上 下
3 / 8

3

しおりを挟む
 こ、ここが、新しく男女の出会いの場とされるカフェね。

 フェデリカは、久しぶりに首都へ出かけると、レディナが言っていたカフェにやってきていた。

「あ、あのお嬢様。本当にこんな所に入られるのですか?」

 侍女のテリルは不安そうに聞いてきた。

「そ、そうよ。ここは今の新しい男女の出会いの場なんだから!テ、テリルは外で待ってて頂戴」

 威勢のいい事を言っているが、フェデリカの顔は強張っていてテリルは心配そうに見つめている。

 ああ、怖い。入りたくない。やっぱり、また今度にしようかしら。でもここで入らなきゃ一生入らない気がする……。そしたら結婚だって……。

 フェデリカの頭には、結婚適齢期を過ぎたフェデリカを悲しそうに見つめる年老いた父と母の姿が浮かんだ。

 ああ、お父様とお母様の為にも!いざ!!

 フェデリカは、意を決して扉を開けた。

 店内は明るく可愛らしい内装で、美味しそうなお菓子の匂いが漂っていた。
 そして、テーブル席には楽しそうに話す男女がそこかしこに見受けられる。身なりの良い人もいて、貴族がここに出会いを求めてやってくるのは本当らしい。

 い、意外と素敵なお店ね。

「いらっしゃいませ。お一人ですか?」

 男性店員に声をかけられ、ビクッと肩を震わせるとフェデリカは高速で数回頷いた。

「かしこまりました。では、こちらファーストドリンクのアイスティーになります。では、お好きなお席にどうぞ」

 え、す、好きな席!?

 フェデリカはキョロキョロと周りを見渡すと隅の空いているテーブル席を見つけてそこに座った。

 貰ったドリンクを飲んでいるとフェデリカの席を数人の男達が囲った。

「何飲んでるの?」

「え、えええと、さ、さっき貰ったアイスティーを」

 身なりからすると、平民の男性達だろう。しかし、こんな私に話しかけて来てくれるなんて。

 フェデリカが感動していると
「ここの店、初めて?なんか緊張してる?」
「ケーキは好き?とってきてあげようか?」
「ここ座っていい?」
「あ、お前ずるいぞ」
「早いもの勝ちだろ」
「ねえ、君は誰に隣に座ってもらいたい?」

「へ!?ええ!?」

 矢継ぎ早に質問されて、フェデリカは混乱していた。え?え?隣に座る?じゃあ、もうお付き合いの相手を決めなきゃいけなきの!?そんな会って間もないのに!?

 フェデリカはパニックになっていた。
 こんなに男性に囲まれた事はないし、話している内容に理解が追いつかない。

「むむむむ、無理だわ!」

 フェデリカは真っ赤な顔を押さえた。

「えー。なに、真っ赤になっちゃってかわいい。ねえ、俺にしなよ。二人で楽しも」 

 最初にフェデリカに話しかけてきた黒髪の男がフェデリカに寄る。
「は!?お前ばっかずるいよ。ねえ、俺にしなよ」
「こいつら、下心しかないから。俺にしな」

 言い寄って来る男達の言葉はフェデリカにさらなる混乱を招く。

「ねえ、ねえ。誰にするの?」「誰がいいの?」

 ああ、早く選ばないと、せっかく声を掛けてくれたのに嫌な思いをしてしまうわ。でも、だからって誰を選べばいいの!?どうしましょう!どうしたらいいの!?
 ああ、もう!!

「こ、この人!」


 追い詰められたフェデリカが、震える指で適当に指し示したその先は、フェデリカの事を囲っていた男達ではなく、その先で給仕をしていた店員の青年だった。それは、茶色の髪に深緑の瞳の青年だった。

「……え?」

 ゴールドブラウンの髪色に瞳が深緑の綺麗な青年だった。その青年は驚いたように私を見た。

「私、あの人とお付き合いします!」

「え?お付き合い?」

「はい。私とお付き合いしてくださいませんか!?」

「お付き合いって……」

 困惑した顔の青年を前に、フェデリカは自分が何をしでかしたのかやっと気づいた。

 わ、私何言ってるの!?こんな私からお付き合いを申し込まれたって迷惑に決まってるじゃない!!ああ、すぐに撤回しないと!!


 フェデリカが自分の言動に焦っている間に、フェデリカを囲む男達が店員と店員の青年の睨み合いがあった事はフェデリカは気づくわけがなかった。

「あああの、先程は変な事を言って」
 フェデリカが店員の青年にさっきの言動を撤回しようとしたがそれを店員の青年が遮った。

「いいですよ」

「へ!?」

「だから、お付き合いしましょう」

 え?え?い、いいの?お付き合いいいの!?

「あ、ああありがとうございます!」

 やった!やったわ!お父様、お母様、私、婚約者ゲットしましたわー!


「やったじゃん、ルカ。玉の輿に乗れるんじゃね?」

 さっきフェデリカを案内してくれた店員に肩を組まれて茶化されていた。

 玉の輿……。ああ、そうよね。私、公爵令嬢ですものね。こんなですけど、地位と財産だけはありますからどうか末永くよろしくお願い致しますわ!

「うるさいな。仕事しろよ」

 ルカと言われた青年は同僚の男性をあしらうと、今度は私の周りを囲っていた男達を押しのけて、手を差し出した。

「もう、ここに用はないですよね?」

 その差し出された手は、まるで舞踏会でダンスに誘われる時のような仕草で、フェデリカが誘われるようにその手を掴むと、ルカはフェデリカを立ち上がらせて、そのまま店の出入り口までエスコートして言った。


「もうここには、来ない方がいいです。ここは貴方のような人が来る場所ではありませんから」

「はい……」

 フェデリカは夢見心地でルカを見つめながら、返事をした。すると、外に待機していた侍女のテリルが飛んでくる。

「お、お嬢様ー!!もう!もう!心配致しましたのよ!ここは、貴族が平民の男性と一時の遊びを楽しむ為の所なんですって!こんな所、早く行きましょ!」

 テリルはフェデリカの肩を押して馬車が止まっている所へ連れて行こうとする。
 未だ夢見心地のフェデリカは、後ろ髪惹かれるように後ろを振り返った。

「あ、あの私、フェデリカ・クレリッチと申します。こ、これからよろしくお願い致します!」

「あ、はい。俺はルカ……です」

「ルカ様ですね!それでは御機嫌よう」

 最後にフェデリカは緊張した笑みを浮かべてカーテシーをすると、テリルと共に馬車へと乗り込んだ。

笑うの苦手なのかな。引きつってるけど、何かそれはそれで可愛いな。

「フェデリカか……、フェデリカ・クレリッチ……ん?クレリッチ!?」

 ルカは大きく目を見開いた。

「クレリッチって、あの名門公爵家じゃんか!!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

リアンの白い雪

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
その日の朝、リアンは婚約者のフィンリーと言い合いをした。 いつもの日常の、些細な出来事。 仲直りしていつもの二人に戻れるはずだった。 だがその後、二人の関係は一変してしまう。 辺境の地の砦に立ち魔物の棲む森を見張り、魔物から人を守る兵士リアン。 記憶を失くし一人でいたところをリアンに助けられたフィンリー。 二人の未来は? ※全15話 ※本作は私の頭のストレッチ第二弾のため感想欄は開けておりません。 (全話投稿完了後、開ける予定です) ※1/29 完結しました。 感想欄を開けさせていただきます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、 いただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきます。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

死にたがり令嬢が笑う日まで。

ふまさ
恋愛
「これだけは、覚えておいてほしい。わたしが心から信用するのも、愛しているのも、カイラだけだ。この先、それだけは、変わることはない」  真剣な表情で言い放つアラスターの隣で、肩を抱かれたカイラは、突然のことに驚いてはいたが、同時に、嬉しそうに頬を緩めていた。二人の目の前に立つニアが、はい、と無表情で呟く。  正直、どうでもよかった。  ニアの望みは、物心ついたころから、たった一つだけだったから。もとより、なにも期待などしてない。  ──ああ。眠るように、穏やかに死ねたらなあ。  吹き抜けの天井を仰ぐ。お腹が、ぐうっとなった。

当て馬の悪役令嬢に転生したけど、王子達の婚約破棄ルートから脱出できました。推しのモブに溺愛されて、自由気ままに暮らします。

可児 うさこ
恋愛
生前にやりこんだ乙女ゲームの悪役令嬢に転生した。しかも全ルートで王子達に婚約破棄されて処刑される、当て馬令嬢だった。王子達と遭遇しないためにイベントを回避して引きこもっていたが、ある日、王子達が結婚したと聞いた。「よっしゃ!さよなら、クソゲー!」私は家を出て、向かいに住む推しのモブに会いに行った。モブは私を溺愛してくれて、何でも願いを叶えてくれた。幸せな日々を過ごす中、姉が書いた攻略本を見つけてしまった。モブは最強の魔術師だったらしい。え、裏ルートなんてあったの?あと、なぜか王子達が押し寄せてくるんですけど!?

私の恋が消えた春

豆狸
恋愛
「愛しているのは、今も昔も君だけだ……」 ──え? 風が運んできた夫の声が耳朶を打ち、私は凍りつきました。 彼の前にいるのは私ではありません。 なろう様でも公開中です。

後に悪の帝王となる王子の闇落ちを全力で回避します!

花見 有
恋愛
どうして私は主人公側ではなく、敵国のルイーザ・セルビアに転生してしまったのか……。 ルイーザは5歳の時に前世の記憶が蘇り、自身が前世で好きだったゲームの世界に転生していた事を知った。 ルイーザはゲームの中で、カルヴァ王国のレオン国王の妃。だが、このレオン国王、ゲームの中では悪の帝王としてゲームの主人公である聖女達に倒されてしまうのだ。そして勿論、妃のルイーザも処刑されてしまう。 せっかく転生したのに処刑ないんて嫌!こうなったら、まだ子供のレオン王子が闇落ちするのを回避して、悪の帝王になるのを阻止するしかない!

王子好きすぎ拗らせ転生悪役令嬢は、王子の溺愛に気づかない

エヌ
恋愛
私の前世の記憶によると、どうやら私は悪役令嬢ポジションにいるらしい 最後はもしかしたら全財産を失ってどこかに飛ばされるかもしれない。 でも大好きな王子には、幸せになってほしいと思う。

処理中です...