぐだ。もうすぐ、皇太子妃となるのに少し体調が悪いだけで休むわけにはいかない。
「エリーナ、だが顔色が良くない。少し休むんだ」
「本当に平気よ」
エリーナは、強い瞳でルドルフを見上げた。それに、ルドルフが小さく息を吐く。
「エリーナ、君の責任感の強い所は、良い所だけど……」
ルドルフがエリーナにだけ聞こえる声でそう言うと、ちょうどローレン侯爵令嬢が挨拶にやって来た。
「ルドルフ皇太子殿下とエリーナ公爵令嬢にご挨拶申し上げます」
「あら、ローレン嬢!」
学園の友人に出会い、エリーナの表情が和らいだ。
「本日は、お招き頂きましてありがとうございます」
ローレンがカーテシーをするとルドルフは、ちょうどいいとローレンに言った。
「堅苦しい挨拶はいいよ。それよりも、ローレン嬢、少しエリーナと一緒に休憩室にいてくれないだろうか?」
ルドルフの言葉にエリーナが小さく「ルドルフ!」と抗議の声を上げる。
二人の様子を交互に見たローレンは、
「かしこまりました」
とカーテシーをした。
こうしてエリーナは、ローレンと共にアランに護衛されながら、休憩室へ向かう事となった。
「もう、ルドルフってば。大丈夫って言ったのに」
エリーナは、休憩室へ向かう廊下を歩きながら、不服そうに口を尖らせた。
「エリーナ様は、最近頭を押さえている事が多かったですし、私もどうされたのかと少し気掛かりでした。それに今日は少し表情も疲れているようです。小さな変化にもすぐに気付いてくださるなんて、ルドルフ殿下は、本当にエリーナ様の事を大事にされてますね」
いつもは滅多に笑わないローレンが、小さく微笑んでエリーナを見つめた。
それにエリーナが、少し頬を染める。
「それはそうですよ。ルドルフ殿下はずーーーとエリーナ様の事ばかり見ているんですから」
とアランが応戦してきた。
「ア、アランまで何言ってるのよ」
「いや、もうルドルフのエリーナ様に対する愛情は海よりも深いですから。今日はエリーナがどうした、こうだったって、毎日うるさいのなんのって」
そう言ってアランは両手を上げて肩をすくめる。
「え!?ルドルフってそんなに毎日、私の事を話しているの!?」
「それはもう」
とアランは、ニヤリと笑った。
「まあ、毎日、ルドルフ殿下のエリーナ様への惚気話を聞けるなんて、なんて最高なの!」
「え?さ、最高?」
エリーナが聞き返すとローレンは、満面の笑みを浮かべた。
「それはそうですよ!だってお二人は私の生きる活力ですから!」
か、活力!?
あのクールなローレンが拳を握り、力強く宣言した事に、エリーナは、顔を赤くして両手で覆った。
それにアランは、横を向いて笑っていて、静かな休憩室の廊下が賑やかになっていた。
「随分楽しそうですね」
そこに現れたのは、肩につかないくらいの長さの茶髪に、眼鏡越しの緑の瞳を細くして微笑むジェフ・マカロッカ公爵子息であった。
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