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第10話

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 走って逃げた私達を、すぐに男達が追ってくる。
 すると私がレオンの手を引いていたはずが、いつの間にかレオンが私の手を引いて走っている事に気が付いた。
 力強く私の手を引き、でも私が転ばないように加減してくれている。

 あれ、いつの間にレオンの方が走るの早くなってたんだろう……。

 レオンに手を引かれて、逃げていると、周りの風景が怪しい町並みに変わっていくのに気が付いた。

 不味いわ。これ、絶対裏通りに来てる。

 そして、遂には行き止まりに追い詰められた私達は、ジリジリと壁際に追い詰められていた。

「へへっ、こんなに可愛いお嬢さん達が、この辺りをフラフラしてちゃあ、危ないよ」

 頬に傷のある男がニヤリとして言った。

 レオンはルイーザを背に隠すようにして、男達を睨みながら小声で言った。

「ルイーザ、僕が炎で奴らを燃やすから、ムブルに乗って逃げて」

「え!?駄目よ!一緒に逃げよう」

 するとレオンの瞳が今までにない鋭いものになる。

「じゃあ、僕が奴らを燃やし尽くしたら、迎えに来てよ」

 ルイーザは、レオンのその瞳と言葉に、悪の帝王となったレオンの姿が過ったーー

 だ、駄目!!

 ルイーザは咄嗟にレオンの腰を後ろから抱き締めた。
 それと、同時に建物の2階から飛び降りて来た人が、頬に傷のある男の頭を叩きながら着地した。

「いってー!!」

 頭を叩かれた頬に傷がある男は、涙目で2階から飛び降りてきた男を見た。

「痛いっすよ!リシェントさん!!」

「お前こそ、あんな言い方したら、怖がらせるだけだろうが!ただでさえ、怖い顔してのによう!」

 2階から飛び降りた男を見た瞬間、私は驚いた。

「赤い髪……」

 それは、彼がゲームの攻略対象キャラ、ゴートン・デイヴィスにどことなく似ていたからだった。

 ゴートン?いや、そんなはずない。この人はどう見ても成人しているし、ゴートンは今15歳のはずで、ホステラーノ国のデイヴィス侯爵家で、来年の王宮騎士の試験の為に修行しているはずだもの。

「怖がらせて、悪かったな。こいつ等、顔は怖いけど、そこまで悪い奴らじゃねーから。そこの少年もその物騒な魔力抑えてくんねーかな?」

 と赤い髪の男……リシェントは苦い顔をして言った。

 レオンの魔力が分かるって事は、あの人も魔力持ちなんだ。それにレオンが男の子だってのもバレてる。

 ルイーザは、レオンの服をチョイチョイと引っ張った。

「レオン、私達を襲ってくる気はないみたいよ」

 すると、レオンは鋭い視線が緩まり、代わりにルイーザの手を握った。

「どうして、僕達を追いかけてきたんだ!?」

「ぼ、僕!?」

 リシェント以外の男達が驚いていた。男の子だと気付いていたリシェントは動揺する素振りもなく、頬に傷のある男に聞いた。

「どうして追いかけたんだ?」

「あ、えーと、綺麗な女の子が二人でダズトのおっさんの質屋から出てきたんで、人攫いにでもあったら危ないと思って、声を掛けたんだが……。そうしたら、どんどん西区の裏通りの方に逃げてくから、余計危なくて追いかけたんだよ」

「え?あれで……?」

 思わず、ルイーザが言ってしまったのは仕方がない。だって、この人達がその人攫いみたいだったのだから。

「ああ、悪いな。こいつ等、顔が怖いから勘違いさせちまったよな」

 リシェントは軽く右手をあげて謝ってきた。
 その様がゴートンの謝り方に似ていて、私はジッとリシェントの顔を見つめる。

「お!?なんだ?なんだ?可愛いお嬢ちゃん!俺に惚れたか?」

 と軽口を叩くリシェントにまたも鋭い視線になるレオン。

「おっと!冗談だよ!少年!その危ねー魔力抑えて、抑えて」

「レオン、私あの人に話を聞きたいから、攻撃しないで」

「……分かったよ」

 レオンは不服そうに言ったが、さっきよりも瞳が穏やかになったので、多分もう危ない魔力は出ていないはずだ。

 それよりも彼がゴートンに似ているのも気になるけど……

「あなたは、リシェントさんっていうんですよね?」

 ラニアが教えてくれた西区の裏通りを仕切っているという男――

「ああ、そうだよ。え?俺、有名人?」

 とリシェントはおちゃらけて言った。

 もっと危険な感じかと思ったけど、そんなに悪い人には見えないわね。

「それで、君らは?一体何者なんだ?ただの平民の少年少女じゃないんだろう?それに、少年。お前の魔力は危険だ」

 先程のおちゃらけた様子とは違い、真面目な顔でそう言ったリシェントに私は少々驚いた。
 そして、リシェントはレオンを見据えてハッキリと言った。

「なあ、少年。その強大な魔力のコントロールに苦戦してんじゃねーの?気を付けねーとお前魔力に食われるぞ」

 その言葉にレオンは奥歯を噛み締めて、苦い顔になる。

 魔力に食われるってどういう事?もしかして、悪の帝王になる事に関係があるの?
 確かにこの間、レオンは魔力の力が強くなったと言っていた。この世界に魔力持ちの人間は多くは存在しないが、いないわけでもない。しかし、王宮ではレオンの為に、魔力の扱い方を教える教師を呼び寄せる事などは、してくれないのだ。だから、レオンは、今まで独自で本を読んで勉強するしかなかった。もし、この人が言うように、魔力に食われるなんて事があるのなら、どうしたらそれを回避出来るのか聞かなくては……。

「あなたなら、それを防ぐ事が出来るの?」

 ルイーザは、リシェントを真っ直ぐに見つめて聞いた。

「防ぐ事が出来るかどうかは、少年次第。でも俺はその方法を教えてやる事は出来る。知りたいなら、付いてきな」

 そう言ってリシェントは、裏通りの奥へと進んで行くので、私達はその後を追った――



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