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第8話

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 ある日のセリビア公爵邸の厨房の裏庭では、その場所には似つかわしくないルイーザの姿があった――

「え!?お米が食べられるお店があるの!?」

「は、はい。平民向けの食堂でしたら、大体お米が置いてありますよ。……あの、ルイーザお嬢様はお米も食べられるんですか?」

 下働きの女性の質問にルイーザは笑顔を見せた。

「えーと、まだ食べた事はないんだけど、すっごく興味がある!もう、どうして今まで気付かなかったんだろう!」

 お米に関しては、基本中の基本として平民の食べ物で貴族が食べるものではないって習ったから、思いつかなかったわ!そうよ。この世界にはお米があるのよー!!

「それにしても、ルイーザお嬢様が、私なんかとお話されていて、よろしいのですか?」

「いいの!いいの!私もっと貴方の話を聞きたいわ!」

 レオンに今度、二人で王都を探検する約束をしたものの、私も数える程しか王都に行った事がなく、馬車に乗ってお母様に連れられ舞台を見に行ったくらいなのだ。だから、王都の様子はさっぱり分からなかった。なので、先ずは情報収集する為に、屋敷で働いている平民に話を聞いていたのだった。

「それで、危険な通りとかあるの?近づいちゃ駄目な地区とか」

 私はお父様の書斎からこっそり拝借した王都の地図を見せながら、平民の使用人女性ラニアに聞いた。

「えーと、西区は治安が悪いですから私達もあまり近付きませんね。特に西区の裏通りは危険です。その辺りを仕切ってるって噂のリシェントって男はヤバいって……あ!」

 急に私の後ろの方を見て、青い顔になり焦りだしたラニアに私も嫌な予感がして、振り返った。

 げっ!お母様!!

 などと、思った事はお首にも出さずに、ルイーザは母の方を振り返って言った。

「あら、お母様。こんな所でどうされたのですか?」

 ここは、厨房の裏庭で、普通なら屋敷の主人らが来るような場所ではない。……まあ、それは私も同じだが。

「貴方が何やらまたおかしな事を始めたと聞いて、様子を見に来たのよ」

 ああ、ラニア以外にも話を聞いたから誰かからお母様に伝わったのか……。

「おかしな事?私は今、社会勉強をしている所ですわ。私は、将来レオン王子の妃になるんですもの。この国の事……。先ずは身近な王都の平民の暮らしについて、学んでいた所です」

「そんな事は、家庭教師に教わっているでしょう?分からない事があるのなら、教師に聞きなさい」

「ええ、もちろん。幼い頃からお母様が優秀な先生方を私に付けて下さり、多くの知識を学ぶ機会を与えて下さいましたから、この国の平民の暮らしについてももちろん分かっております。ですから、もう教師から教わる事は、全て私の知識となっておりますので、更に知識を深める為に直に平民の方にお話を聞いていたのです」

「へえ、そうなの。それで?その平民の使用人から何か身になるお話は聞けたの?」

 とお母様の視線はラニアを見下すように見ていた。
 なので、私はその視線を遮るようにズイッとお母様の前に出た。

「はい!とっても貴重なお話を伺いましたわ!お母様、知っておりますか?王都の食堂ではお米が食べられるんですのよ!」

「お米?そんな物は庶民の食べ物よ。私達貴族が口にするような物じゃないわ」

「お母様!そんな事を言っていては、いけませんよ!お米ってすっごく美味しい!……と思うんです!お米があれば料理の幅も広がりますわ。これってビジネスになると思うんです」

「ビジネス?貴方、公爵令嬢が仕事の話などはしたないわよ」

 お母様が、そう冷たく言うのでルイーザはにっこりと微笑んだ。

「お母様、社交界では殿方と対等にビジネスの話をされる貴婦人も増えてきたと、優秀な先生から教わりましたわ。実際、カルメラ王妃様も自身のファッションブランドをお持ちではないですか。これからの令嬢は仕事の話も出来る方がより社交界では優位になれますわ」

 これにはお母様も返す言葉がなかったようで

「程々にしなさいよ」

 と言って去って行ったのだった。
 そして、私はラニアや他の下働きの使用人や屋敷にくる商人に話を聞いて、着々と王都探検の準備を進めていったのだった――
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