8 / 17
第8話
しおりを挟む
ある日のセリビア公爵邸の厨房の裏庭では、その場所には似つかわしくないルイーザの姿があった――
「え!?お米が食べられるお店があるの!?」
「は、はい。平民向けの食堂でしたら、大体お米が置いてありますよ。……あの、ルイーザお嬢様はお米も食べられるんですか?」
下働きの女性の質問にルイーザは笑顔を見せた。
「えーと、まだ食べた事はないんだけど、すっごく興味がある!もう、どうして今まで気付かなかったんだろう!」
お米に関しては、基本中の基本として平民の食べ物で貴族が食べるものではないって習ったから、思いつかなかったわ!そうよ。この世界にはお米があるのよー!!
「それにしても、ルイーザお嬢様が、私なんかとお話されていて、よろしいのですか?」
「いいの!いいの!私もっと貴方の話を聞きたいわ!」
レオンに今度、二人で王都を探検する約束をしたものの、私も数える程しか王都に行った事がなく、馬車に乗ってお母様に連れられ舞台を見に行ったくらいなのだ。だから、王都の様子はさっぱり分からなかった。なので、先ずは情報収集する為に、屋敷で働いている平民に話を聞いていたのだった。
「それで、危険な通りとかあるの?近づいちゃ駄目な地区とか」
私はお父様の書斎からこっそり拝借した王都の地図を見せながら、平民の使用人女性ラニアに聞いた。
「えーと、西区は治安が悪いですから私達もあまり近付きませんね。特に西区の裏通りは危険です。その辺りを仕切ってるって噂のリシェントって男はヤバいって……あ!」
急に私の後ろの方を見て、青い顔になり焦りだしたラニアに私も嫌な予感がして、振り返った。
げっ!お母様!!
などと、思った事はお首にも出さずに、ルイーザは母の方を振り返って言った。
「あら、お母様。こんな所でどうされたのですか?」
ここは、厨房の裏庭で、普通なら屋敷の主人らが来るような場所ではない。……まあ、それは私も同じだが。
「貴方が何やらまたおかしな事を始めたと聞いて、様子を見に来たのよ」
ああ、ラニア以外にも話を聞いたから誰かからお母様に伝わったのか……。
「おかしな事?私は今、社会勉強をしている所ですわ。私は、将来レオン王子の妃になるんですもの。この国の事……。先ずは身近な王都の平民の暮らしについて、学んでいた所です」
「そんな事は、家庭教師に教わっているでしょう?分からない事があるのなら、教師に聞きなさい」
「ええ、もちろん。幼い頃からお母様が優秀な先生方を私に付けて下さり、多くの知識を学ぶ機会を与えて下さいましたから、この国の平民の暮らしについてももちろん分かっております。ですから、もう教師から教わる事は、全て私の知識となっておりますので、更に知識を深める為に直に平民の方にお話を聞いていたのです」
「へえ、そうなの。それで?その平民の使用人から何か身になるお話は聞けたの?」
とお母様の視線はラニアを見下すように見ていた。
なので、私はその視線を遮るようにズイッとお母様の前に出た。
「はい!とっても貴重なお話を伺いましたわ!お母様、知っておりますか?王都の食堂ではお米が食べられるんですのよ!」
「お米?そんな物は庶民の食べ物よ。私達貴族が口にするような物じゃないわ」
「お母様!そんな事を言っていては、いけませんよ!お米ってすっごく美味しい!……と思うんです!お米があれば料理の幅も広がりますわ。これってビジネスになると思うんです」
「ビジネス?貴方、公爵令嬢が仕事の話などはしたないわよ」
お母様が、そう冷たく言うのでルイーザはにっこりと微笑んだ。
「お母様、社交界では殿方と対等にビジネスの話をされる貴婦人も増えてきたと、優秀な先生から教わりましたわ。実際、カルメラ王妃様も自身のファッションブランドをお持ちではないですか。これからの令嬢は仕事の話も出来る方がより社交界では優位になれますわ」
これにはお母様も返す言葉がなかったようで
「程々にしなさいよ」
と言って去って行ったのだった。
そして、私はラニアや他の下働きの使用人や屋敷にくる商人に話を聞いて、着々と王都探検の準備を進めていったのだった――
「え!?お米が食べられるお店があるの!?」
「は、はい。平民向けの食堂でしたら、大体お米が置いてありますよ。……あの、ルイーザお嬢様はお米も食べられるんですか?」
下働きの女性の質問にルイーザは笑顔を見せた。
「えーと、まだ食べた事はないんだけど、すっごく興味がある!もう、どうして今まで気付かなかったんだろう!」
お米に関しては、基本中の基本として平民の食べ物で貴族が食べるものではないって習ったから、思いつかなかったわ!そうよ。この世界にはお米があるのよー!!
「それにしても、ルイーザお嬢様が、私なんかとお話されていて、よろしいのですか?」
「いいの!いいの!私もっと貴方の話を聞きたいわ!」
レオンに今度、二人で王都を探検する約束をしたものの、私も数える程しか王都に行った事がなく、馬車に乗ってお母様に連れられ舞台を見に行ったくらいなのだ。だから、王都の様子はさっぱり分からなかった。なので、先ずは情報収集する為に、屋敷で働いている平民に話を聞いていたのだった。
「それで、危険な通りとかあるの?近づいちゃ駄目な地区とか」
私はお父様の書斎からこっそり拝借した王都の地図を見せながら、平民の使用人女性ラニアに聞いた。
「えーと、西区は治安が悪いですから私達もあまり近付きませんね。特に西区の裏通りは危険です。その辺りを仕切ってるって噂のリシェントって男はヤバいって……あ!」
急に私の後ろの方を見て、青い顔になり焦りだしたラニアに私も嫌な予感がして、振り返った。
げっ!お母様!!
などと、思った事はお首にも出さずに、ルイーザは母の方を振り返って言った。
「あら、お母様。こんな所でどうされたのですか?」
ここは、厨房の裏庭で、普通なら屋敷の主人らが来るような場所ではない。……まあ、それは私も同じだが。
「貴方が何やらまたおかしな事を始めたと聞いて、様子を見に来たのよ」
ああ、ラニア以外にも話を聞いたから誰かからお母様に伝わったのか……。
「おかしな事?私は今、社会勉強をしている所ですわ。私は、将来レオン王子の妃になるんですもの。この国の事……。先ずは身近な王都の平民の暮らしについて、学んでいた所です」
「そんな事は、家庭教師に教わっているでしょう?分からない事があるのなら、教師に聞きなさい」
「ええ、もちろん。幼い頃からお母様が優秀な先生方を私に付けて下さり、多くの知識を学ぶ機会を与えて下さいましたから、この国の平民の暮らしについてももちろん分かっております。ですから、もう教師から教わる事は、全て私の知識となっておりますので、更に知識を深める為に直に平民の方にお話を聞いていたのです」
「へえ、そうなの。それで?その平民の使用人から何か身になるお話は聞けたの?」
とお母様の視線はラニアを見下すように見ていた。
なので、私はその視線を遮るようにズイッとお母様の前に出た。
「はい!とっても貴重なお話を伺いましたわ!お母様、知っておりますか?王都の食堂ではお米が食べられるんですのよ!」
「お米?そんな物は庶民の食べ物よ。私達貴族が口にするような物じゃないわ」
「お母様!そんな事を言っていては、いけませんよ!お米ってすっごく美味しい!……と思うんです!お米があれば料理の幅も広がりますわ。これってビジネスになると思うんです」
「ビジネス?貴方、公爵令嬢が仕事の話などはしたないわよ」
お母様が、そう冷たく言うのでルイーザはにっこりと微笑んだ。
「お母様、社交界では殿方と対等にビジネスの話をされる貴婦人も増えてきたと、優秀な先生から教わりましたわ。実際、カルメラ王妃様も自身のファッションブランドをお持ちではないですか。これからの令嬢は仕事の話も出来る方がより社交界では優位になれますわ」
これにはお母様も返す言葉がなかったようで
「程々にしなさいよ」
と言って去って行ったのだった。
そして、私はラニアや他の下働きの使用人や屋敷にくる商人に話を聞いて、着々と王都探検の準備を進めていったのだった――
0
お気に入りに追加
544
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
逆行転生した悪役令嬢だそうですけれど、反省なんてしてやりませんわ!
九重
恋愛
我儘で自分勝手な生き方をして処刑されたアマーリアは、時を遡り、幼い自分に逆行転生した。
しかし、彼女は、ここで反省できるような性格ではなかった。
アマーリアは、破滅を回避するために、自分を処刑した王子や聖女たちの方を変えてやろうと決意する。
これは、逆行転生した悪役令嬢が、まったく反省せずに、やりたい放題好き勝手に生きる物語。
ツイッターで先行して呟いています。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
闇黒の悪役令嬢は溺愛される
葵川真衣
恋愛
公爵令嬢リアは十歳のときに、転生していることを知る。
今は二度目の人生だ。
十六歳の舞踏会、皇太子ジークハルトから、婚約破棄を突き付けられる。
記憶を得たリアは前世同様、世界を旅する決意をする。
前世の仲間と、冒険の日々を送ろう!
婚約破棄された後、すぐ帝都を出られるように、リアは旅の支度をし、舞踏会に向かった。
だが、その夜、前世と異なる出来事が起きて──!?
悪役令嬢、溺愛物語。
☆本編完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。
風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。
※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。
平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜
本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」
王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。
偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。
……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。
それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。
いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。
チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。
……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。
3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる